需要家変圧器の結線方式とは何か

変圧器の「結線方式」は、電気設備を語るうえで避けて通れないテーマである。

しかしながら、受変電設備を扱う現場技術者でさえ、

「なぜこの工場は Δ―Y?」

「なぜこのデータセンターは 66kV-Y / 22kV-Δ / 400V-Y の3段構成?」

という理由を深く理解しているケースは意外と多くない。

多くの需要家において、受電電圧は 6.6kV、22kV、あるいは66kV・77kV といった高圧・特別高圧であり、その一次側と二次側をどのように結線するかによって、

・地絡保護が安定するのか

・高調波を抑えられるのか

・負荷設備は正常に動作するのか

・短絡容量をすみやかに抑えられるのか

といった、運用の根幹が大きく変わる。

そして近年では、インバータ、UPS、大容量サーバ電源、EV 充電器などの**「高調波を大量に発生させる負荷」**が増加し、変圧器結線方式の選定は、単に「昔からこうしてきた」という理由では許されなくなっている。

さらに、IEC61850 を基盤としたデジタル変電所では、変圧器の結線方式が保護IEDの零相検出ロジックに直接影響するため、誤った結線方式を選ぶと、保護動作の整合性が崩れ、最悪の場合は停電・設備損傷すら招きかねない。

つまり変圧器の結線方式とは、「電気設備すべての根本仕様を決める最重要パラメータ」と言っても過言ではない。

本稿では、需要家側(工場・大規模ビル・データセンター等)が

主変圧器の結線方式をどのように選択すべきかを体系的に解説する。

以下では、結線方式の種類から、選定基準、実務上の最新トレンド、

最後には「結線方式を間違えた場合のトラブル事例」まで含め、

現場技術者の視点から深掘りしていく。

  1. 【第1章:変圧器結線方式の基本 ― ΔとYは何が違うのか】
  2. ■1-1 Δ(デルタ)結線の特徴
  3. ■1-2 Y(スター)結線の特徴
  4. ■1-3 Δ-Y 結線:需要家で最も採用例が多い
  5. ■1-4 Y-Δ 結線:特高受電で多い
  6. ■1-5 Y-Y 結線:理論上は簡単だが実務ではほぼ使わない
  7. 【第2章:選定基準その1 ― 地絡保護と零相電流の流れ】
  8. ■2-1 零相電流はどこを流れるか?(地絡時の電流ルート)
  9. ■2-2 Δ結線は零相電流を通さない(閉じ込める)
  10. ■2-3 Y結線は零相電流をそのまま流す
  11. ■2-4 結線方式と地絡保護の関係(最重要)
  12. ■2-6 特高(66kV/77kV)受電で Y-Δ が選ばれる理由
  13. ■2-7 IEC61850/デジタル変電所での地絡判定との関係
  14. 【第3章:選定基準その2 ― 高調波負荷への対応】
  15. ■3-1 零相高調波(3次・9次・15次)が最も厄介
  16. ■3-2 Δ結線は零相高調波を吸収する
  17. ■3-3 データセンター(IDC)で Δ-Y が絶対視される理由
  18. ■3-4 工場設備でのインバータ増加と Δ 結線
  19. ■3-5 Y-Y はなぜ非推奨なのか?(高調波観点)
  20. ■3-6 高調波を避けるためのトランス追加は時代遅れに
  21. 【第4章:選定基準その3 ― 中性点と接地方式の整合性】
  22. ■4-1 Y結線の最大の利点:中性点を取り出せる
  23. ■4-2 中性点接地方式の種類と特徴
  24. ■4-3 需要家の低圧(100/200V / 230/400V)は Y が必須
  25. ■4-4 400/230V系の普及と Y結線の重要性向上
  26. ■4-5 Y結線と地絡保護(保護継電器)の関係
  27. ■4-6 IDCでの特殊要件:中性線の太径化・冗長化
  28. ■4-7 特高変電所での中性点処理:Y結線が基本
  29. 【第5章:需要家・高圧・特別高圧・IDCでの最新トレンド】
  30. ■5-1 高圧受電(6.6kV/22kV)では Δ-Y が圧倒的主流
  31. ■5-2 特高受電(66kV/77kV)は Y-Δ が標準仕様
  32. ■5-3 データセンターでは「Δ を挟む」ことが絶対条件
  33. ■5-4 モジュール型データセンター(HDDC, ODC, Container DC)では?
  34. ■5-5 ファクトリーオートメーション(FA)でも Δ-Y が増加中
  35. ■5-6 IEC61850デジタル変電所との親和性
  36. ■5-7 中圧22kVの今後:世界標準化の予兆
  37. 【第6章:結線方式を誤ると起きる実際のトラブル事例集】
  38. ■6-1 【事例1】Y-Yにしてしまい、地絡時に保護が動作しない
  39. ■6-2 【事例2】UPS・サーバ負荷の高調波がトランスに流入し、異常過熱
  40. ■6-3 【事例3】中性線が過負荷で焼損(400/230V系で発生)
  41. ■6-4 【事例4】零相電圧の誤検出により、保護継電器が無関係なフィーダを遮断
  42. ■6-5 【事例5】短絡容量が増大し、遮断器が規格外のサイズに
  43. ■6-6 【事例6】インバータ増設で電源品質が崩壊(工場あるある)
  44. ■6-7 【事例7】保護協調が成立せず、フィーダ全停止(22kV設備)
  45. 【終章:需要家変圧器の結線方式 ― 最終的な結論】
  46. ■結線方式の選定基準(最重要まとめ)
  47. ■変圧器結線方式の王道パターン

【第1章:変圧器結線方式の基本 ― ΔとYは何が違うのか】

まず前提として、変圧器の結線方式には大きく分けて次の種類がある。

  • Δ(デルタ結線)
  • Y(スター結線)
  • Y0 または Y 中性点引き出し
  • Δ-Y
  • Y-Δ
  • Y-Y
  • Δ-Δ

それぞれに明確な特徴と役割がある。

本章では例外を省きつつ、需要家の実務で最も重要な点に絞って説明する。

■1-1 Δ(デルタ)結線の特徴

◎(1)零相電流を通さない

Δ結線最大の特徴は、零相電流が外に出ていかず、Δ内部で循環して閉じてしまうことである。

これは後述する地絡保護・高調波対策において非常に重要で、**「零相成分のフィルタとして機能する」**とも言える。

◎(2)相電圧と線間電圧が一致

Δ結線では、線間電圧=相電圧 であるため、電圧計算がシンプルで、

高圧側に使う場合は取り扱いが容易。

◎(3)中性点を取り出せない

よって Δ単独では 3相3線となり、

単相負荷を接続するような低圧系統には向かない。

■1-2 Y(スター)結線の特徴

◎(1)中性点が作れる

Y結線は三相の共通点(スター点)を引き出すことができる。

これが中性点であり、低圧側へ 100V/200V を供給する際には必須となる。

◎(2)相電圧が線間電圧の 1/√3

例えば 200V 系の場合、

線間 200V → 相電圧 115V

という関係になる。

◎(3)零相電流がそのまま流れる

高圧側が Y 結線で中性点接地されている場合、

零相電流が上位系統に流れ込みやすく、系統全体の地絡電流ルートに大きく影響する。

■1-3 Δ-Y 結線:需要家で最も採用例が多い

高圧側 Δ、低圧側 Y。

一般工場、ビル、商業施設、さらにはデータセンターでも一般的。

理由:

Δ側が零相成分・高調波を吸収 → 地絡保護が安定

低圧側 Y で中性点が取れる → 100/200V, 400/230V が使える

負荷の高調波が高圧に伝わらない

短絡容量を抑えやすい

■1-4 Y-Δ 結線:特高受電で多い

66kV や 77kV を受電し、22kV へ落とす場合はほぼ Y-Δ が使われる。

理由:

特高系統は中性点がしっかり接地されている

地絡時の電圧変動が抑えられる

次段(22kV)の地絡保護が安定する

Δにすることで中間電圧系に零相を流さない

IDC や工場の特高変電所はほぼこのパターンである。

■1-5 Y-Y 結線:理論上は簡単だが実務ではほぼ使わない

理由はシンプルで、

零相成分が系統と低圧側で干渉しやすく、地絡障害時の挙動が複雑になるため。

デジタル変電所においても保護ロジックが成立しにくく、IEC61850 の IED にとっても扱いが難しい。

■1-6 Δ-Δ 結線:絶縁用途・特殊負荷用途に限定

UPS 間の絶縁や特殊機器の絶縁強化、

あるいは高調波負荷の分離など、用途は限られる。

ここまでが基礎編である。

次章からはいよいよ、「需要家がどのような基準で結線方式を選定すべきか」について実務視点で解説していく。

【第2章:選定基準その1 ― 地絡保護と零相電流の流れ】

変圧器の結線方式を決めるうえで、最重要となるのが零相電流の伝達特性である。

地絡事故は短絡事故ほどの大電流にはならないものの、実際の障害発生率は「短絡よりも地絡のほうが圧倒的に多い」。

そのため保護協調や系統安定性の観点では、「地絡がどう流れ、どこに帰ってくるか」を正しく理解しておく必要がある。

変圧器の結線方式により、零相電流の扱いは大きく変わる。

以下では、具体的な例とともに整理していく。

■2-1 零相電流はどこを流れるか?(地絡時の電流ルート)

零相電流(I0)は、

地絡点 → 設備の接地 → 大地 → 系統中性点

というルートを流れて上位系統に戻る。

しかし、結線方式によって I0 が変圧器を通過できるかどうかが変わる。

これが選定基準の根本である。

■2-2 Δ結線は零相電流を通さない(閉じ込める)

これが需要家変圧器で Δ が重宝される最大の理由であり、高調波負荷が増えた現代ではさらに重要議題となっている。

Δ結線は零相電圧を受けても、三相巻線が三角形状で閉じているため、内部で循環電流が回るだけで外へ出て行かない。

つまり、「Δ は零相成分を上位系統に伝えないフィルタ」として働く。

この特性は、

地絡保護の安定、高調波対策、零相高調波の閉じ込めといった実務で計り知れないメリットを生む。

■2-3 Y結線は零相電流をそのまま流す

Y結線で中性点が接地されていると、零相電流は中性点経由で上位系統に戻っていく。

つまり、系統と負荷側の地絡が影響し合う可能性を秘めている。

特に「Y-Y」で上位・下位の両方が中性点接地されている場合、

零相回路が自然に連結され、

地絡障害時の挙動が複雑化しやすい。そのため Y-Y は実務上ほぼ採用されない。

■2-4 結線方式と地絡保護の関係(最重要)

以下に、地絡保護に与える影響をまとめる。

Δ-Y:Δ側で零相を遮断:二次地絡が上位に干渉しない → 保護が安定

Y-Δ:一次側の零相は二次へ行かない:特高→高圧の地絡協調に有利

Y-Y:零相がそのまま通る:系統間干渉が起きやすく非推奨

Δ-Δ:零相は内部循環:地絡検出が難しくなる場合あり

■2-5 なぜ需要家の6.6kV受電では Δ-Y が主流なのか?

結論から言えば、6.6kV 高圧系統は中性点非接地(消弧リアクトルなど)であり、地絡電流をむやみに流したくないため。

6.6kV の地絡事故は、

  • 電流が小さい(数十A〜数百A)
  • 継電器での検出が難しい
  • 系統の不安定要因になりやすい
  • など特徴がある。

そのため 高圧受電では、一次側はΔにして零相のやり取りを極力しないのが正解となる。

これは現代の VVVF・UPS・サーバ負荷が多い設備でも同じであり、

高調波・零相をΔ内に閉じ込めるという点で、Δは必須の役割を果たす。

■2-6 特高(66kV/77kV)受電で Y-Δ が選ばれる理由

特別高圧の66kV/77kV系は「中性点直接接地」が標準であり、地絡電流は数kA級と大きく、地絡判定も明確である。

そのため、

  • 特高側 Y(中性点接地)
  • 高圧側 Δ

という構成が非常に合理的となる。Δがワンクッション入ることで、地絡障害が下位系統へ不要に波及しない。IDC(データセンター)も工場も同じで、

66kV-Y → 22kV-Δ → 400V-Y

という 3バンク構成が実務上の標準となっている。

■2-7 IEC61850/デジタル変電所での地絡判定との関係

IEC61850 に基づくデジタル変電所(GOOSE/SV/IED)では、

保護ロジックは零相電圧・零相電流を入力として扱う。

結線方式を誤ると、IED が期待した零相の流れ方と実際の系統挙動が合わなくなり、誤動作のリスクが高まる。

とくに Y-Y は最悪で、零相がそのまま伝わることで、保護協調が完全に崩れてしまうケースもある。

【第3章:選定基準その2 ― 高調波負荷への対応】

近年、需要家の電気設備で特に重要度が増しているのが、**「高調波への対策」**である。

サーバ、UPS、EV充電器、VVVF、LED照明、インバータ機器…

こうした負荷は一般に「非線形負荷」と呼ばれ、奇数次を中心に莫大な高調波電流を発生する。

この高調波が系統側に流れ込むと、

  • 変圧器の過熱
  • ケーブルの過熱
  • ブレーカの誤動作
  • 電圧ひずみの拡大
  • 系統全体の電力品質低下

など、深刻な問題を引き起こす。

■3-1 零相高調波(3次・9次・15次)が最も厄介

高調波の中でも特に問題なのが、3n次(3次、9次、15次)=零相高調波である。

これらは三相の電流が同相で流れるため、

Y結線だと中性線に集中し、

過熱の原因になる。

■3-2 Δ結線は零相高調波を吸収する

この問題において Δ結線は絶大な威力を発揮する。

Δ巻線内で零相成分は循環し、外へは出ていかないため、「高調波フィルタ」として機能する。

実務でのメリットは次のとおり。

◎メリット1:高圧側に高調波を出さない

変電所・配電系統に迷惑をかけず、電力会社基準を満たしやすい。

◎メリット2:トランス自体の励磁電流ひずみを抑える

特に大容量 UPS の入力高調波を受ける場合は大きなメリット。

◎メリット3:隣接バンク・隣接設備への悪影響を低減

特にデータセンターではシステム全体の電力品質が向上する。

■3-3 データセンター(IDC)で Δ-Y が絶対視される理由

IDC の電源負荷は VFI(オンラインUPS)や PDU など、

膨大なインバータ・スイッチング素子で構成される。

CPU・GPU サーバの増加で高調波の総量は年々増加し、低圧側の電力品質の悪化を懸念した構成が必須となっている。

結果として、66kV-Y → 22kV-Δ → 400/230V-Y

という「Δ 挟み込み構成」が世界共通の標準となりつつある。

この構成は AWS、Google、Microsoft、Meta、Tencent など

主要クラウド事業者の設計標準でも採用されている。

■3-4 工場設備でのインバータ増加と Δ 結線

製造業でも、モータ制御の VVVF 化、ロボットの増加、EV バッテリー生産ラインの増設などで、非線形負荷の比率が急増している。

特にモータ制御は 6パルス/12パルスインバータが主流であり、

高調波電流は避けられない。

→ Δ-Y 変圧器が「標準」になるのは必然である。

■3-5 Y-Y はなぜ非推奨なのか?(高調波観点)

Y-Y は高調波対策の観点からすると致命的である。

理由は明確で、零相高調波を上位・下位にそのまま伝えてしまうから。

零相高調波が流れ始めると、

  • 中性線の過熱
  • 変圧器励磁電流のひずみ増加
  • ブレーカの誤動作

などが頻発する。

そのため Y-Y を採用する需要家はほぼ存在しない。

■3-6 高調波を避けるためのトランス追加は時代遅れに

昔は高調波対策として、「負荷専用の絶縁トランス(Δ-Y)を追加する」という方式が多かった。

しかし現代の設備では、

  • UPS が巨大
  • サーバが膨大
  • EV充電器が急増

と負荷の規模が大きく、

一個の対策用変圧器では到底吸収できない量の高調波が発生する。

そのため、主変圧器段階から Δ-Y を挟んでおくことが最善策という設計思想が主流となっている。

【第4章:選定基準その3 ― 中性点と接地方式の整合性】

変圧器の結線方式を決めるうえで、中性点の取り扱い(Neutral Point) は地絡保護・高調波・電圧品質すべてに影響する極めて重要な要素である。

特に需要家側の低圧系統では、単相負荷が多く、中性点をどう扱うかが供給方式そのものを左右する。ここでは、接地方式(直接接地・抵抗接地・非接地)との組み合わせまで含め、実務に必要な知識を体系的に整理する。

■4-1 Y結線の最大の利点:中性点を取り出せる

Y結線は三相巻線の中心点(スター点)を取り出すことができる。

これが需要家側の低圧系にとって不可欠である理由は次のとおり。

◎(1)単相負荷が使える→200/100V、400/230Vなどの三相4線式に欠かせない。

◎(2)中性線を基準とした電圧安定が可能→位相不平衡負荷があっても電圧が乱れにくい。

◎(3)地絡保護の基準点になる→中性点接地方式により、保護協調が取りやすい。

◎(4)通信設備・電子機器の電源品質確保→特にサーバ・コンピュータは中性点を基準として動作するため必須。

■4-2 中性点接地方式の種類と特徴

需要家設備で一般的な低圧側の接地方式を整理すると、

主に以下の3つである。

直接接地(Solid Ground):中性点を接地線で直結:日本の低圧系ではほぼ標準(100/200V、230/400V)

抵抗接地(R接地):接地抵抗を挟む:高圧・特高の地絡電流を制限するために使用

非接地(Ungrounded):中性点を接地しない:高圧6.6kV系(消弧リアクトル)に多い

ここで重要なのは、中性点接地方式=結線方式と強く結びつくという事実である。

つまり、Y なら中性点を接地して各種保護機能を使える。Δ では中性点がないため接地方式を選べないという構造的制約がある。

■4-3 需要家の低圧(100/200V / 230/400V)は Y が必須

日本国内の低圧需要家にとって、三相4線式はほぼ標準である。

  • 一般の200Vモータ
  • 100V単相負荷
  • 空調・照明
  • UPS(400Vでも内部はY構成が多い)
  • データセンター用ラックPDU

これらはすべて 中性点が必要であり、Δ結線では代用できない。

つまり低圧側は必然的に Y結線になる。

■4-4 400/230V系の普及と Y結線の重要性向上

近年、日本国内でも「400/230V供給」 を採用するデータセンターが急増している。

(AWS・Google・Microsoft 等の世界標準仕様に合わせるため)

400/230Vは次のメリットから広がっている。

  • 単相230Vでサーバが直接動作
  • 変換ロスが減る
  • PDU・UPSが世界標準製品を使える
  • 高効率
  • ケーブルサイズを小さくできる

しかし400/230Vは中性点が非常に重要で、中性線電流が大きくなることが多い(高調波の影響で)。この電力品質を安定させるためにも、変圧器二次側を Y結線にすることは必須と言える。

■4-5 Y結線と地絡保護(保護継電器)の関係

Y結線で中性点を接地すると、零相電圧(V0)や零相電流(I0)が明確に扱える。

これにより、

  • 地絡方向継電器(67N)
  • 零相過電流継電器(51N)
  • 零相過電圧継電器(59N)
  • などが安定に動作する。

逆に Δの場合、中性点がないため地絡検出が難しい、I0がそもそも取り出せないという制約が生まれる。

■4-6 IDCでの特殊要件:中性線の太径化・冗長化

データセンターは中性線に高調波電流が集中しやすく、特に 3次高調波(零相成分) が大量に流れる。そのため、

  • 中性線を相線の2倍サイズにする
  • 中性線を2本敷設して並列にする
  • 中性点接地を強化する
  • といった設計が求められる。

この観点でも、二次側はY結線が前提である。

■4-7 特高変電所での中性点処理:Y結線が基本

特別高圧の66kV/77kVは中性点直接接地が原則である。

これは地絡電流を大きくし、地絡判定を明確にするためで、特高変電所はこの方式に強く依存する。結果として、

66kV側:Y結線(中性点接地)

22kV側:Δ結線(零相遮断)

という構成が極めて合理的となる。

【第5章:需要家・高圧・特別高圧・IDCでの最新トレンド】

ここでは、実際の需要家設備、データセンター、工場、特高変電所でどの結線方式が採用されているのかを具体的に整理する。

あなたの実務領域(特高・IDC・デジタル変電所)に合わせ、現代の潮流を分かりやすくまとめていく。

■5-1 高圧受電(6.6kV/22kV)では Δ-Y が圧倒的主流

高圧受電において、一次側Δはほぼ常識化している。

理由は以下のとおり。

  • 高調波を系統へ流さない
  • 零相成分を遮断できる
  • 地絡保護が安定
  • 低圧側で中性点が生成できる
  • 設計がシンプルでメーカー標準品が多い
  • 一般ビル・工場で90%以上が Δ-Y である。

特別高圧系統は中性点接地が基本であり、

■5-2 特高受電(66kV/77kV)は Y-Δ が標準仕様

高圧側(22kV)でΔを挟むことで、零相成分が不必要に伝わらないようにする。

典型構成

  • 66kV:Y(中性点接地)
  • 22kV:Δ
  • 400/230V:Y

この 3段構成は、大規模工場・大学キャンパス・データセンターで広く採用される。

■5-3 データセンターでは「Δ を挟む」ことが絶対条件

世界のクラウド事業者が採用している典型構成は以下。

◎AWS / Google / Microsoft / Meta

66kV-Y → 22kV-Δ → 400/230V-Y

これには理由がある。

◎(1)22kVをΔにすることで高調波を遮断

サーバ由来の高調波を特高に流さない。

◎(2)400/230Vの零相高調波をΔで吸収

中性線過電流の抑制に大きな効果。

◎(3)高調波抑制のための変圧器追加が不要

設計がシンプルになり、冗長性計画が容易になる。

◎(4)短絡容量の制御

IDCでは短絡容量が過大になると弁別協調が困難になるため、Δは重要。

■5-4 モジュール型データセンター(HDDC, ODC, Container DC)では?

モジュール型設備でも結線方式は共通である。

モジュール内部の UPS/PDU群は400/230V-Y

外部の受電は22kV-Δ

上位に66kV-Y

一貫して「Δ を挟む」思想に基づいて設計される。

■5-5 ファクトリーオートメーション(FA)でも Δ-Y が増加中

工場設備では、高速ロボット・インバータモータ・EV生産ラインなどの増加により、高調波の総量が10年前の5〜20倍に増えている。結果として、

Δ-Y変圧器が「高調波フィルタ」としての役割を兼ねる

という設計が定着しつつある。

■5-6 IEC61850デジタル変電所との親和性

デジタル変電所では、

零相電流

零相過電圧

地絡方向

などを GOOSE/SV/IED で精密に計測し判定する。

このため結線方式が保護動作に直結する。

特に零相成分の扱いが複雑な Y-Y はデジタル変電所と非常に相性が悪く、IEC61850の保護定義上も非推奨である。

■5-7 中圧22kVの今後:世界標準化の予兆

世界的には

11kV, 20kV, 22kV の中圧配電 が標準化しており、日本でもデータセンターを中心に 22kVが増加している。

22kV系では、Δ の採用比率がさらに増える

22kV-GISと組み合わせたモジュール型変電所が普及

特高受電 → 中圧22kV → 低圧400V の3段構成が標準化

といった方向性が確実視されている。

【第6章:結線方式を誤ると起きる実際のトラブル事例集】

変圧器の結線方式は、一見すると「一次側はΔ、二次側はY」という単純な話に思えるかもしれない。

しかし現場では、結線方式の選定誤りによって電圧異常、保護誤動作、システム不安定などの重大トラブルが数多く報告されている。

ここでは、実際に需要家・データセンター・工場などで起きた(または起こり得る)

「結線方式を誤ったがゆえの典型的なトラブル」 を体系的にまとめる。

■6-1 【事例1】Y-Yにしてしまい、地絡時に保護が動作しない

最も典型的で、かつ致命的なミスがこれである。

「Y-Yは簡単そうだから良いのでは?」という誤解から、小規模設備で Y-Y を選んでしまう例がある。

  • しかし Y-Y は零相電圧・零相電流をそのまま上位系統と共有するため、
  • 地絡方向継電器(67N)が方向を誤る
  • 上位系統の地絡と下位系統の地絡が干渉する
  • 59N/64 等の過電圧保護の設定が成立しない
  • 地絡検出がシビアになり無動作になる

という問題が起き、実際に 地絡事故で停電が長期化した例 も報告されている。

Y-Y は需要家では非推奨どころか「禁忌」に近い。

■6-2 【事例2】UPS・サーバ負荷の高調波がトランスに流入し、異常過熱

低圧側を Y とし、一次側も Y にしてしまうと、UPS 由来の零相高調波が堂々と上位に流れ込む。

その結果:

  • 変圧器の鉄心損が増加し温度上昇
  • ケーブル・母線の中性線が過熱
  • ブレーカの誤動作
  • 配電盤内部の電圧ひずみが拡大

特にデータセンターでは、UPS・サーバが大量の零相高調波(3次・9次・15次)を吐き出すため、Y-Y にするとほぼ確実に電力品質が崩壊する。

このため IDC では

66kV-Y → 22kV-Δ → 400/230V-Y

が事実上の「絶対条件」になっている。

■6-3 【事例3】中性線が過負荷で焼損(400/230V系で発生)

400/230V系(IEC規格)では、

高調波によって中性線電流が相電流を超えるケースが珍しくない。

しかし、結線方式の知識が浅い施工企業が

  • 中性線を相線と同じサイズで敷設
  • 中性線を1本しか敷設しない
  • 3次高調波の増大を見込まない

といった設計をしてしまい、

中性線過負荷 → 焼損 → ラック全停止

という大事故が複数例報告されている。

本来であれば、

400/230V-Y は中性線の太径化が必須

であるが、その根本要因となる高調波は

Δ側で吸収する必要がある。つまり、結線方式(Δ-Y)が正しくなければ中性線の保護設計は成立しない。

■6-4 【事例4】零相電圧の誤検出により、保護継電器が無関係なフィーダを遮断

IEC61850 デジタル変電所では、IED(保護継電器)は零相電圧・零相電流を非常に高精度で検出する。しかし、変圧器の結線方式が誤っている(または想定と異なる)と、

  • IED が受け取る零相電圧が増大
  • 地絡方向判定(67N)が逆方向に
  • GOOSE 配信した遮断指令が別フィーダに波及

という事象が起こる。

実際、海外のデジタル変電所では、

Y-Y 結線の誤採用により誤遮断事故が報告されている。

結線方式は保護ロジックそのものの前提条件であるため、IEC61850時代においては特に重要度が高い。

■6-5 【事例5】短絡容量が増大し、遮断器が規格外のサイズに

結線方式は短絡容量にも影響する。

特に Y-Y 結線や Δ-Δ 結線は、短絡容量が大きく算出される場合があり、需要家側の遮断器が想定外の定格電流・遮断容量を要求される。結果、

  • 大型遮断器が必要
  • 配電盤が巨大化
  • コストが2倍〜3倍
  • 配線・母線も太径化が必要

という問題が発生。これを避けるためにも、Δ-Y は短絡容量を適切に抑制する作用があり、最も扱いやすい。

■6-6 【事例6】インバータ増設で電源品質が崩壊(工場あるある)

工場では設備増設が常に発生する。

しかし、昔の設備のまま結線方式が Y-Y or Y-Δ のままだと、インバータ(VVVF)の増設で高調波が増えた際、電圧THDが一気に許容値を超える。特に Y-Y では上位系統に高調波を流してしまい、電力会社から警告・是正要求が来ることすらある。

このため近年は「高調波の増加に強い Δ-Y を最初から採用する」という設計思想が広がっている。

■6-7 【事例7】保護協調が成立せず、フィーダ全停止(22kV設備)

22kV受電の工場やキャンパスで、結線方式が適切でない場合(例:Y-Y or Y-Δの誤用)、

  • 上位/下位の地絡方向が不一致
  • 零相電圧が不安定
  • IEDの51N/67N/59Nの整合が崩れる

などの原因で保護協調が取れず、1回の地絡でキャンパス全域停止という例がある。

特に大学・研究施設・病院などでは、この種の事故が非常に問題となる。

【終章:需要家変圧器の結線方式 ― 最終的な結論】

本記事では、需要家の変圧器結線方式をどのように選ぶべきかを体系的に説明してきた。

改めて、本質を凝縮すると次のようになる。

■結線方式の選定基準(最重要まとめ)

1. 零相電流の流れ方(地絡保護)→ Δは零相を遮断し、Yは零相を通す。

2. 高調波(特に零相高調波)への耐性→ Δが「フィルタ」として機能する。

3. 中性点の必要性→ 低圧側で単相負荷を使うなら二次側はYが必須。

4. 受電電圧(高圧/特高)との整合→ 6.6kV/22kV受電は一次側Δが基本、 66kV/77kVは一次側Yが基本。

5. 短絡容量の制御→ Δは短絡容量を適切に抑える。

6. IDC・工場など高調波負荷の増加に対応→ Δ-Y が世界的に主流。

■変圧器結線方式の王道パターン

需要家の99%で答えはこうなる。

■高圧(6.6kV/22kV)受電

一次:Δ

二次:Y(中性点接地)

→ Δ-Y が標準

■特別高圧(66kV/77kV)受電

一次:Y(中性点接地)

二次:Δ

→ Y-Δ が標準

■データセンター

66kV-Y → 22kV-Δ → 400/230V-Y

→ 世界標準

■結線方式を決めることは、電気設備の“運命”を決めること

変圧器の結線方式は、

  • 地絡保護
  • 高調波耐性
  • 電圧品質
  • 短絡容量
  • 受電安定性
  • 保護協調

IEC61850 IEDロジック

これらすべてに直接影響する。つまり、結線方式の選定は受変電設備の心臓部の設計であり、間違えると設備全体が不安定になる。逆に言えば、結線方式を正しく選べば、電気設備の信頼性は劇的に向上する。

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