DGA(溶存ガス分析)とは何か

― 油入変圧器の“内部異常を可視化する診断技術” ―

はじめに

油入特高変圧器は、電力インフラの中核を担う極めて重要な設備です。

一方で、その内部は密閉されており、外部から直接状態を確認することが困難です。

この課題に対して、長年にわたり世界中で活用されてきた診断技術が

**DGA(Dissolved Gas Analysis:溶存ガス分析)**です。

DGAは、変圧器内部で発生する異常を油中に溶け込んだガスの成分から推定する技術であり、

いわば

「見えない内部故障を“ガス”という痕跡から読み解く手法」

と言えます。

DGAの基本原理

油入変圧器の内部では、異常が発生すると絶縁油や絶縁紙が分解され、特定のガスが発生します。

このガスは油中に溶解し、時間とともに蓄積されます。

DGAはこのガスを採取・分析し、異常の種類と進行度を診断します。

■ 主な発生ガスと意味

ガス:主な原因:意味合い

H₂(水素):軽微な放電:初期異常の兆候

CH₄(メタン):低温過熱:軽度な熱異常

C₂H₆(エタン):中温過熱:油の劣化進行

C₂H₄(エチレン):高温過熱:危険な温度上昇

C₂H₂(アセチレン):アーク放電:重大故障の兆候

CO / CO₂:絶縁紙の劣化:巻線絶縁の劣化

特に重要なのは、

  • アセチレン(C₂H₂) → アーク発生
  • エチレン(C₂H₄) → 高温異常
  • CO/CO₂ → 紙絶縁の劣化

であり、これらは運用判断に直結します。

なぜDGAが重要なのか

DGAの最大の価値は、故障の“予兆”を捉えられる点にあります。

■ 従来の問題点

  • 外観点検では内部異常が分からない
  • 突発故障は大規模停電・設備損壊につながる
  • 開放点検はコスト・工期ともに重い

■ DGAによる解決

  • 無停止で診断可能
  • 異常の早期検出が可能
  • 計画保全への転換が可能

つまりDGAは、「事後対応から予防保全へ移行するための中核技術」と言えます。

診断手法(代表的な評価方法)

DGAは単にガス量を見るだけでなく、比率や組み合わせから異常を特定します。

4.1 ガス比率法(Ratio Method)

代表例:

  • Rogers比
  • IEC比率法

→ ガスの組み合わせで異常種別を分類

4.2 デュバル三角法(Duval Triangle)

ガス比率を三角図にプロットし、異常を視覚的に分類

  • PD(部分放電)
  • D1/D2(放電)
  • T1〜T3(熱故障)

→ 現在最も広く使われる実務的手法

4.3 トレンド管理(最重要)

実務ではむしろこちらが重要です。

  • ガスの増加速度
  • 急激な変化
  • 長期的な傾向
  • 絶対値よりも「変化」が重要

オンラインDGAとオフラインDGA

■ オフラインDGA

  • 定期採油して分析
  • コスト低い
  • 反応が遅れる可能性あり

■ オンラインDGA

  • 常時監視(リアルタイム)
  • 異常即検知
  • データセンター案件で急速に普及

データセンター案件との関係(重要ポイント)

外資系DCではDGAの扱いが一段階シビアになります。

■ 特徴

  • 停電許容度が極めて低い
  • 予兆管理が前提
  • 状態監視の高度化(Condition Based Maintenance)

そのため、

  • オンラインDGAの採用
  • ETOSやSASとの連携
  • アラームの階層化

などが標準化しつつあります。

IEC 61850 / SASとの関係

DGAは単体機器ではなく、SASの一部として扱われるケースが増加しています。

■ 典型構成

  • DGA装置 → IEC 61850対応IED
  • SASへデータ送信(GOOSE / MMS)
  • BCUやSCADAで監視

■ 主な信号

  • ガス濃度(H₂、C₂H₂等)
  • トータルガス
  • アラーム/トリップ
  • トレンドデータ

つまりDGAは、

単なる分析装置から“デジタル変電のセンサ”へ進化していると言えます。

過渡期における課題・トラブル

DGAは万能ではなく、過渡期には以下の問題もありました。

■ 誤診断

  • ガス混合による誤判定
  • 外部要因(補油など)の影響

■ 運用の難しさ

  • 解釈に専門知識が必要
  • ベンダー間で評価差

■ オンラインDGAの課題

  • センサーの信頼性
  • キャリブレーション問題
  • コスト

海外動向

DGAは完全にグローバル標準技術です。

■ 規格

IEC(IEC 60599)

IEEE(C57.104)

■ 傾向

  • オンライン化の加速
  • AI診断の導入
  • ビッグデータ活用

特に海外では、DGA+AIによる予知保全が現実的に運用され始めています。

今後の展望

DGAは今後さらに重要性を増していきます。

■ 進化の方向

  • AI診断の高度化
  • SASとの完全統合
  • 無人変電所対応

最終的には、「変圧器が自ら異常を判断し、運用にフィードバックする世界」に近づいていきます。

まとめ

DGAとは、

  • 油中ガスから内部異常を診断する技術であり
  • 予防保全を支える中核ツールであり
  • デジタル変電の重要なセンサの一つである

と言えます。そして実務的には、「ガスの種類」よりも「変化を見る力」が重要です。

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