なぜデジタル変電が進まなかったのか

デジタル変電がなかなか進まなかった背景の一端としてマージングユニットの性能が上げられます。

マージングユニット(MU)の性能と実用化のタイミング

IEC 61850におけるマージングユニットは、一次機器から取得した電流・電圧信号をサンプリング値(Sampled Value: SV)に変換してイーサネットで送信する装置です。

この機能は理論的には2000年代初期から規格化されていましたが、実際のフィールドで使えるレベルに達したのはここ5〜7年ほどと言われます。

主な理由

高精度A/D変換器と時刻同期精度

μs(マイクロ秒)単位でサンプリングを同期させる必要があり、IEEE 1588/PTPなどの高精度時刻同期技術が成熟するまで実用化が難しかった。

ノイズ・温度安定性

変電所の高電磁環境や温度変動下での安定した信号品質を確保できるA/D変換モジュールが限られていた。

ネットワーク負荷・ジッタ対策

SV通信は高速・大容量(4kHz×3相など)のため、イーサネットスイッチの性能やQoS(優先制御)の信頼性が整うまで課題が多かった。

結果として、**「机上では成立しても、実際にはノイズや遅延で不安定」**という評価が長く続いていたのです。

保護装置・BCUとのインターフェースの成熟遅れ

MUが送るSV信号を受けて動作する**保護IEDやBCU(ベイコントロールユニット)**側も、当初はIEC 61850-9-2LE(Light Edition)対応が不十分でした。

そのため、相互接続(IOP)試験での互換性が取れず、ベンダー間接続が困難でした。

近年になってようやく、以下が整備されました:

IEC 61869シリーズ(計測機器規格)の整合性

UCAIug(IEC 61850認証組織)による試験体系

国内外でのIOP試験イベントの実施(2018〜)

この結果、**MU→IED→BCU間の通信が「再現性をもって動く」**ようになり、ようやく実運用レベルに達したという背景があります。

国内における遅れの要因

日本では以下の要因が重なり、海外より遅れた面があります。

既存のハードシーケンス・リレー文化の根強さ

「有接点で確実動作する」思想が強く、サンプリング値伝送やGOOSE制御への信頼性が低かった。

標準化・検証環境の遅れ

欧州のようなIEC 61850テストベンチや認証機関が国内にほとんどなかった。

MU単体の価格・調達リスク

初期は外資(ABB, Siemens, GE)製に頼らざるを得ず、価格や納期リスクが大きかった。

最近の変化:MU性能の実用レベル化

2020年代に入り、以下のような進展でようやく「使える」段階に。

項目

改善内容

時刻同期:IEEE 1588 PTPv2対応、μs級安定

通信品質:VLAN/QoS対応スイッチの標準化

信号処理:FPGA・DSP性能向上により低遅延化

機能統合:MU+簡易BCU化(統合MU/IED登場)

まとめ:MUの性能進化がデジタル変電の「解禁条件」

したがって、マージングユニットの性能が実用レベルに達したことは、

まさにデジタル変電普及の“物理的ボトルネックが解けた”転換点といえます。

今後は、MU性能の向上により「計測の信頼性」が担保され、

ようやく上位の保護・監視・保守DX(データ解析、遠隔保守)に焦点を移せる段階に入ったと考えられます。

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