油変圧器は、油が単なる冷却媒体ではなく、絶縁媒体としても極めて重要な役割を担っています。そのため、油そのものの健全性=変圧器全体の健全性、という見方さえ成立します。石鹸法が「機器表面の油漏れ」を確認する局所的な検査だとすれば、これから解説する油の劣化分析や化学分析は、変圧器内部の状態そのものを“間接的に覗き込む”診断行為になります。
特に長期運転中の油入り変圧器では、経年による酸化・スラッジ生成・水分増加などが進行しやすく、これらは絶縁性能の劣化だけでなく、巻線紙の寿命を大きく左右します。したがって、油の状態を定期的に把握し、変化点を見逃さないことが、予防保全の観点から非常に有効なのです。
絶縁破壊電圧試験(BDV試験)
絶縁油は本来、非常に高い絶縁耐力を有しています。しかし、運用中に微量な水分や微粒子が混入することで絶縁耐力は著しく低下します。BDV試験では、電極間に油をセットし、電圧を徐々に上昇させていき、放電が発生した電圧値(破壊電圧)を測定することで、油の絶縁性能の低下を把握します。
破壊電圧が低く出るということは、油の中に水分・スラッジ・異物が増えていることを示唆し、絶縁媒体としての安全マージンが減少している可能性があります。特に湿気の多い環境で運用される屋外変圧器では注意すべき指標です。
水分量測定(カールフィッシャー法など)
絶縁油中の水分は、絶縁性能を低下させるだけでなく、絶縁紙(セルロース)の加水分解を進行させる要因にもなります。したがって、油中の水分量は変圧器の「絶縁紙寿命」を推定する上でも極めて重要な情報です。
代表的には「カールフィッシャー法」によってppm単位で水分量を測定します。水分値が許容値を超えている場合は、油処理や乾燥処理、もしくは紙絶縁の高劣化が疑われる場合には長期運用戦略を見直す必要があります。
油変圧器における水分は、一種の“寿命触媒”として作用するため、予防保全の重要な監視項目として認識されるべきです。
酸価(中和価)
絶縁油は時間の経過とともに酸化し、酸性物質やスラッジを生成します。酸価は、油1gあたりの酸を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)の量を測定する試験であり、油の酸化劣化の進行度を直接的に評価できます。
酸価が上昇すると、スラッジ生成による冷却性能低下および絶縁劣化の加速を招きます。酸価が一定値を超過した場合には、油交換、油再生処理、クリーニングなどの具体的な保全判断のトリガーとなります。
インターフェーステンション(界面張力)
油と水の界面張力を測定することで、油中に溶け込んだ劣化生成物の量を間接的に評価します。界面張力は油の清浄性を示す指標であり、酸化生成物やスラッジが増えるほど低い値となります。
特に、油自体の色相変化が目視では判定しづらい初期劣化に対して、界面張力の低下は比較的敏感に反応するため、初期段階の劣化検知として優れた指標と言えます。
その他の油の特性測定
・体積抵抗率
油の導電性を示す指標で、劣化や水分増加により低下します。
・誘電正接(tanδ)
絶縁媒体中の損失成分を示し、高くなるほど絶縁材料の劣化を示唆します。絶縁紙やスラッジの影響を広く反映するため、総合的な絶縁評価に用いることができます。
・外観・色・沈殿物確認
スラッジ、金属粒子、焦げ色などが確認される場合は、油そのものの劣化だけではなく、内部機器の過熱・局部異常の兆候として扱う必要があり、次のステップで解説する**油中ガス分析(DGA)**への判断材料にもなります。
油の検査は単独の値よりも「傾向が命」
なお、ここまで述べた各種試験は、単独の数値で良否を断じるのではなく、時系列変化を追跡することが本質です。
- 新設時・据付時・定期点検時の過去データと比較することにより、
- 劣化速度
- 突然の値の変化
- 季節変動や運転条件による変動
などを総合的に判断できるようになります。
油の診断は、まさに「変圧器の健康診断」であり、点の情報(1回の試験結果)ではなく、線としての劣化の軌跡を読み解くことで、将来的な保全計画や運転方針を確かなものにしていきます。



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