才能がなくてもPLC屋は続けられる

― 向いてないと気づいた日からが、本当のスタートだった

第1章 はじめてPLCと出会った日、絶望した

PLCという言葉を初めて聞いたとき、正直ピンとこなかった。

「なんか機械を動かすやつ?」くらいの感覚だった。

けれど、いざ現場に配属されて、その実態を目の当たりにした瞬間、私は悟った。

――これは、頭のいい人がやる仕事だ。

ラダー図を開いても、線と記号の迷路にしか見えない。

“AND”“OR”の論理も、頭の中でまとまらない。

「ここをONしたら、こっちがOFFになる」――言われても、実際にそう動かない。

目の前の盤は沈黙し、PLCのRUNランプだけが淡々と光っていた。

隣で先輩は、PC画面を一瞬見ただけで「あー、これインターロック抜けてるね」とつぶやく。

私は呆然とする。

まるで異世界の言語を話しているようだった。

その日、帰りの電車で心に浮かんだのは、たった一つの言葉だった。

「……向いてないな、これ。」

第2章 地獄のような努力が報われない日々

それでも、私は“努力すればなんとかなる”と信じていた。

毎晩、ラダーの本を読み、サンプルプログラムを追いかけた。

けれど、現場に出ると本の中の理屈なんて吹き飛ぶ。

タイマー設定一つで動作が狂う。

異常ランプが消えない。

I/Oチェックをしても原因が見えない。

頭の中はいつも“?”だらけ。

努力してもできないという現実は、

「自分には才能がない」という事実を、少しずつ確信に変えていった。

そして怖いのは、「できない人間」というレッテルが自分の中で固定化されていくことだった。

現場で声をかけられても、「どうせ俺には無理だ」と身構える。

挑戦する前に、もう心が負けている。

第3章 “できる人”を見すぎて自滅する罠

現場には、“天才肌”の人がいる。

何も見ずにプログラムを書ける。

異常を見た瞬間に原因がわかる。

そして、彼らは往々にして言うのだ。

「これ、感覚でわかるよ。」

……その“感覚”が、わからないんだよ。

最初のころの私は、そういう人たちを羨ましく、そして少し恨めしく見ていた。

どうして自分は、同じようにできないのか。

どうしてあの人は、何も苦労せずに結果を出せるのか。

でも、今振り返ればわかる。

「天才と同じ土俵で戦う」こと自体が、間違いだったのだ。

彼らは“感じてわかる人”。

私は“理解してやっと動ける人”。

土俵が違うなら、戦い方も変えなきゃいけない。

第4章 “できない自分”を認めた日、世界が少し変わった

ある日、私はとうとう白旗を上げた。

「すみません、わかりません。」

そう正直に言った。

すると、先輩が笑いながら言った。

「最初からわかるわけないよ。俺も昔は地獄見たから。」

その瞬間、肩の力が抜けた。

“できない自分”を隠すために無理をしていた日々。

プライドが邪魔して助けを求められなかった時間。

それらが全部、無意味だったと気づいた。

そこから、学び方が変わった。

“自分ができない理由”を言語化するようにした。

「なぜ間違えたのか」「どこで理解がずれたのか」をノートに残した。

結果、同じミスは減り、

「説明できる人」になっていった。

第5章 “書けないなら、読める人”になればいい

私はあるとき、発想を変えた。

「自分で書けないなら、読める人になればいい。」

他人のラダーを見て、動作を理解する練習をした。

保守の立場で、プログラムを解析してトラブルを防ぐ側に回った。

現場で誰かが“うまく動かない”と困っているとき、

私は“原因を言葉にする係”として動いた。

これが、思いのほか役立った。

「この信号が来てない」「ここの立ち上がりが遅い」と説明できることで、

設計者と現場の橋渡しができるようになった。

気づけば、私は“プログラマー”ではなく“通訳”になっていた。

第6章 周囲に助けられて生き延びる技術

自分が苦手なことを隠さないと、人は助けてくれる。

逆に、わかったふりをしていると、誰も手を差し伸べられない。

「できない」と言える勇気は、技術よりも大事だ。

先輩たちは、そんな私を見捨てなかった。

「ここはこう考えるとわかる」「このタイミングで見ろ」

一つひとつ、手取り足取り教えてくれた。

やがて私は気づいた。

“できる人”は、他人を見下さない。

“わかっている人”は、教えるのがうまい。

現場の優しさに救われながら、私は少しずつ前に進んだ。

第7章 “才能”という言葉の罠

「才能がある」「センスがある」

そんな言葉ほど、人を縛るものはない。

才能があると思い込んでいる人は、壁にぶつかると折れる。

才能がないと思い込んでいる人は、挑戦する前に諦める。

どちらも、本当にもったいない。

PLCの世界に“天才”なんて、いない。

いるのは、「続けた人」だけだ。

繰り返し配線して、何度もプログラムを落として、

ようやく一つの成功体験を掴む。

その積み重ねが“経験”と呼ばれる。

そして経験こそが、才能の代わりになる。

第8章 “自分なりの一人前”を見つける

あるとき上司に言われた。

「お前はプログラム書くの遅いけど、現場の段取りはうまいな。」

その言葉で、ハッとした。

そうか。

“できない部分”を嘆くより、

“できる部分”を伸ばせばいいんだ。

私は“現場全体を整える人”を目指した。

制御盤の配置、ケーブルの取り回し、安全の確保。

全部を俯瞰して、プログラマーが動きやすい環境を作る。

そうすることで、チーム全体の品質が上がる。

それはもう、立派な“一人前”の形だった。

第9章 後輩たちへ:才能なんてなくていい

もしこの記事を読んでいるあなたが、

「自分には才能がない」と感じているなら、声を大にして言いたい。

「なくていい。」

大事なのは、

諦めないこと

学び続けること

人と関わること

才能がない人ほど、人の話をよく聞ける。

だからこそ、現場で信頼される。

“できる風な人”より、“わからないときに聞ける人”のほうが、よっぽど価値がある。

第10章 才能よりも、“続ける覚悟”

今でも、私は“すごいプログラマー”ではない。

でも、今なら胸を張って言える。

「自分はこの仕事に向いていない」けど、やめる理由はない。

PLCの世界は奥が深くて、毎日が勉強だ。

わからないことがあるから、飽きない。

失敗があるから、成長できる。

才能がない人間にしか見えない景色がある。

“理解する喜び”を、誰よりも噛みしめられる。

だから、才能がない人こそ、

この世界に長く残れるのかもしれない。

終章 「できない」を抱えて生きるということ

“できない”を抱えながら働くのは、苦しい。

でも、それは「不完全なままでも歩ける」証拠でもある。

PLCも人生も、完璧じゃなくていい。

少しずつ動けば、ちゃんと前に進む。

“才能がない”なんて、気にしなくていい。

それはあなたの弱点じゃなくて、スタートラインだ。

🔧あとがき:

私は今でもラダーを開くと、ため息が出る。

でも、それでも今日も現場に行く。

「できないまま、続ける」ことが、

私にできる、唯一の誇りだから。

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