― 現場でよく起きる現象を原理から理解する ―
電動機(モータ)を運転している設備では、アース(接地線)にノイズがのるという現象を現場で経験することが多いと思います。
実際、PLCの入力が誤動作する。通信ラインが不安定になる。インバータ盤周辺だけノイズレベルが高いといったトラブルの多くは、モータ起動時に発生する接地ノイズが原因になっています。
しかし、「なぜアースにノイズが流れるのか」を電気的に説明できる人は意外と多くありません。本記事では、モータ起動時に接地へノイズが流れるメカニズムを、できるだけ現場設計者の視点で整理して解説します。
モータは“強力なノイズ発生源”
まず重要なポイントは、モータは構造的にノイズを発生しやすい装置であるということです。
理由は大きく3つあります。
(1) 大電流の急変(di/dt)
モータ起動時には、定格電流の数倍(直入で6〜8倍程度)の突入電流が流れます。
この大電流が急激に変化すると、
- 配線インダクタンス
- 漏れ磁束
- stray capacitance(浮遊容量)
との相互作用によって電磁ノイズが発生します。つまりモータは「巨大なスイッチング負荷」として振る舞うのです。
(2) 巻線と鉄心の構造
モータ内部にはステータ巻線にロータと鉄心、そしてフレーム(接地)が存在し、これらの間には必ず**浮遊容量(静電容量)**が存在します。
イメージとしては、
巻線 ― フレーム → 巻線 ― 鉄心 → 巻線 ― 大地
の間に、見えないコンデンサが無数に存在している状態です。
そのため電圧変動が起こると、容量結合によって接地側へ電流が流れるという現象が必ず起こります。
(3) インバータ駆動ではさらに増大
近年はインバータ駆動が主流になり、
- PWMスイッチング
- 数kHz〜数十kHzの高周波成分
- dv/dt が非常に大きい
という条件になります。このとき、巻線とフレーム間の浮遊容量を通じて、高周波漏れ電流(コモンモード電流)が接地へ流れます。
これが現場でいう「アースにノイズがのる」現象の主原因です。
なぜノイズは“アース”に現れるのか
ここが直感的に分かりにくい部分です。モータノイズは本質的に
- 電源線
- 制御線
- 金属構造物
- 接地
すべての経路を流れます。その中でも特にアースに集中して観測される理由は、接地は最も低インピーダンス経路だからです。高周波電流は
- 抵抗
- インダクタンス
- 配線長
によって流れやすさが変わります。通常の設備では、
- 接地線は太い
- 機器フレームは大地と接続
- 建屋鉄骨も接地されている
ため、結果的にノイズ電流の大半が接地系に集中することになります。
つまり「アースにノイズが乗る」のではなく、ノイズ電流が接地を流れるのでアース電位が揺れて見えるというのが正確な表現です。
変圧器に似ていると言われる理由
現場ではよく「変圧器と同じようなもの」と説明されることがあります。これは非常に本質を突いた表現です。
モータ内部では、巻線と鉄心とフレームが存在し、磁界結合・静電結合が発生しています。
これは電気的には
一次巻線:電源
二次巻線:フレーム(接地)
という不完全なトランス構造になっています。そのため磁界結合による誘導電圧と容量結合による漏れ電流が発生し、接地側にノイズとして観測されます。
なぜ「モータ起動時」に特に大きくなるのか
定常運転時より、起動時のほうがノイズが大きくなる理由は次の通りです。
(1) 突入電流が最大→電流変化が最も大きい
→ 磁界変動が最大
→ 誘導ノイズ増大
(2) 電圧変動が激しい→起動時は電圧降下・不平衡が起きやすく、容量結合電流も増加します。
(3) インバータでは周波数変化が大きい→起動直後はPWM変化とスイッチング変動に制御遷移が多く、ノイズスペクトルが広がります。
設計者視点での重要ポイント
モータノイズは「故障」ではなく、物理的に必ず発生する現象です。
そのため設計では
- 接地方式の設計
- ケーブルシールド
- ノイズフィルタ
- コモンモードチョーク
- 接地電位差の抑制
- 制御線と電力線の離隔
を適切に行うことが重要になります。
特にインバータ設備では、モータ → 接地 → 制御盤 → 通信ラインというルートでノイズが回り込むことが非常に多いため、
- 接地一点化
- フレーム接地の短距離化
- シールド両端接地の是非判断
など、接地設計がシステム信頼性を左右します。
まとめ
モータ起動時にアースにノイズがのる理由は、
- モータは大電流急変を伴う強力なノイズ源である
- 巻線とフレーム間に浮遊容量が存在する
- 容量結合・誘導結合により接地へ漏れ電流が流れる
- 接地は低インピーダンス経路のためノイズ電流が集中する
という電磁気学的に必然の現象です。
したがって、モータノイズ対策は機器単体の問題ではなく、接地設計・配線設計・システム設計の問題として扱う必要があります。



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