― 現場の本音と制度の現実を冷静に考える ―
電気主任技術者として働いていると、どうしても避けて通れない存在があります。
それが 産業保安監督部(以下、産保) です。
多くの電気主任技術者が一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。
- 「正直、怖い」
- 「揚げ足取りをされる」
- 「現場を知らないのに机上で判断される」
- 「何かあったら全部こっちの責任」
そして一方で、こんな意見もあります。
- 「事故を未然に防いでくれている」
- 「法令の番人として必要な存在」
- 「本来は味方のはず」
では実際のところ――
産業保安監督部は、電気主任技術者にとって敵なのか、味方なのか。
このテーマは感情論になりがちですが、制度・役割・現場実態を冷静に整理すると、かなり違った見え方をしてきます。
① まず結論:敵でも味方でもない。「役割が違うだけ」
結論から言うと、
産業保安監督部は、電気主任技術者の敵でも味方でもない。
役割と立場が根本的に違うだけ。
というのが現実に最も近い答えです。
両者の立ち位置を整理するとこうなります。
- 電気主任技術者→設備を安全に運用し、事故を起こさない責任者
- 産業保安監督部→法令に基づき、事故を未然に防ぐための監督者
ここで重要なのは、
産保は「現場の味方」ではなく「社会の味方」
だという点です。
つまり、
- 事業者の都合
- 現場の苦労
- 人手不足や予算不足
こうした事情は「理解はするが、判断基準にはならない」立場にあります。
これが現場との摩擦を生む最大の理由です。
② なぜ「敵」に見えてしまうのか?
では、なぜ多くの電気主任技術者が
「産保=敵」と感じてしまうのでしょうか。
理由は大きく3つあります。
① 結果責任を“すべて”主任技術者に負わせる構造
電気主任技術者制度の最大の問題点はここです。
- 実際の工事は外注
- 点検は協力会社
- 予算決定権は会社側
- 更新判断も経営判断
にもかかわらず、
事故が起きたら「主任技術者の管理不十分」
という構図になりやすい。
産保の立場としては「法令上そうなっているから」という話なのですが、
現場側からすると電気主任技術者にとって産業保安監督部は「敵」なのか、「味方」なのか
「権限はないのに責任だけある」
という極めて歪な状態になります。
これが「敵視」される最大の要因です。
② 現場の制約を十分に理解できない立場
産業保安監督部の職員は、必ずしも全員が現場経験者ではありません。
- 工期
- 予算
- 人員不足
- 老朽設備の現実
- メーカー撤退後の保守困難
こういった 現場の泥臭い事情 は、どうしても制度側からは見えにくい。
そのため、
「理屈は正しいが、現実的には無理」
という指摘が多くなり、 それが現場側のストレスになります。
③ 指導が「減点方式」に見えやすい
産保の指導は基本的に、
- できていない点を指摘する
- 不備を是正させる
- 書類不備を正す
という性質を持っています。
これは役割上仕方ないのですが、現場から見ると
- できている点は評価されない
- 苦労は見られない
- ダメ出しだけされる
という印象になりやすい。
結果として
「敵」「取り締まり機関」という印象が強く残るのです。
③ それでも産業保安監督部は必要なのか?
ここで一度、視点を変えてみましょう。
もし、産業保安監督部が存在しなかったらどうなるか。
おそらく――
- 安全投資は後回し
- 設備更新は限界まで引き延ばし
- 事故が起きてから対策電気主任技術者にとって産業保安監督部は「敵」なのか、「味方」なのか
- 現場の声は経営に届かない
という状態になります。
実際、海外では
- 法規制が緩い国ほど事故が多い
- 重大事故が起きてから制度が整う
- 技術者の立場が極端に弱い
という傾向があります。
日本の電気設備事故が世界的に見て少ないのは、 産保の存在があるからこそ という側面も確実にあります。
つまり、
- 産保は「うるさい存在」ではあるが、
- いなくなると一気に危険になる存在
という、非常に厄介で重要なポジションなのです。
④ 本当の問題は「両者の間にある構造」
ここまで整理すると、問題の本質はここにあります。
- ✔ 産業保安監督部が悪い
- ✔ 電気主任技術者が悪い
- ❌ どちらでもない
制度設計そのものが時代に合っていない
という点です。
- 現代の問題点
- 設備が高度化・ブラックボックス化
- デジタル化・通信化が進行
- 一人の主任技術者が把握できる範囲を超えている
しかし責任構造は昔のまま
これが、
「責任だけが肥大化している資格」
と言われる原因です。
⑤ では、産業保安監督部とどう付き合うべきか?
現実的な答えはこうです。
- ✔ 対立しない
- ✔ 迎合もしない
- ✔ 記録と説明で“守り”を固める
感情でぶつかっても何も得はありません。
重要なのは、
- 判断根拠を残す
- 記録を残す
- 危険性を言語化しておく
「やれない理由」を技術的に説明できるようにする
つまり、
「私は職務を尽くしました」と説明できる状態を作ること
これが唯一の防御手段です。
⑥ 結論:産業保安監督部は「敵」ではないが、「味方」でもない
最後に結論をまとめます。
産業保安監督部は
→ 電気主任技術者の敵ではない
→ しかし味方でもない
彼らは
→ 法令と社会の側に立つ存在
本当の問題は→ 現場に責任を集中させすぎる制度設計
電気主任技術者が守るべきは→ 設備よりもまず「自分自身」
産保と戦う必要はありません。
しかし、無防備でいるのは危険です。
これからの電気主任技術者に求められるのは、
技術力 + 記録力 + 説明力
そして何より、「この制度はおかしい」と冷静に言語化できる力なのだと思います。
電気主任技術者の仕事と現状については以下を参考にどうぞ。
ここの記事の内容を把握できるような方には釈迦に説法かもしれませんが、思いの丈を書いております。お時間ある時にどうぞ。



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