――ラダー言語の殻を破るために――
私は長い間、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)一筋の人間だった。リレーシーケンスを組むことに誇りを持ち、ラダー図を眺めては「制御の美しさ」を感じてきた。そんな私が、あるときふと手を伸ばしたのがRaspberry Pi(ラズパイ)だった。
最初はただの興味本位だった。安価な基板型コンピューターがどんなことをできるのか、制御屋の目線で見てみたかった。だが使ってみてわかった。ラズパイは、PLC屋の脳に“新しい回路”を作ってくれる存在だということを。
パイソンに触れることで得られる「柔軟な思考」
ラズパイを触ると、まず最初に出会うのがPython(パイソン)というプログラミング言語だ。PLCエンジニアにとって、最初の関門は「変数ってなに?」「型って?」という部分かもしれない。ラダーでのI/O信号の扱いに慣れていると、すべてが“線でつながっている世界”に見えてしまう。
しかしPythonは、すべてが論理構造でつながっている世界だ。if文、for文、関数、クラス、ライブラリ――これらに触れていくうちに、「ああ、これがファンクションブロックの本質か」と腑に落ちる瞬間が訪れる。
ラダーのFB(ファンクションブロック)は「部品の再利用」のような感覚だが、Pythonで関数やクラスを扱うと、構造的な再利用とは何かを深く理解できる。そしてその理解が、PLC設計に戻ったときに、より抽象的で美しいラダー設計を生むのだ。
基板型コンピューターを理解するという「ハードへの旅」
ラズパイはただの小さなPCではない。GPIOピンを介してLEDを点けたり、センサーの信号を読み取ったりすることができる。つまり、PLCと同じように入出力を制御できるコンピューターなのだ。
だが、そのアプローチはPLCとはまるで違う。リレー出力ではなく、3.3Vレベルの信号で、トランジスタやFETを介して制御を行う。ここで初めて、「電圧とは何か」「信号の波形とは何か」といった電子回路的な視点が求められる。
この体験は、PLC屋にとって衝撃的だ。これまで「箱の中」にあったI/Oモジュールの裏側が、ラズパイでは丸見えになる。CPUとメモリの動作原理、クロック信号、バス通信――それらがリアルに目の前で息づいている。この理解は、今後の制御設計で必ず役に立つ。たとえば通信障害やノイズトラブルの原因を、よりハード寄りの視点で推測できるようになるのだ。
ソフトと電子回路が「地続き」になる感覚
PLCで作るロジックは、電気信号の最終段階に近い。だがラズパイを扱うと、その手前――つまり電子回路とソフトウェアが交わる地点に触れることができる。センサーのアナログ値をA/D変換し、Pythonで処理し、結果をPWMで出力する。これを実際にやってみると、「制御」と「情報処理」の境界が思いのほか曖昧であることに気づく。
この経験は、制御技術者にとって大きな財産になる。今後、スマート工場やIoT対応の設備が増える中で、“制御”と“情報”をつなぐ視点は不可欠だ。ラズパイを使えば、その感覚を自分の手で掴み取ることができる。
ラダー言語オンリーだった自分の変化
正直に言えば、私はずっとラダー言語だけで十分だと思っていた。
目の前のシーケンスを動かすのに、PythonもCも必要ないと信じていた。だがラズパイに触れてから、変数の概念やファンクションブロックの再利用性、関数型思考といった考え方がスッと頭に入るようになった。
PLCのラダーでも「構造化プログラミング」が進んでいるが、ラズパイを経験した今なら、その流れがどれほど合理的で、美しいものかが実感できる。“線を引く作業”ではなく、“情報の流れを設計する作業”へ――自分の中で明確な変化が起きた。
ラズパイはPLC屋にとっての「異世界留学」
ラズパイをやる意味をひとことで言えば、異文化に触れることだと思う。PLCの世界しか知らないエンジニアが、PythonやLinuxという別の世界に足を踏み入れることで、発想の幅が広がる。最初は抵抗があるかもしれない。しかし、いざ手を動かしてみると、「制御」という概念の奥行きに驚かされるはずだ。
そしてその経験は、確実に自分の本業であるPLC設計に還元される。ラダー言語しか知らなかった私が、今では構造化や再利用性を意識したプログラムを書くようになったのだから。
結論:ラズパイは制御屋の思考を再構築するツール
ラズパイを触ることで、私は「制御」という言葉の意味を広く捉え直した。PLCの世界に閉じこもるのではなく、ソフトウェア・電子回路・通信を含めたシステム全体を設計する力を持つこと。それがこれからの制御エンジニアに求められる姿だと思う。
だから私は声を大にして言いたい。PLC屋こそ、ラズパイをやるべきだ。そこには新しい発見と、懐かしい“制御の原点”が待っている。
ラズパイ4で十分なので是非手にとって遊んでみてください。


コメント