モールド式変圧器(Cast Resin Transformer)は、絶縁媒体としてエポキシ樹脂を用いる構造上、油入変圧器と比較して耐燃性および難燃性が高く、一般的に安全性の高い機器として認識されている。しかしながら、電気的短絡や地絡等の一次的な電気事故を伴わない場合であっても、一定条件下では焼損・発煙・発火に至る事例が確認されている。本稿では、これらの非電気的要因による焼損メカニズムについて、材料特性・環境条件・経年劣化・接続部管理等の観点から体系的に整理し、技術的背景を踏まえて詳細に述べる。
1. 周囲温度上昇および通風不良に起因する過熱現象
最も発生頻度が高いとされる要因は、過熱によるエポキシ樹脂の劣化進行である。モールド式変圧器は油入機と異なり、自然空冷方式に依存するため、周囲温度および通風条件の影響を直接的に受ける。
- 機器周辺の通風ダクト閉塞
- 機械室の換気設計不良
- 天井高さ不足による熱だまり
- 他機器との過度な接近配置
これらの要因により、設計基準となる周囲温度(通常 40℃)を超過する環境下で運転が継続された場合、モールド樹脂の絶縁特性は徐々に劣化する。劣化が進行すると樹脂内に微細クラックが発生し、そこを起点として部分放電が生じ、やがて樹脂が炭化し発熱が加速する。炭化物は導電性を有するため、局部的な電流集中が発生し、ついには発煙・発火に至る。
短絡などの電気的事故が生じていない場合でも、周囲温度と通風条件のみで焼損に至る典型的なパターンである。
2. 吸湿および結露による絶縁耐力低下
- モールド樹脂は完全な防湿構造を有するわけではなく、環境条件によっては吸湿や表面結露が発生する。特に、気温差の大きい機械室、地下室、湿度の高い立地では次のような現象が生じる。
- 表面および内部の水分による絶縁耐力低下
- 水分の存在に起因する部分放電電圧の低下
- 結露による表面リーク電流の発生
水分は誘電率の変動をもたらし、樹脂内部で局部的な電界集中を発生させる。その結果、部分放電が発生しやすい状態となり、放電による局部発熱が樹脂表面の炭化を誘発する。これが継続すると、トラッキング現象が進行し、最終的には火炎を伴う焼損に至る。
3. 振動・衝撃に起因する樹脂クラックの発生
モールド式変圧器は構造的に「硬く脆い」材料で絶縁体が構成されているため、外部からの振動、衝撃、偏荷重に弱い性質を有する。搬入時の衝撃、据付面の不陸、地震動、周辺設備からの振動伝達などにより樹脂に微細なクラックが発生すると、クラック内部で電界が集中し部分放電が生じる。
部分放電は極めて小さな放電であるが、長期間継続した場合、樹脂を炭化させるほどのエネルギーを持つ。炭化物の生成は前述の通り導電性を持つため、さらなる放電、さらなる発熱を繰り返し、短絡事故がなくとも自発的に火災へと発展する。
4. 端子部接触不良による局部発熱
一次側および二次側接続端子の接触不良は、電流の大きさに比例して発熱が生じるため、局部温度上昇の主要因となる。接触抵抗が増加する典型的な原因は以下の通りである。
- ボルトの締付不足、あるいは締付トルク管理の不備
- 経年による緩み
- 圧着不良
- 導体表面の腐食・酸化
接触不良は短絡のような瞬時事故を伴わず、継続的な過熱として進行するため、外観上の異常が認識されにくい。結果として、端子部の熱が樹脂表面を劣化させ、トラッキング・炭化・発火へと至る。
5. 粉塵・汚損・金属粉の付着による表面放電
表面絶縁距離が確保されていても、樹脂表面が汚損すると絶縁性能は大幅に低下する。特に以下の環境では注意が必要である。
- 金属加工工場における金属粉の浮遊
- FA(Factory Automation)領域での油ミストの付着
- 木工・食品工場の粉塵
- 自動車整備工場等でのカーボン粉
これらの異物は導電性または吸湿性を有し、表面リーク電流の経路を形成する。このリーク電流が一定以上に増加すると表面放電が生じ、その熱が炭化物を生成し、トラッキングを連鎖的に発生させる。これにより、電気的事故が無くとも表面燃焼を伴う焼損事故が発生する。
6. 設置条件不備(クリアランス不足・機械室設計不良)
モールド式変圧器は空冷式であるため、以下の設置条件不備は重大な過熱原因となる。
- 壁・機器とのクリアランス不足
- 排気経路の閉塞
- 天井高さ不足による熱滞留
- 周囲温度設計値を超える環境での継続使用
設計条件に適合しない環境で運用されると、規定負荷であっても温度上昇が許容値を超え、樹脂劣化の進行を促す。特に夏季、密閉機械室、無換気空間での温度上昇は想定外の過熱を引き起こす。
7. 経年劣化による絶縁特性の低下
モールド樹脂は経年によって以下の劣化を生じる。
- 架橋構造の分解による機械強度低下
- 微細クラックの自然発生
- 樹脂の酸化・ガス化
- 体積抵抗率の低下
一般に20〜25年を超える運用では劣化速度が顕著となる。電気的事故が発生していない状態でも、部分放電・トラッキングの発生確率が上昇し、これが加熱源となって焼損に至ることがある。
8. 製造起因の内部欠陥(希少だが存在する要因)
国内主要メーカーにおいては製造品質は安定しているが、以下のような内部欠陥が存在した場合、電気的事故を伴わずに焼損へ至る可能性がある。
- 樹脂注型時の気泡残留
- 未硬化樹脂の局在
- 導体との界面剥離
- 樹脂組成の偏在
これらは内部応力集中や部分放電の起点となり得る。
■ 総括
以上の通り、モールド式変圧器は電気的事故が発生しない場合であっても、環境条件・機械的ストレス・汚損・経年劣化等によって焼損に至る潜在的リスクを保持している。特に、
- 端子部接触不良
- 過熱(通風不良)
- 吸湿・結露
- 粉塵による表面劣化
の4項目は現場での発生頻度が高い要素であり、定期点検において重点的に監視すべき領域である。
個別案件における原因特定には、焼損痕の位置、樹脂の炭化分布、端子温度の推移、環境条件記録、振動履歴等の多角的解析が必要であり、総合的判断のもとで事故解析を行うことが望ましい。



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