―電気設備の“当たり前”になりつつある環境配慮型ケーブルの全貌―
エコケーブルとは
エコケーブル(ECO Cable)とは、環境負荷を低減するために設計された電力・通信ケーブルを総称した名称です。日本電線工業会(JCIA)が定める「エコケーブルガイドライン(ECOマーク認証)」に準拠しており、主に次の3点を満たすものを指します。
無ハロゲン化
塩素・臭素などのハロゲン系物質を含まない絶縁材・シースを採用。→ 火災時の有毒ガス・腐食性ガスの発生が極めて少ない。
リサイクル性の高さ
材料分離がしやすく再資源化しやすい構造。→ 撤去工事や更改工事での産廃削減につながる。
環境負荷物質の削減
鉛・カドミウムなどの EU-RoHS 対応と同様、有害重金属の不使用。
もともとは FA・プラント・公共建築物で普及しはじめましたが、現在は データセンター(IDC) や 特高受変電設備の内部配線にも多く採用され、ほぼ標準仕様に近づいています。
エコケーブルが必要とされる背景
■(1)火災時の安全性
従来のPVCケーブルは燃焼時に塩化水素ガス(HCl)を発生し、
・視界ゼロ
・配電盤・精密機器が腐食
・避難困難
など大きなリスクがありました。
特にIDC・制御設備では、火災が配線を介して「二次被害」を起こす可能性があるため、無ハロゲン化は極めて重要。
■(2)企業のCSR・ESG対応
建設業界・製造業・データセンターでは、温室効果ガス削減やLCCO₂削減が企業方針として求められています。
ケーブルは大量に使用され、製造・廃棄の環境負荷が高いため、エコケーブルへの置き換えは “最も簡単で効果が大きい環境対策” として注目されています。
■(3)法規制とガイドライン
建築物の環境性能評価(CASBEE)・ZEB/ZEH・JIS/CISPR対応の文脈でも、環境配慮型設備の採用は基本要件。
特に「大型データセンター」や「公共インフラ」では、仕様書の記載に
“Halogen Free Cable shall be used.”
と明記されることが増えています。
エコケーブルの種類と用途
◆1)電力用(600V/1000V ケーブル)
- EM-EEF
- EM-IE
- EM-FE
- EM-CV(耐燃性)
- EM-CVT(高容量)
特に EM という接頭辞は “Eco & Mechanical property improved” を指します。
◆2)弱電・計装系
LANケーブル(Cat6/Cat6A の LSZH)
光ファイバケーブル(LSZH シース)
計装用ツイストペア(EM-CT、EM-CE)
IDCや変電所でも、GOOSE/MMSネットワークやSCADA伝送で LSZH ケーブルはほぼ必須になりつつあります。
エコケーブルのメリット
■(1)火災時に「機器を守る」
無ハロゲンケーブルは燃焼時に発煙量が少なく、腐食性ガスが出ないため、
・サーバ
・リレー盤
・PLC/IED/BCU
・制御ケーブル端子
・受変電設備の金属部
を守ることにつながります。
IDCや変電所は機器密度が高く、煙や腐食ガスが大敵なので、これは非常に大きいメリット。
■(2)産廃コストの削減
リサイクルしやすい構造のため、撤去時の処分分類が簡単でコストが下がる。
今後の 2030 年代の技術者不足を見越しても、撤去容易性は重要なポイント。
■(3)環境配慮を「見える化」
施主(特に外資IDC)からすると、
「仕様書に何を採用したか」= ESG 対応の証拠
として扱われ、工場におけるPRにも活用できます。
エコケーブルを使用する際の注意点
ここが現場的に最も重要です。
【注意点①】曲げ半径・施工性が通常のPVCと異なる
LSZH(Low Smoke Zero Halogen)材料は、PVCより硬く、曲げにくい傾向があります。
そのため:
- 施工時の曲げ半径が規格で厳しめ
- ダクト内の引き通しで摩擦が大きい
- 冷えた冬場は特に硬い
→ 長距離配線・高密度ルートでは、あらかじめ設計段階でルート幅を確保する必要があります。
【注意点②】同じ太さでも許容電流が若干異なる場合がある
エコケーブルは材料特性の違いから、発熱特性や許容温度が異なる場合があります。
特に 600V/1000V EM 系ケーブルでは、
許容電流
温度上昇
が微妙に変わることがあるため、メーカーのカタログ値で再確認が必要。
IDCや変電所では、束ね配線やケーブルラック高密度化で温度上昇が発生しやすいため特に重要。
【注意点③】耐油性・耐薬品性はPVCより弱い場合がある
エコケーブルは“環境対応”を優先しているため、
- 油
- 溶剤
- 潤滑剤
に対して、PVCより弱いケースがあります。
FAライン・工場・ポンプ室など油分が多い環境では、
「耐油仕様のエコケーブル」を別途選ぶ必要があります。
【注意点④】価格が若干高い
無ハロ素材やリサイクル構造を持つため、一般品より価格が上がる傾向があります。
ただし「建物寿命×設備更改×ESG評価」を考えると、トータルコスト(LCC)ではむしろ安くなるケースもあります。
【注意点⑤】エコケーブル=万能ではない
エコケーブルはあくまで
“安全性と環境性を高めた材料を使ったケーブル”
であって、
- 火災耐性
- 耐熱性
- 機械的強度
などを大きく向上させたものではありません。
特にデータセンター・変電所では、難燃ケーブル/耐火ケーブルと混同しないよう注意が必要です。
まとめ
エコケーブルは、「将来の電気設備を支える、環境配慮型ケーブルの新しい標準」と呼べる存在になりました。
- 無ハロゲン化で安全性が高い
- 産廃削減・ESGに貢献
- データセンター・受変電設備でも標準化
ただし施工性・耐油性・許容電流には要注意
というポイントを押さえることで、設計者・施工者・保守担当者が
“正しい場面で正しいケーブルを選ぶ”
ことが可能になります。
エコケーブルは単なる環境配慮だけでなく、機器を守り、作業者を守り、建物を守る“実用価値の高いケーブル”
として、今後も導入が拡大していくでしょう。



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