七海建人は、呪術廻戦という作品の中でも、ひときわ“社会人のリアリティ”を背負った存在である。
彼は強い。だが、彼の魅力は単純な戦闘能力や術式の巧妙さにとどまらない。
七海の物語の核心にあるのは、「呪術師という仕事をどう捉えるか」という問いだ。
一度は呪術師を辞めた男
七海は高専卒業後、呪術師を辞めて一般企業へ就職する。
理由は単純だ。命を懸ける仕事に対して、報われなさを感じたからだ。
自分一人いなくなった所で、世界はどうにもならない。
級友の死と最高戦力の差の前に絶望と言っていいほどの挫折をする。
呪術師という職業は、感謝もされず、社会的地位も高くなく、命の保証もない。
若き日の七海は、その不条理さに嫌気がさした。
これは非常に“人間的”な選択である。
理想や使命感だけで生き続けられる人間は多くない。
しかし彼は、会社員として働く中で気づく。
「この仕事は、自分には向いていない」
数字に追われ、上司に叱責され、利益のために頭を下げる日々。
そこには安定はあるが、納得はない。
七海は気づく。
自分は、呪術師のほうが向いているのだと。
ある出来事が背中を押した
七海が呪術師へ戻るきっかけは、あるパン屋の店員の女性との出来事である。
かつての杵柄で簡単な「処置」を行い、思いがけず感謝される。
ここの顛末は調べればいくらでも出てくるので、興味がある方は「ナナミン パン屋」でググってください。
社会は、必ずしも善良な人を守らない。その現実を目の当たりにしたとき、七海は思う。
「自分にできることは何か」
彼は理解する。
呪術師は確かに理不尽だ。だが、自分にはその理不尽を処理する力がある。
やり甲斐とは、必ずしも楽しい仕事のことではない。
自分の能力が最も社会に作用する場所にいること。
それが七海にとっての“納得”だった。
彼は出戻りを決意する。
適性を知るということ
七海は「夢」や「情熱」で戻ったわけではない。
彼は冷静に、自分の適性を分析した。
・呪術の才能がある
・戦闘の判断力がある
・合理的思考ができる
・理不尽を理不尽として処理できる
会社員としての自分より、呪術師としての自分のほうが機能する。
ここに、七海というキャラクターの核心がある。
多くの人は、
「今までのキャリア」
「周囲からの期待」
「安定」
に縛られる。しかし七海は、一度辞めた仕事に戻ることを選んだ。
それはプライドを捨てる決断でもある。
だが彼は、自分に向いている場所を優先した。
適性がある場所で働くほうが、仕事は上手くいきやすい。
これは理想論ではなく、非常に現実的な戦略だ。
呪術師という“労働”
七海は、呪術を「労働」として捉えている。
「労働はクソです」
という彼の有名な台詞は、厭世ではなく、覚悟の表明だ。
仕事は美しくない。
理不尽で、報われないことも多い。
だが、それでも自分が機能する場所で働くほうが良い。
彼は残業を嫌い、定時を守り、合理的に戦う。
ヒーローのように叫ばない。
激情に任せない。
しかし、いざという時には命を張る。
そこにあるのは、
“使命感”ではなく、職業倫理である。
強さではない魅力
七海は最強キャラではない。
だが、彼は“最も人間らしい”キャラクターの一人だ。
理想に挫折し、別の道を歩み、再び戻る。
過去の失敗をなかったことにしない。
自分の未熟さも認める。
それでも前を向く。
彼の魅力は、「仕事を選び直したこと」にある。
適性を知ること。
向いていない場所から離れること。
戻る勇気を持つこと。
それはキャリア論としても非常に示唆的だ。
得意や肩書きに縛られない生き方
七海の生き方は、現代の働き方に通じている。
・今の仕事が向いていないと感じる
・安定はあるが納得がない
・一度辞めた道に未練がある
そう感じている人にとって、七海は一つの答えを提示する。
「適性がある場所へ戻ることは、敗北ではない」
キャリアとは直線ではない。
回り道も、出戻りも、選択肢だ。
自分の得意や経歴に縛られず、
「どこで自分が最も機能するか」を問い直す。
それもまた、生き方の一つである。
七海建人という“社会人”
七海建人は、呪術師である前に、一人の社会人だ。
理不尽を知り、労働の厳しさを知り、それでも自分にできることを選ぶ。
だから彼は、多くの読者の心に刺さる。
強さよりも、
冷静さよりも、
理論よりも、
「働くとは何か」を体現しているからだ。
呪術師という危険な仕事を通して描かれるのは、実は私たちの“労働観”そのものなのかもしれない。
七海建人は、ヒーローではない。
だが彼は、間違いなく“誠実な職業人”である。
そしてそれこそが、彼が超人揃いの作品の中でも個性的な輝きを放つ魅力たり得ている。


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