ケーブル単価が上がり続けている理由は「原価になる“ほぼ全部の要素”が、ゆっくり or 急激に値上がりしているから」です。
原材料(銅・アルミ・樹脂)が高くなっている理由と製造コスト(人件費・電気代・設備投資)の上昇かつ物流・在庫コストの上昇。規格・品質要求が厳しくなっている影響から需要構造の変化(再エネ・データセンター等)を上げていきます。それで「じゃあ今後どうつき合うか?」というまとめという流れで整理してみます。
1. 原材料そのものが高くなっている
1-1. 銅やアルミの国際価格が上昇基調
電力ケーブル・制御ケーブルの原価で一番効くのは、やはり「導体」です。導体材料である銅・アルミは、ロンドン金属取引所(LME)などで取引される“国際商品”なので、世界情勢・資源投資・為替レートの影響をもろに受けます。
- 世界的な電動化(EV・再エネ・送変電設備増強)で銅需要が増えている
- 新興国のインフラ整備(送電網・鉄道・都市化)で電線需要が増えている
- 資源メジャーの採掘投資が急には増やせず、供給側がすぐには追いつかない
- 円安になると、ドル建ての銅・アルミ価格がそのまま“輸入コスト増”として効いてくる
この結果、ケーブルメーカーは「銅建値(銅ベース価格)」に連動して販売価格を頻繁に見直さざるを得ません。現場感覚でも、「最近、見積りの有効期限がやたら短い」と感じる方も多いと思います。
1-2. 絶縁体・シース用の樹脂もじわじわ値上がり
ケーブルの絶縁体やシースには、PVC(塩ビ)、架橋PE、難燃性樹脂など、石油由来の材料が大量に使われています。
- 原油価格の変動 → 樹脂材料コストに直結
- 環境規制対応(RoHS、REACH 等)で、鉛フリー・ハロゲンフリーなどの高付加価値樹脂に置き換え
- 難燃性や耐熱性を上げるための添加剤コスト
原油価格が落ち着いても、環境対応・安全規格対応で“単価が戻らない”構造になりつつあります。
2. 作る側のコストも確実に上がっている
2-1. 人件費の上昇
ケーブルは、完全自動化された「工場生産品」とはいえ、
- 製造ラインの段取り
- 検査
- ドラム巻き
- 出荷前の検品や書類作成
など、現場の人手が必要な工程がまだまだ多い製品です。日本国内でも最低賃金は毎年上昇しています。物流・製造の人材確保が難しくなり、時給・待遇を上げざるを得ない。その結果、「材料は同じでも、人件費分だけじわっと値上がり」という状態が常態化しています。
2-2. 電気代・エネルギーコストの上昇
ケーブル工場は、かなりの“電力多消費型”です。
- 導体の伸線・撚線
- 押出機による絶縁被覆
- 加硫・架橋のための加熱
- 試験設備の電力
等、製造プロセスのあちこちで大量の電気と熱を使います。再エネ比率アップやエネルギー市場の変動で、産業用電力単価が上がっていることも、ケーブル単価上昇の背景にあります。
2-3. 設備投資・保全コスト
品質を安定させるためには、
- 高精度の押出機・撚線機
- 絶縁厚のオンライン測定器
- 高電圧試験設備・部分放電測定器
など、それなりに高価な設備投資が必要です。
さらに、安全規格のアップデートやデジタル化(トレーサビリティ強化など)に対応するため、システム投資も増えています。こうした設備投資は、結局製品単価に少しずつ載せて回収するしかありません。
3. 物流・在庫のコストが跳ねている
3-1. 配送コストの上昇(燃料・人件費)
ケーブルは「重くてかさばる」「長尺もの」という物流的には厄介な商品です。
- トラックドライバーの人手不足と働き方改革
- 軽油価格の高止まり
- 長距離輸送では高速料金も無視できない
これらが積み重なって、「運賃込み価格」で見たときの単価押し上げ要因になっています。
3-2. 多品種少量・短納期化に伴う在庫負担
最近は、現場の多様化・納期短縮ニーズから、
- ちょっと特殊な仕様や色
- 特定メーカー仕様に合わせたケーブル
- 小ロット・短納期での引き合い
が増えています。
メーカーや卸は「在庫として抱えるリスク」が増しており、
- 廃番・需要減少リスク
- 長期在庫による保管コスト
- 倉庫スペース・管理コスト
を考えると、“少し高めに単価を設定しないと割に合わない”という構造が生まれやすくなっています。
4. 規格・品質要求が厳しくなっている
4-1. 安全規格・防災要求の強化
特に建物内のケーブルや制御ケーブルでは、
- 難燃性・低発煙性・ハロゲンフリー
- 耐火ケーブル・防火区画貫通部の性能確保
- 耐震・防災関連の追加試験
など、従来よりも「もしもの時に燃えにくい・延焼しにくい」特性が求められています。これを満たすためには、
- 材料のランクアップ(高価な樹脂・添加剤)
- 試験コストの増加(型式試験・第三者認証など)
が不可避で、その分が製品の単価に反映されてきます。
4-2. 品質トレーサビリティ・証明書類の増加
最近の公共工事・大手民間プロジェクトでは、
- 材料証明(ミルシート)
- 検査成績書
- 原産地証明
- 含有化学物質の証明(RoHS、REACH 等)
といった書類の整備がほぼ必須になっています。
書類そのものは紙ですが、それを整えるための人件費・ITシステム・社内工数が、結局は“ケーブル単価の見えない部分”として上乗せされています。
5. 需要構造の変化:ケーブルが「再エネ・GXインフラ」の一部になった
5-1. 再エネ・送変電設備の増加
太陽光・風力発電設備の増設
それに伴う特高・高圧送変電網の増強と地中配電へのシフトなど、「電線・ケーブルを使うインフラ」が世界的に増えています。需要が増えれば、単純に「忙しい業界」になります。しかし、ケーブル工場は一朝一夕では増設できず、供給能力の上限に近づくと、
・値段を上げても買ってくれるところから順に売る
という、需給逼迫時の典型的な構造が起こります。
これも単価上昇圧力の一つです。
5-2. データセンター・EV・半導体工場など“重電×IT”の世界
- データセンターの高圧・特高受電設備
- EV向け充電インフラ
- 半導体工場のクリーン電源
など、電力品質・信頼性が極めて重視される分野では、
- 高信頼・高仕様のケーブル
- 余裕を見た断面積・仕様
- 二重化・冗長化による使用量の増加
が当たり前になってきています。
同じ「平方ミリあたりの単価」以上に、「高付加価値仕様のケーブル」が使われる比率が上がれば、現場感覚としては「ケーブルって高くなったな」と感じやすくなります。
6. まとめ:ケーブル単価が上がり続ける“構造”をどう理解するか
ここまでを整理すると、ケーブル単価が上がり続ける理由は、単なる“銅が高いから”にとどまりません。原材料の国際価格と円安による
- 銅・アルミ・樹脂など、世界市場に連動する原材料が全体的に高止まり
- 製造コストの上昇
- 人件費・電気代・設備投資など、工場側のコストがじわじわ上昇
- 物流・在庫コストの負担増
- ドライバー不足・燃料高・多品種少量化による在庫リスク
- 安全・環境・品質要求の高度化
- 難燃性・環境規制・トレーサビリティ対応により“高付加価値品”が標準化
- 再エネ・データセンター等による需要の拡大
- 重電インフラ全体が“ケーブルをたくさん使う方向”に進んでいる
つまり、
ケーブルは「昔ながらの単純な部材」から、「GX・DXインフラを支える高付加価値コンポーネント」へと役割が変わりつつある。その役割の変化に合わせて、
- 原材料
- 製造
- 物流
- 規格・品質
あらゆる面でコストが積み上がり、結果として単価が上がり続けている、と見ることができます。
ケーブル単価の値上がりは、単に「メーカーが値上げしている」だけではなく、世界中で進んでいる電動化・再エネ化・安全規制強化の“裏返し”でもあります。つまり、ケーブル単価が上がっているということは、「電気インフラがそれだけ高度化している」というサインでもあるのです。
現場のエンジニアとしては、
・仕様選定の段階で必要十分なグレードを見極めること
・配線方式やルートを工夫して無駄を減らすこと
・長期的な保守性まで含めたトータルコストで考えること
が、これまで以上に重要になってきます。“ケーブルは最後に数量を拾うだけの消耗品”ではなく、「高機能なインフラ部材」として向き合う視点が、これからの設計者・施工者には求められているのかもしれません。


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