経済産業省は「電気主任技術者の現実」を理解しているのか

――制度は残り、現場は疲弊しているという事実――

はじめに

電気主任技術者という制度は、日本の電力インフラを支えてきた極めて重要な仕組みである。

しかし近年、この制度と現場の実態との乖離が、もはや無視できないレベルにまで達している。

現場ではこうした声が増えている。

責任が重すぎる

技術の高度化に制度が追いついていない

DX・自動化が進んでも責任構造は昭和のまま

人が足りないのに、制度は「人ありき」のまま

では、経済産業省はこの現状を理解しているのか?

結論から言えば――

「理解はしている。しかし制度としては大きく変えられていない」

というのが実情に近い。

本稿では、その理由と、これまでに行われてきた“緩和措置”、そしてそれでも残る構造的問題について整理していく。

経産省は現状を「知らない」のか?

→ 実際は「よく知っている」

まず前提として誤解してはいけないのは、

経済産業省は、電気主任技術者が置かれている厳しい立場を把握している

という点である。

実際、以下のような事実がある。

電気主任技術者の高齢化・後継者不足は公式資料でも言及されている

外部委託(外部主任技術者制度)を拡充してきた

スマート保安・保安力評価制度を導入

点検頻度緩和や遠隔監視の活用を認める方向へシフト

少人数での保安体制を認める制度改正

つまり、

「人が足りない」「制度が重すぎる」という認識自体は、国も持っている。

問題は別のところにある。

なぜ制度は大きく変わらないのか?

――理由①:事故が起きた時の責任構造を崩せない

電気設備は、事故が起これば

  • 感電死
  • 火災
  • 停電
  • 社会インフラ停止

といった「取り返しのつかない事態」につながる。

そのため、制度設計上どうしても、

「最後に責任を取る人間」を明確にしておきたい

という思想から逃れられない。

その結果、

  • 設備の設計に関わっていなくても
  • 運用に口出しできなくても
  • 予算決定権がなくても

電気主任技術者が“最終責任者”として残り続ける構造が温存されている。

これは制度上、かなり意図的な設計だ。

――理由②:制度を抜本改正すると「誰も責任を取れなくなる」

もし仮に、

  • AI監視でOK
  • IoT監視でOK
  • 点検は外注でOK
  • 主任技術者は名義だけ

という方向に完全に振り切った場合、事故発生時にこうなる。

「誰の責任なのか分からない」

行政として最も避けたいのがこの状態である。

そのため、

  • 技術的には可能でも
  • 制度としては認めない

というラインが意図的に残されている。

これは「現場軽視」というよりも、

行政としてのリスク回避行動に近い。

実際に行われてきた「緩和措置」

では、経産省は何もしていないのかというと、そうではない。

① 外部委託制度の拡充

  • 専任常駐でなくてもOK
  • 複数事業所の兼務を認可
  • 保安法人による管理を認可

外部委託制度の拡充による人手不足への対症療法

② 点検頻度の緩和(スマート保安)

  • IoT・遠隔監視導入で点検間隔を延長
  • 状態監視ベース保全(CBM)の容認
  • データ提出による合理化

スマート保安で「人が行く」前提から「データで見る」方向へ

③ 保安力評価制度の導入

  • 設備・体制・履歴を点数化
  • 一律規制からリスクベースへ

評価制度導入で優良事業者は負担軽減、という思想

④ 小規模需要家向けの簡素化

  • 小出力設備への規制緩和
  • 太陽光・蓄電池系の簡略化

それでも「しんどい」ままな理由

ここが最も重要なポイントだ。

制度は緩和されている。 しかし、現場は楽になっていない。

なぜか。

理由①:責任の重さだけが残っている

  • 判断権限はない
  • 予算決定権もない

でも事故時の説明責任はある。これは制度としてかなり歪だ。

理由②:設備が高度化しすぎた

現代の受変電設備は、

  • デジタルリレー
  • ネットワーク化
  • IEC61850
  • 遠隔監視
  • クラウド連携

もはや「電験の知識だけ」では追いつかない。

にもかかわらず、 資格制度は昭和の延長線上にある。

理由③:現場の負担増は制度に反映されない

  • 書類は増える
  • 審査は厳しくなる
  • 責任は重くなる
  • でも待遇は変わらない

結果として、

有資格者は多いのに、なり手がいない

という歪な状態が生まれている。

結論:経産省は理解しているが、制度は追いついていない

結論を整理するとこうなる。

  • ✔ 経産省は問題を理解している
  • ✔ 緩和策も実施している
  • ✔ しかし制度の根幹は変えられない
  • ✔ 結果として現場の負担だけが残る

これは「怠慢」ではなく、

制度設計上のジレンマと言っていい。

今後どうなるか?(私見)

今後、起きる可能性が高いのは次の流れだ。

  • 電気主任技術者の高齢化が進行
  • 若手がさらに敬遠
  • 外部委託・保安法人依存が進む
  • 一部設備で“実質無人化”が進行
  • 事故が起きたタイミングで制度見直し

つまり――

大きな事故か社会問題化が起きない限り、本質的な改革は進まない可能性が高い。

これは残念だが、日本の制度設計ではよくあるパターンでもある。

おわりに

電気主任技術者という制度は、本来とても価値のある制度だ。

だが現在は、

「責任だけが重く、報われにくい制度」

になりつつある。

経産省は現状を理解している。

だが、制度としての限界も抱えている。

だからこそ今後は、

現場の声を可視化すること

技術の進歩に合わせた制度再設計を求め続けること

無理を個人に押し付けない仕組みを作ること

これが、現場側からできる唯一の現実的アプローチだろう。

電気主任技術者の仕事と現状については以下で書いてあるので、参考にどうぞ

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