特別高圧受変電設備の設計や更新協議をしていると、こんな話題が出ることがあります。
「構内外線の高圧ケーブル、電圧降下が厳しいから太めにしたい」
「でも太くするとB種の接地抵抗が低く求められて、接地工事費が上がるんじゃない?」
この感覚、現場目線ではかなり“あるある”です。
そして結論から言うと、これは方向性としては当たっている一方で、理解の中に誤解も混ざりやすいポイントです。
この記事では、
何が正しくて、何が誤解なのか
なぜ「太くすると接地が厳しくなる」と感じるのか
実務でコストが跳ねるパターンと、設計上の対処
を、なるべく丁寧に整理します。
まず結論:ケーブルが太いから「接地抵抗が勝手に下がる」わけではない
最初に一番大事なところです。
ケーブルを太くしても、接地抵抗そのもの(大地に対する抵抗値)が自然に下がることはありません。
接地抵抗を決めるのは、基本的にこちらです。
- 土壌抵抗率(地盤の性質、乾湿、岩盤/砂地など)
- 接地極の形状(棒、メッシュ、リング、基礎接地の取り方)
- 本数・長さ・打ち込み深さ
- 接地線の敷設の仕方、接続点の構成
つまり**接地抵抗は“土と電極の世界”**の話であって、
ケーブルの太さ(導体断面積)の話とは直接つながっていないわけです。
ここが一つ目の誤解ポイントです。
それでも「太くするとB種が厳しくなる」と言われる理由
ではなぜ現場でそう感じるのか。
答えはシンプルで、ケーブルを太くすると、事故時に流れる電流(地絡電流を含む)が増える方向に働くことがあるからです。
B種接地は、一般に次のような関係で語られます。
B種接地抵抗 RB は、地絡電流 Ig が大きいほど厳しくなる(RBを小さく要求される)
言い換えると、
地絡電流が小さい → 許容される接地抵抗は大きめでもよい
地絡電流が大きい → 許容される接地抵抗は小さくしないといけない
という構造です。ここが、今回の話の“本質”です。
ケーブルを太くすると、地絡電流が増えることがある(間接的な因果)
電圧降下対策でケーブルを太くする、というのはつまり、
ケーブルの抵抗分が下がる
ざっくり言うと「電気が流れやすくなる」
系統のインピーダンス(抵抗+リアクタンス)が小さくなる方向
になります。
その結果、事故時(地絡・短絡)に見える系統インピーダンスが小さくなり、
事故電流が増える方向に働くことがある。
これが、「ケーブルを太くしたらB種が厳しくなる」と言われる“原因”です。
重要なのはここで、
- ケーブル太さ → 接地抵抗が下がる(×)
- ケーブル太さ → 地絡電流が増える → 必要な接地抵抗が厳しくなる(○)
という、因果が1段階ズレている点です。
このズレが整理できると、設計協議がすごくラクになります。
「必ず厳しくなる」わけではない。条件次第で変わる
ただし、ここも現場で誤解されがちです。
ケーブルを太くしたら必ずB種が厳しくなる、というわけではありません。
なぜなら地絡電流 Ig は、ケーブルだけで決まるものではないからです。
Ig を支配する要素は他にもたくさんあります。
- 受電点の短絡容量(電力会社側の強さ)
- 変圧器容量や%インピーダンス
- 中性点接地方式(ここが超重要)
- 地絡保護の方式、遮断時間、協調
特別高圧では、特にこの「中性点接地方式」で様相が変わります。
実務での分岐点:中性点接地方式(NGRの有無)
ここは設計者・保護リレー屋・主任技術者・メーカーが噛み合うべきポイントです。
たとえば、特高系統で**抵抗接地(NGR:中性点接地抵抗)**を採用している場合、
地絡電流は意図的に制限されます。
つまり、
系統が強くても
ケーブルを太くしても
**地絡電流はNGRによって“頭打ち”**になり、B種が急に厳しくならないケースが出てきます。
逆に、接地方式や系統条件によっては、
- ケーブル太径化で事故電流が増える
- Ig が増えて RB の要求値が厳しくなる
- 接地工事の難度が跳ね上がる
というパターンも現実に起こります。
「工事費が跳ねる」典型パターン(現場あるある)
現場で起きがちな“嫌な流れ”はだいたいこれです。
- 受電設備の更新・新設で、まず電圧降下が問題になる
- 「ならケーブルを太くしよう」と断面積アップで設計変更
- 系統計算(短絡・地絡)を詰めたら、想定電流が増える
- B種接地の要求値が厳しくなる(例:10Ω → 3Ωみたいに)
- 土木が「それ無理」「本数増やす」「深打ち必要」「薬剤接地」などになる
- 施工費が一気に膨らむ
- 後工程で発覚して、見積・予算・発注者説明が地獄になる
このパターンがあるから、
「ケーブル太くする=接地が高くなる」
という“現場の経験則”が生まれます。
ただし、これは正確には
「太くしたこと自体が悪いのではなく、系統条件と接地設計をセットで見ていないのが悪い」
という話です。
誤解を生む言い回しを正す(協議で効く表現)
社内外協議で役立つ、整理された言い方を置いておきます。
NG(誤解が増える)
「ケーブル太くすると接地抵抗が下がるから大変になる」
OK(正確で説明しやすい)
「ケーブル太径化で系統インピーダンスが下がり、地絡電流が増える可能性がある」
「地絡電流が増えると、B種の要求接地抵抗が厳しくなる場合がある」
「したがって、ケーブル選定と接地設計は同時に評価する必要がある」
この言い方に変えるだけで、関係者(電気・土木・保護・監理)が同じテーブルに乗りやすくなります。
ではどうする?──設計段階での現実的な対策
最後に、実務の落としどころをまとめます。
対策①:最初から「ケーブル選定+接地設計」をセットで回す
電圧降下だけで断面積を決めると、後から“接地で足をすくわれる”ことがあります。
なので最初から、
- 電圧降下
- 損失
- 短絡電流
- 地絡電流
- 必要接地抵抗
- 接地方式(メッシュ、リング、基礎接地活用)
をセットで評価するのが安全です。
対策②:中性点接地方式(NGR等)を含めた全体最適を考える
地絡電流が支配的に効く場合、ケーブルだけ弄っても根本解決になりません。
NGR等で地絡電流を管理し、接地設計を現実解に落とすのは王道です。
対策③:接地は“設計後半の付け足し”にしない
接地は「最後にまとめる」扱いになりがちですが、実際には土木費・施工性を左右します。
設計初期に一度、土壌条件と現実的なΩの見込みを掴んでおくと、後工程が救われます。
まとめ:質問への答えを一文で言うなら
質問の趣旨に戻ると、
「ケーブルを太めにするとB種接地抵抗が低くなって工事費が上がるのか?」
については、こう言えます。
ケーブルを太くしたから接地抵抗が“勝手に低くなる”わけではない
ただし太径化で地絡電流が増えると、B種の“要求される接地抵抗値”が厳しくなり、工事費が上がるケースはある
だから、ケーブル選定と接地設計はセットで評価するのが正しい
という結論です。
おまけ:読者向けの「設計者の教訓」
最後に、現場で効く教訓をひとつ。
電圧降下は“普段の顔”の問題。
接地は“事故の顔”の問題。
どちらかだけ最適化すると、もう片方で必ずツケを払う。
特別高圧の設計は、この“両方の顔”を同時に見られる人が強いです。



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