― IEC 61850時代における受変電設備の“頭脳”を徹底解説 ―
■ はじめに:なぜ今SASなのか
近年、外資系データセンターや大規模インフラ案件に関わる中で、
「SAS(Substation Automation System)」という言葉を目にする機会は急激に増えている。
しかし、実務の現場ではこうした疑問が頻繁に聞かれる。
- SASとは結局何を指しているのか
- SCADAやRTUと何が違うのか
- IEC 61850とどう関係しているのか
- なぜ外資系案件では当たり前のように要求されるのか
そして何より、「なぜ今、SASがこれほど重要になっているのか」
この問いに明確に答えられる人は、実はそれほど多くない。
本記事では、SASという概念を単なる技術説明に留めず、設計思想・業界構造・国際比較まで含めて体系的に整理する。
IEC61850については以下の記事で記載しております。簡単ですが日本が採用しなかった歴史にも触れておりますのでよろしければどうぞ。
SASとは何か(本質的定義)
SASとは、Substation Automation Systemの略であり、
直訳すれば「変電所自動化システム」である。
しかし、この直訳だけでは本質は見えない。
SASの本質はもっと深い。
● 一言で言うと
SASとは、変電所に存在するすべての機能(保護・制御・監視)をデジタル通信で統合し、一つのシステムとして運用する仕組みである。
従来の変電所では、
- 保護は保護リレー
- 制御は制御回路
- 監視はSCADA
と、それぞれが独立した世界として存在していた。
しかしSASではそれらが統合される。
● より本質的に言えば
SASとは、「配線で成立していた変電所」を「データで成立する変電所」に変える仕組みである。
この一文が、SASのすべてを表している。
従来方式との決定的な違い
SASを理解するためには、従来方式との比較が不可欠である。
● 従来の変電所
従来の変電所は、極めて物理的な世界である。
接点信号で機器を連動させる
リレー回路でロジックを構成する
信号は銅線で伝送される
つまり、 「電気的に配線された論理回路」で構成されていた。
● SASを導入した変電所
これに対してSASでは、
IED同士がネットワークで接続される
信号はパケットとして送られる
ロジックはソフトウェアで構成される
つまり、 「ネットワーク上で動く分散システム」へと変化する。
この違いは単なる技術差ではない。
設計思想そのものの変化である。
SASの構造(3階層モデル)
SASは一般的に、三つの階層で構成される。
● ① プロセスレベル(Process Level)
ここは最も現場に近い層である。
- CT / VT
- Merging Unit
- センサ類
ここでは電流・電圧などの一次情報が取得され、それがデジタルデータとして上位へ送られる。
● ② ベイレベル(Bay Level)
ここが実質的な「判断層」である。
保護継電器(F60、T60、SELなど)
BCU(C30、C95など)
この層では、
- 故障判定
- トリップ判断
- インターロック
といった電力系統の意思決定が行われる。
● ③ ステーションレベル(Station Level)
ここは全体管理の層である。
- SCADA
- HMI
- Gateway
ここでは、運転監視、遠方操作、データ蓄積が行われる。
この3層構造により、「現場の電気現象」から「人の操作」までが一つのシステムで繋がる」
IEC 61850との関係(核心)
SASを語る上で、IEC 61850は避けて通れない。
● IEC 61850とは何か
IEC 61850とは、変電所の通信・データ構造・設計手法を統一する国際規格である。
この規格がなければ、
- メーカーごとに通信仕様が異なる
- データの意味が統一されない
- システム統合が困難
という問題が発生する。
● SASとの関係
SASにおいてIEC 61850は、 「共通言語」である。
これにより、
- マルチベンダー構成が可能
- データの意味が標準化
- 設計・試験の効率化
が実現される。
■ SASで使われる通信の意味
SASでは、通信が単なる「データ送信」ではなく、機能そのものになる。
● GOOSE通信
これは最も重要である。
- トリップ信号
- インターロック
などをミリ秒単位で送信する。
つまり、 「接点配線の代替」である。
● Sampled Values(SV)
電流・電圧をデジタル化して送信する。
👉 計測の世界が完全にデジタル化される
● MMS
監視・設定・履歴用
👉 上位システムとのインターフェース
SAS導入の本当のメリット
表面的には、
- 配線削減
- 工期短縮
が挙げられるが、本質はそこではない。
● 本質的メリット①:設計自由度
従来は配線で制約されていたが、 ソフトで自由に構成できる
● 本質的メリット②:データ活用
- 状態監視
- 故障解析
- 予知保全
データが資産になる
● 本質的メリット③:グローバル標準
世界で通用する設計になる
■ 国内の現状(正直な評価)
結論から言う。 日本は遅れている
● 理由
- 独自仕様(省配線システム)が主流
- ベンダーロックイン文化
- IEC 61850の理解不足
● 現場感覚
「できる人が限られている」
「仕様に書かれて初めてやる」
つまり、 まだ“移行期”にある
■ 海外の状況(特に欧米)
対照的に海外では、 すでに標準技術である。
● 特徴
IEC 61850前提設計
マルチベンダー当たり前
GOOSEベースのトリップ
つまり、 「SASありき」で設計が始まる
■ アジア圏のリアル
● 中国・韓国
国家主導で急速に普及
フルデジタルも多数
● 東南アジア
新設はIEC 61850採用増加
既設は従来方式
● インド
大規模導入が進行中
IEC 61850が主流化
つまり、 アジアは猛烈なスピードで追い上げている
■ データセンターがSASを加速させる理由
外資系データセンターでは、 SASは標準装備である。
理由は明確で、
- 無人運用
- 高信頼性
- グローバル統一
つまり、 SASなしでは成立しない運用モデル
■ 今後の未来
SASはさらに進化する。
● フルデジタル化
Process Bus全面化
● AI連携
自動診断
● 機能統合
保護+制御の融合
■ 最後に(最重要まとめ)
SASとは何か。長々と説明してきたが、最後は一行でいい。
■ 結論
SASとは、「変電所を“配線の集合体”から“データで動くシステム”へ変える技術」
そして現実はこうである。
日本:これから
海外:すでに標準
データセンター:最前線
つまり、 SASを理解しているかどうかで、エンジニアとしての立ち位置が変わる時代



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