異なる業界へ転身(転職)することは、一定の困難と不安を伴う行為である。
既存の知識体系、慣習、技術基盤がそのまま適用できるとは限らず、場合によっては基本的概念からの再学習を迫られる。
しかしながら、転身そのものは否定されるべきではない。むしろ、個人の経験領域を拡張し、専門性を多面的なものへと高める機会となり得る。
筆者は弱電分野から強電分野へと職務領域を移した経歴を有する。当初は規格・安全概念・設計思想・計算手法等において、既存知識との連続性が乏しく、業務遂行に相応の困難を感じた。
それなりに苦労もした。悲喜こもごもがあった。
しかし、時間と実務に基づく習熟によって、領域間に横たわる理論的な共通基盤を見出すことが可能となった。
ここで重要となるのは、既存経験を完全に切り捨てない姿勢である。
異業界への転身は“白紙からの出発”ではない。専門領域こそ異なれど、問題解決における思考の構造、情報整理の方法、現場における状況判断、他者との調整力など、移転可能な技能(transferable skills)は確かに存在する。
私はその能力に最大限助けられた。
加えて、異なる業界から参入した者は、従来の常識や慣行を相対化できる立場にある。
既存組織は長年の慣習に基づき業務を遂行するが、その慣習が最適解であるとは限らない。
外部に由来する視点は、組織における改善・再検討の契機となり得る。この点において、異業界経験者は価値を生み得る。
自分は門外漢だからと遠慮は最初のうちだけでいい。
異業界への転身を検討する者は、次の点を認識する必要がある。
既存経験は、形式を変えて活用可能である。未知領域に対する学習は、時間投入に比例して確実に成果を生む。
外部からの視点は、組織における改善要因となり得る。
転身の初期段階においては、技術・知識面における不均衡と最初の苦労は避けがたい。
しかし、しかしだ。学習の継続と、現場での事実確認を重ねることで、必ず一定の水準に到達することが可能である。可能なのだ。
以上を踏まえると、異業界への挑戦は過度に恐れるべき事象ではない。
行動の決断は、状況を変える唯一の手段であり、意思をもって環境を選択する者は、必ず成長の機会を得る。そして成長できる。
筆者自身もまた、完全な準備を整えた状態で転身したわけではない。それでも現在、業務遂行において致命的な支障はなく、むしろ前職で得た経験が思考の骨格として機能していると実感している。
ゆえに、異業界への挑戦を考える方へ、次の言葉を示したい。
「転身は後退ではなく、次なる成長である。」
慎重さは必要だ。無謀は避けるべきだ。しかし、停滞は成長をもたらさない。
不確かさを伴う一歩こそ、未来を切り拓く根拠となる。
だからあなたも異業界への転身は恐れずにしてもいい。
その先には成長と発見が待っている。



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