電気主任技術者が「やりがい」を見いだせる環境とは何か

――制度が変わらない時代に、周囲ができること

はじめに:電気主任技術者は「孤独な専門職」になりやすい

電気主任技術者という職種は、制度上は非常に重要なポジションです。

高圧・特別高圧設備の安全を担保し、事故を未然に防ぐ最後の砦とも言える存在です。

一方で、現場の実態を見るとどうでしょうか。

  • 技術は高度化している
  • 設備は複雑化・デジタル化している
  • トラブル時の責任は重い
  • しかし裁量や決定権は限定的
  • それでいて制度はほぼ変わっていない

こうした環境の中で、「やりがい」を見失っている電気主任技術者は少なくありません。

そして重要なのは、“電気主任技術者本人の資質や努力”だけでは解決しないという点です。

むしろ、「一緒に仕事をする側」の理解と関わり方こそが、やりがいを左右している――

それが、現場を見てきた人ほど強く感じている現実ではないでしょうか。

現行制度はしばらく変わらない、という前提に立つ

まず前提として押さえておきたいのは、電気主任技術者制度は、少なくとも短期的には大きく変わらないという点です。

制度の歪みや限界は多くの人が認識していますが、

  • 法改正には時間がかかる
  • 責任の所在を簡単に動かせない
  • 「事故が起きていない」うちは大きく変わらない

という事情から、当面は現行制度のまま運用され続ける可能性が高いのが実情です。

つまり――

「制度が変わるのを待つ」のではなく、「今ある制度の中で、どう支えるか」

が現実的なテーマになります。

技術は待ってくれない。むしろ加速度的に難しくなる

一方で、技術の進歩は容赦なく進みます。

  • デジタル保護リレー
  • IEC 61850
  • フルデジタル変電所
  • ネットワーク化・遠隔監視
  • AI・データ活用
  • セキュリティ対策

これらはすべて、電気主任技術者が「知らなくてもよかった」時代から、 「知らないと判断できない」時代へ変わっていることを意味します。

にもかかわらず、制度上の責任は重いままで判断材料は増える一方で一人で背負わされがちという構造は変わっていません。ここにこそ、やりがいを削ってしまう最大の要因があります。

電気主任技術者がやりがいを感じられる環境とは

では、どういう環境であれば電気主任技術者は前向きに働けるのでしょうか。

結論から言えば、それは

「一人で責任を負わされない環境」です。

そしてこれは、制度を変えなくても、周囲の関わり方次第で実現できることでもあります。

①「判断を丸投げしない」ことが最大の支援になる

現場でよくある光景がこれです。

「ここ、電気主任技術者さんの判断でお願いします」

一見、尊重しているようで、実は一番やってはいけない言葉です。

なぜならこれは、

  • 技術的検討を丸投げしている
  • 責任だけを押し付けている
  • 判断材料を提供していない

という状態だからです。

本来あるべき姿は、設計者が案を出しメーカーが技術的根拠を示す。そして施工側がリスクを整理する。その上で主任技術者が「是非」を判断するという構図です。

「判断してもらう」ではなく「判断できる材料を揃える」

これだけで、電気主任技術者の心理的負担は大きく下がります。

② 技術を“ブラックボックス化しない”こと

最近の設備は高度化しすぎて、

「中身がよく分からないまま運用されている」ケースが増えています。

これが電気主任技術者の不安を増幅させます。

  • 保護リレーの中身が分からない
  • 通信仕様がブラックボックス
  • ベンダー任せで詳細説明がない
  • こうなると、何かあったときに

「自分が責任を取らされる」感覚だけが残ります。

やりがいのある環境とは逆です。

✔ 仕様を説明できる

✔ 設計思想が共有されている

✔ 何が想定内で、何が想定外か分かる

この状態をつくることが、実は最大の支援になります。

③「全部知っていなくていい」という空気を作る

電気主任技術者は万能ではありません。

通信の専門家ではないし、ITセキュリティの専門家でもない。ましてやPLCや制御の全領域を把握できるわけでもない。それでも現場では、

「主任なんだから知っていて当然」という空気が無意識に流れがちです。

これが、やりがいを削る最大の要因です。本来は、

  • 電気は電気の専門家
  • 通信は通信の専門家
  • 制御は制御の専門家

がチームとして補完し合うべきです。

電気主任技術者が安心して働ける職場は、「知らないことを知らないと言える職場」でもあります。

④「責任」ではなく「価値」で評価される環境

多くの現場で、電気主任技術者はこう扱われがちです。

事故が起きたら責任者で、何も起きなければ評価されない。これでは、やりがいが生まれません。

本来は、トラブルを未然に防ぎ危険な設計を止めた。無理な工程を是正した。

こうした“見えない仕事”こそ評価されるべきです。

周囲が「何も起きなかった=良い仕事だった」と理解できるかどうか。

ここが、やりがいの分かれ目です。

⑤ 電気主任技術者が「成長できる」環境であること

やりがいとは、単なる責任の重さではありません。

  • 新しい技術に触れられる
  • 意見が設計に反映される
  • 経験が次の案件に活きる
  • 若手に知識を伝えられる

こうした「成長実感」があって初めて、 仕事は前向きなものになります。

逆に、形式的な立会だけ、判を押すだけ。失敗すると責任だけ取らされる。この状態では、やりがいは消えていきます。

おわりに:電気主任技術者は「守られるべき専門職」でもある

電気主任技術者は、

決して「何でも責任を負う人」ではありません。

本来は、設備の安全を守る専門家であり技術的ブレーキ役でし。そして現場と制度をつなぐ存在

です。そしてその役割を全うしてもらうためには、

周囲が技術を理解しようとすること。施工者側が判断材料を用意すること。責任を一人に押し付けないことと専門性を尊重することが不可欠です。

制度がすぐに変わらないからこそ、「人の関わり方」で環境を良くする余地はまだ大きい。

電気主任技術者がやりがいを持って働ける現場は、結果として設備も、人も、組織も強くします。

その第一歩は、

「主任技術者に何を任せるか」ではなく、

「主任技術者とどう向き合うか」なのかもしれません。

電気主任技術者のしごとについても以下の記事で書いております。お時間あればどうぞ。

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