― 責任の重さと制度の歪み、そして“割に合わない”と言われる理由 ―
はじめに:電気主任技術者とはどんな仕事なのか
「電気主任技術者」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるだろうか。
・発電所や受変電設備の責任者
・法律で選任が義務付けられている資格者
・事故が起きたら名前が出る人
・でも実際に何をしているのかはよく分からない
多くの人にとって、電気主任技術者は「重要そうだが実態が見えにくい仕事」だと思う。
しかし現場を知る人間から見ると、この仕事ははっきり言って
「責任とリスクの割に合わない仕事」
になりつつある。本記事では、
- 電気主任技術者の本来の役割
- なぜここまで責任が重いのか
- 技術の進歩と制度のズレ
- 名義貸しが発生しやすい構造
- 今後この制度はどうなるのか
といった点を、できるだけ冷静に、しかし現実的に掘り下げていく。
電気主任技術者とは何をする人なのか
電気主任技術者は、電気事業法に基づき、
「事業用電気工作物の保安の監督を行う責任者」
として選任される立場である。
具体的には、
- 受変電設備の保安監督
- 点検・保守・工事計画の妥当性確認
- 事故・障害発生時の技術的責任
- 保安規程の整備・運用
- 立入検査や安全管理審査への対応
などが挙げられる。
重要なのは、
「実作業をする人」ではなく、「最終的な責任を負う人」
という位置づけであることだ。
ここが後々、大きな歪みを生む原因になる。
責任の重さが、もはや現実と釣り合っていない
電気主任技術者の最大の特徴は、
👉 権限よりも責任のほうが圧倒的に重い
という点にある。
● 事故が起きれば「責任者」は電気主任技術者
- 感電事故
- 停電事故
- 火災
- 保護装置の誤動作
- 施工不良
これらが発生した場合、まず名前が出るのは電気主任技術者だ。
たとえ実際の設計や工事、点検を他社が行っていても、
「主任技術者として適切に監督していたのか?」
という問いが必ず来る。
しかも、現実には…
- 工事を止める権限は弱い
- 予算決定権もない
- 工程も自分では決められない
- 人員不足でも責任は免れない
- というケースが非常に多い。
つまり、決定権はないが、責任だけは重いという構造が常態化している。
技術の高度化と制度がまったく噛み合っていない
ここ10〜20年で、受変電設備は大きく変わった。
- デジタル保護リレー
- IEC61850(GOOSE / MMS / SV)
- 通信ネットワーク化
- 遠隔監視・クラウド連携
- IoT・データセンター対応
- 冗長構成・自動復旧ロジック
もはや「電験で学ぶ世界」とは別物である。
にもかかわらず、制度上は
電験三種〜一種は主に電気理論・電力・機械・法規のみ扱い、通信やITはほぼ対象外という構成のまま止まっている。
結果として、
✔ 試験内容は昔のまま
✔ 現場は高度化・複雑化
✔ でも責任は増え続ける
という歪な状態が生まれている。
名義貸しが発生しやすい構造的理由
電気主任技術者を語るうえで避けられないのが「名義貸し」問題だ。
もちろん、名義貸しは違法である。
しかし、なぜそれが無くならないのか。
理由は単純だ。
● 需要と供給が合っていない
- 法律上は必須
- しかし担いたい人が少ない
- 事業者側はとにかく「名前が必要」
- 実務は別の人が回している
この構図があちこちで発生している。
さらに問題なのは、
報酬はそれほど高くない
責任だけは重い
事故時のリスクが大きすぎる
という点だ。
結果として、
「名前だけ貸して、実務には深く関わらない」
という不健全な形が生まれやすくなる。
これは個人の倫理の問題ではなく、制度設計そのものが無理をしている と言える。
なぜ「割に合わない仕事」と言われるのか
電気主任技術者が敬遠される理由を整理すると、以下に集約される。
✔ 責任が重い→事故時の社会的・法的責任が大きい
✔ 裁量が少ない→人・金・工程を動かせないのに責任だけ負う
✔ 技術進化に制度が追いついていない→IT・通信・制御の知識まで求められる
✔ リスクに対して報酬が見合わない→手当が月数万円程度のケースも多い
✔ 評価されにくい→「何も起きない=仕事をしていない」と見られがち
これでは若手が目指さなくなるのも当然だ。
それでも電気主任技術者という仕事が持つ価値
ここまで厳しいことを書いてきたが、
それでも私は「電気主任技術者という仕事自体が無意味」とは思っていない。
むしろ逆で、
- 社会インフラを支える根幹
- 電気安全の最後の砦
- 技術と法律の橋渡し役
という極めて重要なポジションである。
問題なのは 人ではなく制度 だ。
今後、この制度はどうなっていくのか
おそらく今後、
- 主任技術者の業務分担化
- チーム制・複数名体制
- リモート監視前提の制度
- 保安責任の分散
- 資格制度の再設計
といった方向に進まざるを得ない。現状のままでは、
✔ なり手が減る
✔ 高齢化が進む
✔ 名義貸しが増える
✔ 事故時の責任が破綻する
という未来が見えているからだ。
おわりに:電気主任技術者は「消耗職」であってはいけない
電気主任技術者は、本来
- 技術を活かし
- 社会を支え
- 誇りを持って働ける
仕事であるはずだ。
しかし現状は、「責任だけ重く、守られない立場」になってしまっている。
この歪みを放置すれば、制度そのものが立ち行かなくなる。
だからこそ今、
- 現場の声を可視化すること
- 制度の問題点を言語化すること
- 若い技術者に現実を伝えること
これらがとても重要になっている。
このブログが、その一助になれば幸いである。


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