技術者が読むべき漫画 ― 仕事観・人生観を深める三冊(修正版)

技術者という職業は、仕様書や設計図だけを相手にしているように見えるが、実際にはもっと複雑だ。プロジェクトの裏には人間の感情、価値観、矛盾、苦悩、そして小さな希望が必ず存在する。技術者として成果を上げるには、技術書だけでは得られない“人間理解”も欠かせない。

そこで今回は、

技術者の人生観・仕事観を深く揺さぶる三作品として、

プラネテス

東京ヒゴロ

路傍のフジイ

を紹介したい。

■ プラネテス ― 技術者が人生を考えるための稀有な物語

幸村誠の『プラネテス』は、技術者が読んだときに最も深く刺さる作品のひとつだ。

宇宙開発という超高度技術の最前線にいながら、主人公たちは決してヒーローではない。日々の雑務、地味な作業、人間関係の軋轢──それらは現場に立つ技術者にとって、痛いほどリアルに感じられる。

「やりたいこと」と「できること」の乖離

組織の論理に自分の理想が押しつぶされる感覚

技術の進歩が人間の心を置き去りにする瞬間

それでも技術者としての誇りを失わない姿勢

これらは、特高設備の現場でも、PLC設計のデスクでも、研究開発でも同じだ。

プラネテスは“技術者としてどう生きるか”を問いかける作品であり、人生そのものに向き合うきっかけを与えてくれる。

■ 東京ヒゴロ ― 仕事への矜持と、失敗から再起するまでのリアル

松本大洋の『東京ヒゴロ』は、漫画編集者の日常を描いた作品だが、その本質は「仕事への執念」と「失敗からの再生」を描いた物語だ。これは技術者にも非常に近い。

技術者の世界には“過去の失敗”がつきまとう。

誤設計、納期遅延、保護協調の見落とし、試運転のトラブル──失敗の種類は違えど、精神的な痛みは共通だ。

東京ヒゴロには、

才能ある誰かを潰してしまった罪悪感

他人の成功を喜べない自分への嫌悪

過去に足を引っ張られ続ける感覚

それでも仕事を手放せない執着

が描かれている。

しかし最終的には、主人公が再び“仕事と向き合える場所”を見つけていく。その過程が、技術者が挫折から立ち直るプロセスと驚くほど重なる。

再起のリアリティを知りたい技術者に、東京ヒゴロは必読である。

■ 路傍のフジイ(鍋倉夫) ― マイペースさが創造性の源になる

『路傍のフジイ』は鍋倉夫の作品だ。

この作品の魅力は、「変わった視点を持つ人間が、結果的に周囲の空気を変えていく」という構造だ。

フジイは、天才でもないし器用でもない。

ただ、独自のリズムで生きているだけだ。

しかし、この “微妙なズレ”が技術者にとって非常に示唆的 だ。

マイペースだからこそ気づく“違和感”

空気を読まない行動がイノベーションになる瞬間

正攻法とは違う思考が、突破口を開く

他人には見えない“別の角度”で世界を見る能力

これは研究開発でも、ソフト設計でも、ハード設計でも同じだ。

創造性とは、ロジックだけでなく、

「偏り」「癖」「マイペース」が混ざることで生まれる化学反応 だということを、この作品は教えてくれる。

鍋倉夫の描くフジイの“とぼけた天性”は、技術者にとって極めて重要なヒントになる。

■ 技術者は漫画から“感情”を学ぶ

技術者の仕事は一見すると無機質だが、実際には人間の感情と深く結びついている。

プロジェクトの継続は“信頼関係”で決まる

設計の大胆な発想は“感情の揺れ”から生まれる

トラブルシュートは“諦めない心”に支えられる

工場・現場は“人の温度”がなければ動かない

漫画は、技術書が扱わない「心の動き」を描いてくれる。

だからこそ技術者は、漫画を読むべきなのだ。

■ まとめ ― 技術者に必要なのは“技術以外”の視点

今回紹介した3作品は、ジャンルも作風も違う。しかしそれぞれが、技術者に必要な“人間の本質”を描いている。

● プラネテス

人生観や職業観そのものを揺るがす、技術者の教科書。

● 東京ヒゴロ

失敗と再起のリアリティを描き、仕事との向き合い方を問いかける。

● 路傍のフジイ(鍋倉夫)

変わった視点が創造性の核になることを教えてくれる。

技術者にとって、技術は道具であり、

人生を形作るのは人間の感情と価値観だ。

漫画はその“人間”を理解する最高の教材である。

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