本稿では、差動保護で用いられる「常時スピル(Standing Spill Current)」について、定義・発生要因・整定計算・実務上の注意点に分けて解説します。耳馴染みのない言葉だったので備忘のため記事にする
常時スピルとは何か
差動保護(母線・変圧器・発電機・線路差動など)では、内部に事故がない健全時には、差電流(スピル電流)は本来「0」となるはずです。
しかし実際には、CT(変流器)や配線の誤差により、健全状態でも常にわずかな差電流が流れ込みます。この「健全時に常に存在する微小な差動電流」が常時スピルです。
なぜ常時スピルが発生するのか
主な原因は以下の通りです:
・CTの比誤差・位相誤差の差
・CT飽和や励磁特性のばらつき
・二次回路のケーブル長・抵抗・バーデン差
・多回線母線など、多数CTの合成精度低下
常時スピルと差動継電器のバイアス特性
差動継電器は、常時スピルによる誤動作を防ぐため、スルー電流(through current)に応じて動作感度を調整する「バイアス特性」を持ちます。
差動継電器の古典的なバイアスの定義式は以下の通りです:
%BIAS = ( I_spill_operate / I_through ) × 100
ここで、I_spill_operate はリレーが動作するために必要なスピル電流、I_through は流れ込み電流(スルー電流)です。
実務における整定と確認ポイント
① 低域動作しきい値(または低域バイアス)は、最大常時スピルを十分に上回る位置に設定すること。
② 外部短絡時のCT飽和に備え、高域バイアスで安定度を確保すること。
③ 母線保護では、常時スピルが回路数増加で増大するため、将来増設分を考慮してマージンを取ること。
現場試験でのポイント
・充電後の実負荷時にスルー電流試験を行い、常時スピルを実測・記録する
・計算整定値と実測結果が一致するか確認し、必要に応じてしきい値を再調整する
まとめ
常時スピルは、CT誤差と二次回路条件により健全時でも必ず存在する差動電流です。その最大値を把握し、差動継電器の低域・高域バイアス設定に反映することで、「誤動作の防止」と「内部故障への高感度検出」を両立できます。


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