― なぜ直流110V系が国際的・国内的に標準なのか ―
受変電設備において制御電源は、機器の「知能」を支える根幹である。保護継電器、遮断器の操作回路、インターロック、警報・監視系統など、電力ネットワークの安全性と信頼性を担保する全ての中枢は、この制御電源の健全性によって左右される。
そのため、国内外ではDC110V または DC125Vといった直流系がほぼ標準化されている。
では、仮に制御電源を AC110V にした場合、どのような不具合や構造的弱点が生じるのか。本稿では、そのリスクを体系的に整理する。
遮断器・保護リレーの信頼性低下
1-1. 瞬時電圧降下に対する耐性の低さ
AC電源は、系統事故・雷サージ・起動突入電流の影響で**瞬低(瞬時電圧低下)**が発生しやすい。
直流電源の場合、バッテリや充電器によって電圧が安定し、外乱時でも一定の電圧を維持できるが、AC110V では以下の問題が生じ得る。
遮断器の操作コイルが動作電圧に達せず投入・開放が失敗する
保護リレー(特に電磁リレー)が誤動作・不動作を引き起こす
インターロックが期待通り機能しない
とりわけ、遮断器の開放失敗は電力設備において重大事故に直結するため、AC電源が制御用途に不適とされる最大理由の一つである。
バックアップ不能という構造的欠陥
制御電源の本質は「外乱時でも確実に動作させること」にある。
直流制御電源では、
- 蓄電池(鉛蓄電池・リチウム系)
- 充電装置
によって停電中でも数時間~数十時間のバックアップが可能である。
しかし AC110V では、
- 系統停電時に瞬時に制御機能が喪失
- 事故時に遮断器が動作しない
- 遠方監視・保護リレーのログ保存が不能
という構造的欠点が残る。
つまり、AC110Vを採用する限り、事故の瞬間に制御系自身が無力化するという、安全上許容し難い事象が避けられない。
ノイズ耐性・電源品質の低さ
3-1. 周波数変動・高調波の影響
AC電源は周波数および波形品質の影響を受ける。特に工場負荷・データセンター等の環境では、高調波や電源揺動が問題となり得る。
これにより、以下の不具合が想定される。
保護リレーの内部電源が不安定化し、誤動作・誤リセット
操作用コイルの励磁が乱れ、反応時間の遅延
ME, MU, BCUなど制御装置の電源回路が高調波により発熱
DC 電源は整流後の平滑電圧であり、電源品質の影響を受けにくいため、この点でも AC110V は大きく不利である。
機器ラインアップの非標準化による設計リスク
受変電設備の世界では、BCU・保護IED・遮断器・GIS・MCS などの機器は、制御電源をDC110V / DC125V 前提で設計している。
AC110V を採用すると、以下のような非標準リスクが顕在化する。
メーカー仕様に適合しない
特注品対応となり納期遅延・コスト上昇
更新時に「AC110V 対応品が存在しない」問題
保守部材や他プロジェクト流用が行えず、資産価値が下がる
すなわち AC110V の採用は、設計思想そのものを国際標準から外す行為であり、長期的な設備保全上も不利である。
操作回路の電磁・電気的特性が不安定化する
AC110V は交流のゼロクロス点を持つため、操作コイルの励磁は「脈動」する。
これにより:
- コイルの立ち上がりが遅い
- 開閉器の動作時間がばらつく
- 遮断器の機械的動作に影響して同期性が低下
特に近年のデジタル保護装置ではミリ秒単位の動作精度が求められるため、このばらつきは保護協調上の問題を生む。
保守要員の安全性・作業性の低下
AC110V の系は、直流と違い電流が周期的に変動し零点を持つため、短絡時のアーク性状が異なり、作業時に以下の問題が発生しやすい。
アークが伸びやすく絶縁障害のリスク増
誤接触時の身体感電リスクが DC より高くなる場合がある
試験用治具・テスター類も AC/DC で使い分けが必要
受変電設備では「確実かつ再現性の高い動作」が最優先であるため、作業性に影響が出る要素は極力排除されるべきである。
まとめ:AC110V 制御電源は「設備事故時に最も弱い電源」
以上の通り、AC110V を制御電源とすることは、
- 信頼性
- 安全性
- 国際標準への適合
- 設計の将来性
- 運用・保守の継続性
のすべてにおいて不利である。
直流制御電源は、事故中・停電中であっても設備を守る「最後の砦」である。
その砦が AC 系で不安定化するのであれば、受変電設備の本質的安全性そのものが損なわれる。
したがって、世界中の電力会社・産業用サブステーション・データセンター・変電設備の大半が DC110V/125V を標準とし続けているのは、単なる慣習ではなく、技術的合理性に裏打ちされた必然である。



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