電力系統の保護方式を考えるとき、「感度(リレーの動作電流)」だけに注目してしまうと本質を見失うことがあります。
本稿では、絶縁協調の観点からなぜ非接地方式より抵抗接地方式が望ましい場合があるのか、
そしてその結果として「機器保護のために感度をあえて鈍くせざるを得ない」理由を丁寧に説明します。
1. 絶縁協調の基本と接地方式の位置づけ
絶縁協調とは、系統で発生し得る一時的過電圧(TOV)やサージに対して、機器の絶縁耐力や避雷器の定格、
リレー動作特性を整合させる考え方です。ここで中性点の接地方式は、TOVの大きさと持続時間を左右します。
非接地方式では、1線地絡時に健全相の対地電圧が√3倍に上昇し、再点弧性地絡が発生すると2.0~3.0puの
TOVに発展することもあります。その結果、避雷器やVT、変圧器の巻線絶縁に大きなストレスがかかります。
一方、抵抗接地方式は中性点を抵抗でクランプするため、中性点移行が抑えられ、
健全相の対地電圧上昇が小さく・短くなります。これにより、避雷器の定格選定や絶縁寿命に余裕が生まれ、
絶縁協調上は有利です。
つまり、機器保護(絶縁協調)を優先するなら、TOVを抑える抵抗接地が有利な局面が多いのです。
2. 感度をあえて鈍くする必要が出てくる理由
抵抗接地方式は絶縁協調には好都合ですが、リレー誤動作防止や機器保護の両立を考えると、
あえて感度(Pickup電流)を上げたり、動作時限を長く取ることが必要になる場面があります。
零相量の常時ゆらぎの影響
抵抗接地では零相回路が明確に閉路するため、不平衡負荷や線路の対地容量不平衡、
高調波などで地絡でない現象でも零相電流や零相電圧が観測されます。
このため、感度を高めすぎると誤動作リスクが高まります。
誤動作は広域停電や設備停止を招くため、機器保護の観点から整定を高めに設定するのが安全です。
CT残留磁気・鉄共振などへの耐性
大きな相間短絡や励磁突入の後には、CTやVTに残留磁気が残り、見かけ上の零相電流が発生することがあります。
このような非地絡要因による零相信号に対し、不要なトリップを避けるためPickup電流を上げたり、
動作時限を少し長くします。これにより、機器の不要な開閉やストレスを防ぎ、長寿命化につながります。
MOA・VT・変圧器絶縁へのストレス最小化
非接地ではTOVが高くなり、避雷器やVTの破壊リスクが高まります。
抵抗接地でTOVを抑える代わりに、零相回路にノイズが乗りやすくなるため、
誤動作を防ぐ目的でリレーの整定を鈍く設定することがあります。
結果的に、機器のストレスを減らし、全体としての保護最適化が図られます。
広域選択協調の確保
抵抗接地では地絡電流が増えるため、系統間で零相電流が分担して流れることがあります。
隣接フィーダでの誤検出を避け、選択性を確保するためにもPickup電流や動作時限に余裕を持たせます。
これにより、事故区間だけを適切に切り離す協調が保たれます。
絶縁協調とリレー整定のトレードオフ
例として6.6kV系統で、合計対地容量電流が約30Aの場合を考えます。
非接地では1線地絡電流は容量性で数十A程度で、健全相の電圧は√3倍に上昇します。
再点弧が起こると2puを超えるTOVが発生し、避雷器や変圧器に強いストレスが加わります。
抵抗接地では中性点抵抗によってTOVが抑制されますが、
系統不平衡や高調波で常時零相電流が数A~十数A流れるため、
67NのPickupを20~30A程度に上げ、動作時限を0.2~0.5秒程度に設定するなど、
誤動作を防ぐ方向で整定を行います。
これは感度を落とすのではなく、MOAやVT、変圧器絶縁寿命を守るための技術的判断です。
実務における整定・設計の手順
1. 零相回路のモデル化とTOV解析を行い、避雷器・VTの耐量確認を行う。
2. 機器保護を第一に考え、BILやMCOVが成立するよう絶縁協調を設計する。
3. 零相リレー整定時には高調波や不平衡を考慮し、誤動作抑止を優先する。
4. 高インピーダンス地絡は完全検出を目指すよりも、点検や診断で補完する。
5. まとめ
絶縁協調を優先する場合、抵抗接地方式はTOVを抑え、機器保護上有利です。
ただし、零相ノイズや過渡現象の影響を考慮し、
リレー整定をあえて鈍めにすることで、誤動作を防ぎ設備全体の寿命を延ばすことができます。
これは感度を犠牲にする妥協ではなく、
絶縁協調・保護協調・系統安定を総合的に最適化するための合理的な設計判断です。


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