1. バスタブ曲線とは何か
横軸:時間(使用期間)
縦軸:故障率(一定期間あたりの故障の起こりやすさ)
その形が「浴槽(バスタブ)」の断面みたいに
最初:高い(左上がり)…初期故障期
中央:低くほぼ一定 … 偶発故障期
最後:また高くなる(右上がり)…摩耗故障期
という3区間になるので「バスタブ曲線」と呼びます。
ここで大事なのは:
これは「累積故障数」ではなく「故障率」のグラフ
「時間が経てば必ず右肩上がり」ではなく、「多くの機器は“ある期間だけ”安定で、その後一気に悪くなる」
という感覚です。
2. 3つの期間を実務寄りに解説
(1) 初期故障期(Infant Mortality)
イメージ:使い始め〜数ヶ月/数年。故障率は徐々に下がる。
なぜ起きる?
製造不良(はんだ不良、絶縁不良、部材ばらつき)
輸送ダメージ
組立ミス、配線ミス、トルク不良
据付環境とのミスマッチ(湿度、振動、温度)
対策:
メーカー側:出荷試験、エージング試験、バーンイン
ユーザー側:試運転期間での重点監視、締付確認、初期点検
説明ポイント(対お客様/社内):
「最初の数年で出るトラブルは、“古くなったから”ではなく“元から潜んでいた問題が表に出たもの”が多いです。
初期トラブルをきちんと潰すことで、その後の長期安定運用につながります。」
(2) 偶発故障期(Random Failure)
イメージ:設計寿命のかなりの期間を占める“安定期”。故障率はほぼ一定で低い。
ここで起きる故障は:
落雷・サージ・系統事故
操作ミス、外部要因
環境の一時的悪化(高温、塩害、粉塵)
製品ばらつきによる“運悪く壊れた”ケース
特徴:時間に比例して「どんどん壊れやすくなる」わけではない
点検・清掃・接点グリス・フィルタ清掃などでリスクを抑えられる
統計的には「一定の故障率 λ」で表されることが多い(指数分布モデル)
説明ポイント:「設計通りに作られ、初期不良も潰し、適切な環境で使えば、この期間は“年数が経ったから壊れる”というより、“一定の確率でたまたま壊れる”世界です。」
(3) 摩耗故障期(Wear-out)
イメージ:寿命に近づいた終盤。故障率がグッと上昇。ここが更新検討の核心。
原因は完全に「老朽化」:
絶縁劣化(部分放電、トラッキング、熱劣化)
機械摩耗(開閉器、コンタクタ、遮断器の機械部・バネ)
電解コンデンサ・シール材の経年劣化
ガス封入機器の圧力低下、錆び、腐食
メーカー供給終了による部品調達不能(“物理的には動くがリスクと復旧性が悪い”)
ここが更新説明で使う一番大事な部分。
説明ポイント:
「バスタブ曲線の右側に入ると、“壊れてから考える”では手遅れになりやすい。
故障率が急に立ち上がるので、事故・長期停止・安全リスクの前に“計画的に更新”するのが合理的です。」
3. 信頼性工学としての中身(現場向け簡略版)
バスタブ曲線は感覚図ではなく、信頼性指標と結びついています。
R(t):信頼度…「時刻 t まで故障せずに動いている確率」
f(t):故障確率密度…「時刻 t で故障する確率の密度」
λ(t):ハザード(故障率)…「時刻 t まで生き残っている前提で、その直後に故障する割合」
関係式(イメージだけ押さえればOK):
λ(t) = f(t) / R(t)
R(t) = exp( -∫λ(t)dt )
現場で役立つ実務的ポイント:
初期故障期:λ(t) は時間とともに↓
偶発故障期:λ(t) ≒ 一定(指数分布モデル)
摩耗故障期:λ(t) ↑(Weibull分布の形状パラメータ β > 1)
つまり:「更新タイミングを決める」とは、
右肩上がり(摩耗領域)に入る前にやめるポイントを決める作業
と言い換えられます。
4. 機器更新の説明にどう活かすか(使いやすい言い回し)
更新提案書やお客様説明でそのまま使いやすい切り口をいくつか挙げます。
切り口①:事故前更新 vs 故障後更新 摩耗期に入ると
・故障頻度↑
・停電・ライン停止のリスク↑
・復旧に時間とコスト↑
計画更新なら、停止日程を選べる、まとめて工事でコスト最適化、安全側に倒せる
👉 説明例:
「現在の設備は、バスタブ曲線でいうと摩耗故障期の立ち上がり付近です。このまま使用を続けると、“壊れてから直す”選択肢は徐々になくなり、1回の故障が大規模停止や重大事故につながる確率が高まります。そこで、故障率が跳ね上がる前に計画的更新を行うことが合理的です。」
切り口②:MTBFだけでは不十分
ユーザーや上層部が「まだMTBF的にはいけるでしょ?」と言う場合:
MTBF(平均故障間隔)は“全期間平均”
バスタブ曲線は「期間ごとの故障率」を見せる考え方
古い機器は「平均」ではなく「今どの区間にいるか」が重要
👉 説明例:「カタログ値のMTBFは全寿命を平均化した値です。実際には初期・安定・摩耗で性質が異なり、今の機器は“平均よりも壊れやすいゾーン”に既に入っています。」
切り口③:部品調達と技術継承も“見えない摩耗”
最近の更新では、物理的劣化だけでなく:メーカー製造中止、予備品入手不可、保守要員のスキル喪失、OS・通信仕様など周辺システムとの非互換、これらも実質的に故障率上昇と同じ効果として説明できます。
5. 設備エンジニア向けにまとめると
バスタブ曲線を、更新説明用に噛み砕くと:
導入直後は“初期トラブルを潰す期間”
その後しばらくは“ちゃんと作ってちゃんと使えば安定な期間”
寿命が近づくと“壊れやすく・止まりやすく・直しにくくなる期間”
更新とは「③に入り切る前に、安全・コスト・停止リスクのバランスで一番得な時期を選んで機器を入れ替えること」
このストーリーで説明すると、お客様や上層部にも
「まだ動いているのになぜ更新するのか?」
「本当に今なのか?」
への回答として非常に説得力を持ちます。



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