保護継電器が扱っているのは基本的に「実効値(RMS)」であり、波高値(ピーク値)ではない。

ここをしっかり腹落ちさせておくと、整定値の意味、CT容量、保護協調の考え方が一段クリアになります。

少し腰を据えて順に整理していきます。

なぜ「波高値」ではなく「実効値」なのか

交流電流は時間とともに振動しています。

例えば 50Hz 系統なら、1秒間に50回プラスとマイナスを行ったり来たりします。

このとき、機器にとって本当に重要なのは、

どれだけ「発熱」するか(導体・巻線・絶縁の温度上昇)

どれだけ「磁束」や「トルク」を生むか

絶縁・機械強度としてどこまで耐えられるか

といったエネルギー的な負担であって、「瞬間的に一番高かった点だけ」ではありません。

実効値(RMS:Root Mean Square)は、まさにこれを評価するための値です。

✔ 実効値の定義(イメージ優先)

「同じ抵抗に直流を流したときと、同じだけ熱を出す交流の大きさ」が実効値です。

正弦波なら:

たとえば、

実効値 100A の交流 ↔ 抵抗に対して「100A の直流」と同じ発熱効果

波高値は約 141A(= 100 × √2)だけど、

機器定格や継電器整定は 100A 側(実効値) で話をします。

電気機器の定格(母線、CVケーブル、遮断器、CT、VT、変圧器巻線など)は、

ほぼすべて「実効値基準」で設計・表示されています。

したがって、その機器を守る保護継電器も、当然 実効値を基準に動作値を決める 必要があります。

実務的な視点:「整定値」が示しているのは何か

例えば、過電流継電器(OCR)の整定に

CT比:600/5A

動作電流整定:120%

といった値が並びます。

これは:

一次側定格電流:600A(実効値)

継電器側定格:5A(実効値)

動作値:5A × 120% = 6A(実効値)

一次換算:600A × 120% = 720A(実効値)

という意味になります。

ここで使っている「600A」「5A」「6A」「720A」はすべて実効値であって、

「720A 実効値を超える状態が一定時間続いたら動作する」という約束で整定されています。

もしこれが「波高値」基準だとしたら:

整定計算のたびに √2 を掛けたり割ったりしなければならない

保護協調(時間電流特性)もすべてピーク値換算で考えないといけない

電気設備技術基準・JEC・JIS・IEC の多くと整合しなくなる

というカオスな世界になります。

現場でそんな運用は不可能なので、すべて実効値で統一されている、というわけです。

CT と保護継電器:実効値の世界に変換する流れ

保護継電器が直接系統電流を見ているわけではなく、必ず**CT(変流器)**を介します。

CTの役割

1,000A, 2,000A といった一次電流を

5A や 1A といった扱いやすいレベルの交流電流に変換

この二次側定格も実効値です(例:5A, 1A は RMS 値)

継電器は、この CT二次側電流を入力として、

アナログ式なら「磁束・トルク」が実効値に比例する構造で

デジタル式なら「サンプリングしてRMS演算」することで

実効値としての「動作量」を取り出しています。

アナログ式継電器の場合:物理的にRMSになる仕掛け

昔ながらの電磁誘導型OCRなどは、内部にディスクやコイル、鉄心があります。

コイルに流れる電流の二乗に比例して発熱や磁力が生じる

その結果として「平均的な効果」が機械的トルクや動作力となる

この構造自体が「実効値を代表量として感じる」ようなもの

つまり回路の物理特性が、自然とRMS相当を評価しているので、

わざわざ「波高値だけ」を見ているわけではありません。

ピークだけ一瞬ビュッと上がっても、

実効値として十分な大きさ・時間がなければ、ディスクは回り切らず動作しません。

デジタル式継電器の場合:数学的にRMSを算出

現在主流のマイコン式保護継電器(IED)は、CT二次電流をサンプリングしてデジタル処理します。典型的には:

一定周期ごとに電流値を高速サンプリング(例:1周期あたり数十〜数百点)

各サンプル値を二乗する

一周期または半周期分の平均を取る

その平方根をとる

この演算結果を使って、

・過電流要素

・接地過電流要素

方向要素

距離継電器の電流側入力 などの動作判定をしています。

瞬時要素も「RMSベース」

「瞬時要素(高段)」と聞くと「ピークで見ている?」と誤解されがちですが、

実際には極めて短い時間窓で算出したRMSや、整流平均値相当を基準にしている場合が多く、

「単発の波高値そのもの」をトリガーにしているわけではありません。

波高値が主役になる場面との違い

「じゃあ波高値は全然使わないの?」というと、そうでもありません。

ただし、主役になる場面が違います。

波高値(最大値)が重要なのは:

絶縁協調(開閉サージ、雷サージ、BIL)

遮断器の動的耐電流(初期ピーク、動的電流)

磁気飽和、突入電流の瞬間値評価 など

これらは瞬間的ピークが絶縁や機械強度を壊さないかを見る世界なので、波高値・波形が重要です。

一方、保護継電器の設定は:

「この設備に、どれくらいの実効値電流がどれだけ流れたら保護動作させるべきか」

「上位装置・下位装置と協調を取るために、どの実効値・時間で折れ線/曲線を引くか」

という中長期的なエネルギー・許容度合いの判断なので、RMS基準が合理的です。

ひずみ波・DC成分があるときの振る舞い(少しだけ踏み込む話)

地絡や短絡時の電流には、

DCオフセット成分

高調波成分

が重なります。

マイコン継電器は、

ローパスフィルタやデジタルフィルタで高調波やノイズを除去

あるいは「全成分RMS」を見るか、「基波成分だけ」を取り出して評価

などのロジックを用いて、

**「保護として意味のある実効値」**を抽出しています。

ここでもやはり評価の軸は「実効値」であり、

単発的なピーク1発でいきなり誤動作しないよう、時間窓や演算処理が工夫されています。

実務まとめ

現場の保護設定や説明で迷ったら、次のように押さえておくと安心です。

保護継電器が扱う電流値は実効値(RMS)である

CT定格値、継電器入力定格値、整定値はすべて実効値で読む

時間電流特性(TMS・SI・DI等)も実効値前提で検討されている

瞬時要素も「きわめて短時間のRMSまたは平均値」であり、生の波高値そのものではない

波高値が主役なのは「絶縁」「機械強度」「サージ」など別の評価軸の話

ここを腹に落としておくと、

「この5A整定って“実効値で5A”だよね?」

「CT 600/5A だから一次換算 600A 実効値で動作ね」

「ピークがどうこうより、許容電流と協調を見るのが先」

という会話を自信を持ってできるようになります。

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