なぜ IEC 61850 に否定的な意見が出るのか

― 恐れる必要はなく、むしろ日本の現場にこそ適した標準である ―

IEC 61850という国際規格は、受変電設備のデジタル化を一気に加速させる鍵といわれる一方で、現場ではしばしば否定的な声や慎重論が語られます。「複雑で難しそう」「トラブルが怖い」「従来方式で十分」「海外仕様で日本に合わないのでは」——こうした意見は決して珍しいものではありません。しかし、これらの懸念には理由があり、多くは“未知への不安”や“過去の慣習とのギャップ”から生まれているもので、技術そのものの欠陥を指摘するものではありません。

むしろ、IEC 61850は日本の重電・電力インフラの特性を踏まえると、海外よりも“日本こそ最も恩恵を受けられる”規格です。本稿では、否定的な意見が生まれる背景を丁寧に整理しつつ、必要以上に恐れることはないという視点、そしてIEC 61850が日本の現場でこそ真価を発揮するという観点を示します。

なぜ否定的な意見が出るのか

1-1. 従来の電気的インターロックやハード接点が「長く信頼されてきた歴史」

日本の電力・プラント分野は、世界でも稀にみる極端な信頼性文化を持っています。

・誤動作ゼロ

・停電ゼロ

・ミスゼロ

この文化のもとで、継電器・保護盤・制御盤は数十年にわたり堅牢な実績を積み上げてきました。

したがって「ハード接点の実績に勝てるのか?」という疑問が湧くのは自然な反応です。否定的な声は“過剰な保守性”ではなく、あくまで「歴史的に成功してきた実務」から生まれているものであり、現場目線として極めて妥当です。

1-2. 新規格に対する情報不足と経験の少なさ

IEC 61850は標準化こそ進んでいるものの、国内では「使いこなせる技術者がまだ少ない」という現実があります。

経験者が少ない → トラブル事例が共有されにくい → 余計に不安

という構造が否定意見を生みやすくします。

1-3. 検証・試験のイメージが湧きにくい

GOOSE・MMS・SVといった通信が中心となるため、

「通信の遅延は?」「パケットロスは?」

「ネットワーク冗長は?」「サイバー対策は?」

といった従来とは違う観点での確認が必要になります。新しい視点に慣れていない段階では、どうしても「複雑に感じてしまう」だけで、本質的に難しいわけではありません。

恐れる必要はない ― IEC 61850 は“実績不足ではなく、むしろ歴史が浅いだけ”

IEC 61850は“これからのもの”ではありません。

海外では20年以上にわたり大規模な実績があり、米軍・欧州電力・IDC・再エネ大規模サイトなど、最もトラブル許容度の低い分野で普通に使われています。

つまり、「怖い」「未知」ではなく、

単に日本での普及が遅かっただけ

というのが実情です。

そして、実績の厚みはこれから日本で積み上げられる段階にあります。今取り組む技術者ほど、10年後の標準化の中心になる人材です。

むしろ“今までの時間の浪費”を無くせる規格である

IEC 61850を正しく導入すると、従来の受変電設備で発生していた以下の“時間のロス”が一気に削減されます。

● 大量のハード配線・ケーブル敷設

→ 誤配線リスク、自動試験の難しさ、工期の延伸

→ IEC 61850ではデータモデルに基づく通信で大幅減

● 試験時の手作業依存

→ 接点飛ばし、結線確認、移相器、試験器の段取り

→ IEC 61850は設定データ+通信シミュレーションで高速化

● 改修・増設時の現場作業負荷

→ ケーブル追跡、制御盤内のスペース問題

→ ソフトロジック化により現地作業の最小化

“安全性を削って時短する”のではなく、

無駄な工程・非効率な工程を無くしていく

という考え方です。日本の現場ほど、この恩恵は絶大です。

海外より日本向きの規格である理由

4-1. 日本は「品質・信頼性文化」と「緻密な運用」が両立している

IEC 61850は“設定の透明性”“ロジックの可視化”“データモデルによる一貫管理”が強みです。

これは、品質管理・文書管理・変更管理を極めて重視する日本の文化と相性が良く、むしろ海外より丁寧に運用できる国と言えます。

4-2. ベンダーが真面目で、標準化を正しく理解して取り組む

米国は“強引に先に進める”欧州は“規格優先で攻める”文化がありますが、日本は“試験・検証・品質保証を徹底的に詰める”という姿勢です。

IEC 61850はこの「丁寧さ」に強く応える規格であり、日本メーカーの設計・試験体制と驚くほど整合します。

4-3. 労働人口の減少と保守人材の不足にこそ効く

日本は特に保守・運転要員の減少が深刻で、**“人手を使わずに信頼性を上げる”**というテーマとIEC 61850が完全に一致しています。

否定派を責める必要はない

IEC 61850に慎重になる技術者は、

● 現場の安全性を本気で守ってきた人

● トラブルの重さを知っている人

● 受電停止の責任を負ってきた人

であり、むしろ最も尊敬すべき存在です。

IEC 61850は、こうした技術者の「安全性へのこだわり」と矛盾しません。

むしろ、過去の知見をより安全でスマートな設計へ移行させる器になります。

否定派の意見は“足を引っ張る声”ではなく、

導入をより堅牢にするための貴重な視点です。

結論 ― IEC 61850は日本の次の“当たり前”になる

否定論や慎重論が出てくるのは健全な証拠です。

新しい技術には必ず「不安が先に立つ」時期があり、日本はそのフェーズにいるだけです。

しかし、技術としての成熟度は十分であり、

日本企業・日本の技術者が本気で取り組めば、海外以上の品質で運用できる規格です。

恐れる必要はありません。

むしろ、

IEC 61850を使いこなすことで、これまで費やしてきた膨大な“非効率な時間”が削減され、

日本の受変電設備はさらに強く、スマートに進化できます。

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