保護継電器の「動作時間」と、メカニカルリレー(補助リレー・トリップリレーなど)の時間は、系統事故時の「遮断時間」を一緒につくる仲間です。
動作時間と復帰時間については以下を参照ください
ここを整理しておくと、
なぜ補助リレーをケチると危ないのか
なぜ保護協調で 0.3〜0.5 s のマージンを取るのか
なぜ IED が速いのに系統全体はそんなに速くならないのか
が腑に落ちてきます。
順にいきます。
1. 保護継電器の「動作時間」とは何か
まず用語の整理から。
保護継電器の動作時間は、原則として:
故障が発生して,継電器が所定の感度以上となってから、
トリップ接点が動作するまでの時間
を指します。
代表的には:
過電流継電器 (OC, 50/51)
地絡過電流継電器 (51G/51N)
距離継電器 (21)
他、各種デジタルリレー
で「即動要素」「時限要素」「反限時特性」などとして
カーブ or 固定値で示されています。
ここでポイント:
この「動作時間」は継電器の中までの話。
遮断器はまだ一歩も動いていない。
外付けメカリレー(86, 94, 補助リレー)の時間は、
通常「保護継電器の動作時間には含まれていない」と考えるのが安全です。
(メーカー仕様で「トリップ回路まで含む」と明記している場合もありますが、実務では分解して理解しておく方が確実です)
2. 系統的には「合算」で効いてくる
事故時に系統側から見ると大事なのは:
故障発生 → 電流検出 → 継電器判断 → トリップ回路 → 遮断器開極 → アーク消滅
までの「トータル時間」です。
ざっくり式にすると:
IED(保護リレー)トリップ接点 → トリップリレー (94) → ロックアウトリレー (86) → 遮断器トリップコイル → 遮断器開放
この中の
トリップリレー・補助リレー・86リレーはぜんぶ「メカリレー」なので、
1段で 10〜20 ms
段数を重ねるとそのぶん加算
遮断器も一般的な高圧〜特高で「30〜60 ms 前後」は普通にかかる
→ 結果として:
保護継電器本体が「0.02〜0.05 s 即動です!」と言っていても、
現場の全体遮断時間は 0.08〜0.15 s 程度になる、というのはよくある話です。
この差をちゃんと見ないと、
「カタログ上は速いのに、上位系統との保護協調が崩れている」
みたいな事故設計になります。
3. 保護協調とメカリレー時間の関係
(1) 時限要素の協調
例えば、下位側 51 の整定が:
動作時間:0.5 s(故障電流に対して)
上位側 51 の整定を、
0.8 s にしたとします(0.3 s の協調マージン)
ここで本来考えるべきは:
0.5 s(下位継電器)
+ 下位側トリップリレー + 遮断器開放時間
と
0.8 s(上位継電器)
のあいだに十分な差があるか?
もし下位側に:
遅いトリップ補助リレーが 2段入っている
遮断器が実測で 60〜70 ms かかる
などが重なると、
実効遮断時間が 0.6〜0.65 s ぐらいまで伸びる
上位継電器 0.8 s との差が実質 0.15〜0.2 s 程度になる
→ CT誤差・故障電流のばらつき等を考えると、協調が怪しくなる。
設計ポイント
協調計算では**「保護継電器本体」だけでなく**
外付けメカリレーの最大動作時間
遮断器の最大開極時間 を足し込んだ「系統としての時限」で評価する。
不要な中間リレーを増やしすぎない。
必要なら高速度トリップリレーを選定する。
(2) 即動要素・高速保護との関係
距離継電器 1段、差動継電器、母線保護など:
動作時間:10〜30 ms クラス
「遮断器そのものの速度が支配的になる世界」です。
ここではメカリレーの遅れが特に効きやすい。
例えば:
差動継電器が 15 ms で動作
高速トリップリレー:10 ms
遮断器:40 ms
全体:65 ms
ところが、
旧式の遅い補助リレー(20〜30 ms)をかませまくると、
80〜100 ms クラスになり、
「母線高速保護のつもりが、あまり速くない系統」になってしまう。
なので:
高速保護系では
メカリレーを極力減らす
専用高速トリップリレー・86リレーを採用
IEDの接点から直接トリップさせる設計も選択肢
「保護リレーがデジタルで速くなった分、周りのメカがボトルネック化する」
ことを常に意識するのがコツです。
4. 実務での注意点(ここを押さえると事故らない)
(1) メカリレーを「無視しない」
保護継電器の整定計算書や、系統の保護協調図を書くとき:
□ 保護継電器本体の動作時間
□ 使用している 86/94/補助リレーの代表動作時間
□ 遮断器の機械的開極時間(最大値)
をセットで書いておくと安心です。
「補助リレーなんて 10ms でしょ?」とノリで流さない。
(2) DCトリップ回路の電圧降下・サージ対策
前の話ともリンクしますが:
DCトリップ回路が長い
細いケーブル
接点を多段に直列
サージ吸収素子を大量に挟む
→ コイル電圧が下がる → 補助リレー・トリップコイルがもたつき、動作時間が延びる。
対策イメージ:
トリップ回路はできるだけシンプル・低インピーダンスに
不要な直列接点を減らす
サージ対策と応答速度のバランスを見る
メーカーの「最小動作電圧」と実配線での電圧降下をきちんと計算
(3) 不必要な多段トリップ連鎖をやめる
ありがちな構成:
IED → 補助リレー → 別の補助リレー → ロックアウト → トリップコイル
これはその分だけ:
故障時の時間が延びる
故障点も増える
必要な機能(多回路トリップ・ラッチ・インターロック)に対して「最小限の段数」に整理するのが良いです。
(4) 試験時は「実際の時間」を測ると理解が深まる
現場試験や工場試験で、
2次注入試験+トリップ回路までつないだ状態で、
故障印加 → 遮断器コイル通電 までの時間
遮断器開極接点(52a/52b)まで含めた全体時間
を一度測ってみると、
「あ、保護継電器単体より実系統はこんなに遅いのね」
が体感できます。
この感覚があると、整定を見る目が一段上がります。
5. ざっくり結論
保護継電器の動作時間は「検出〜リレー接点」まで。
系統が欲しいのは「故障〜遮断完了」まで。
そのギャップを埋めるのが
メカリレー(補助・トリップ・86)
遮断器の機械動作時間
協調計算・高速保護設計では、この“メカの数十ミリ秒”を絶対にナメないこと。



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