今回は、鉱油変圧器と大豆油(天然エステル)変圧器について、
・それぞれの特徴
・高圧と特高での使い分け
・新設建屋と既設更新(いずれも屋内収容)の場合、どちらがコスト的に有利か
という観点から、現場設計・案件検討でそのまま使えるイメージで整理してみます。
1. 鉱油と大豆油(天然エステル)の基本的な特徴整理
まずは前提として、鉱油変圧器と大豆油(天然エステル)変圧器の特徴を整理しておきます。
ここで言う「大豆油」は、天然エステル系の代表例としての植物油系絶縁油と考えてください。
1-1. 鉱油(鉱物油)変圧器の特徴
【メリット】
・変圧器本体が安価
─ 同容量・同仕様で比べると、最も安くなりやすいのが鉱油変圧器です。
・長年の実績があり、ノウハウが豊富
─ 設計・製造・試験・保守まで、会社としても業界としても経験値が厚い分野です。
・粘度が低く、冷却性能が良い
─ 同じ容量であれば、冷却がしやすく機器をコンパクトにしやすいという利点があります。
【デメリット】
・よく燃える(引火性・燃焼性が高い)
─ 火災時には油そのものが燃料となり得るため、防火・防油対策が重くなります。
・漏油時の環境負荷が大きい
─ 鉱物油が土壌や水に流出すると、環境汚染リスクが高くなります。
1-2. 大豆油(天然エステル)変圧器の特徴
【メリット】
・難燃性(自己消炎性)が高い
─ 引火点・燃点が鉱油よりかなり高く、火がつきにくく、燃え広がりにくい油です。
・生分解性が高く、環境負荷が小さい
─ 漏油時にも土壌・水系への影響を低減しやすく、「環境配慮型」として打ち出しやすい油種です。
・紙絶縁との相性が良く、巻線絶縁の寿命延長が期待されると言われる
─ 極性溶媒であり、水分を抱え込む性質から、紙側の劣化を抑制する効果があるとされます。
【デメリット】
・変圧器本体の価格が鉱油より高いことが多い
─ ざっくりとしたイメージでは、同容量・同クラスで1.1〜1.3倍程度になるケースがあります。
・粘度が高く、冷却設計がやや不利になる場合がある
─ 放熱器を増やすなどの設計対応が必要で、機器が大きく・重くなりやすい傾向があります。
・まだ鉱油ほど標準化されていない
─ 社内標準や保守体制が鉱油前提になっている場合、油分析や廃油処理などのフローを整理し直す必要があります。
2. 高圧と特高で何が変わるか
次に、「高圧」と「特高」で何が変わるかを整理します。ここでは日本の一般的な前提として、
・高圧:6.6kV 配電クラス(数百kVA〜数MVA)
・特高:66/77kV、154kV クラスの主変(数MVA〜数十MVA)
・いずれも屋内収容
を想定します。
大きな違いは、
・油量が増えるほど「防火・防油・環境対策」のコストインパクトが大きくなる
・特高屋内になると、防火区画・防油堤・消火設備・排煙設備などの要求レベルが一気に上がる
という点です。
3. ケース別比較:高圧・特高 × 新設・既設更新(屋内)
3-1. 高圧(6.6kVクラス)× 新設建屋(屋内)
【鉱油を選んだ場合】
・変圧器本体:鉱油が明確に安価です。
・防災面:
─ 高圧クラスでは油量もそこまで多くなく、
防油パン・小規模な防油堤・消火器の増設程度で済むケースが多いです。
・建屋工事:
─ 特高屋内のような、分厚い耐火壁や大規模な油ピットなどまでは求められないことが多いです。
結果として、建屋側の追加コストは限定的で、
「変圧器本体が安い」という鉱油のメリットがそのまま効いてきます。
【大豆油(天然エステル)を選んだ場合】
・変圧器本体:鉱油より高価になります。
・防災面:
─ 難燃性油として、防油・防火設備を多少軽くできる可能性はあります。
─ しかし、高圧クラスではそもそもの要求がそれほど厳しくないため、
軽減できる工事コストの絶対額が小さくなりがちです。
【まとめ:高圧×新設屋内】
高圧変圧器の新設屋内では、
・建屋側の防火・防油要求が中程度で済むことが多い
・付帯設備コストの差よりも、本体価格の差の方が効きやすい
という事情から、実務的には
→ 「高圧×新設屋内なら、ほぼ鉱油の方がトータルコストで有利」
と考えて良いケースが大半です(環境配慮・企業イメージ等で天然エステルを指名する場合は別)。
3-2. 高圧(6.6kVクラス)× 既設更新(屋内)
【鉱油を選んだ場合】
・既設の防油パン・防火区画がそのまま使えることが多いです。
・保守体制も鉱油前提で整っているケースがほとんどです。
・変圧器本体も安価なため、更新工事としては最も分かりやすく、社内的な説明もしやすい選択肢です。
【大豆油(天然エステル)を選んだ場合】
・本体価格が上がる分、更新費用は一旦増えます。
・「大豆油だから防災設備を緩和したい」と考えても、既設建屋がすでに鉱油前提で設計されている場合、
それをわざわざ改造して緩和仕様に変更すると、かえってコストアップになるケースもあります。
・ただし、既設建屋側に制約がある場合は話が変わります。例えば、
─ 既設の防油容量では、新しい変圧器の油量が収まりきらない
─ 更新に伴い防火規制が厳しくなり、鉱油のままだと大規模な改造が必要になる
といったケースでは、難燃性の大豆油に切り替えることで、防油・防火の追加工事を抑制し、
トータルコストを下げられる可能性が出てきます。
【まとめ:高圧×既設更新屋内】
一般的な高圧変圧器の既設更新で、既存の防油・防火設備がそのまま使え、法規制も大きく変わらないのであれば、
→ 「まだ鉱油の方がコスト有利」
というケースがほとんどです。
一方で、建屋側の制約が厳しく、鉱油を選ぶと建屋や防油設備の改造コストが嵩むような特殊案件では、
大豆油採用も検討に値する、というイメージになります。
3-3. 特高(66/77kV・154kVクラス)× 新設建屋(屋内)
特高クラスの屋内収容になると、話が大きく変わります。油量が多く、防災・環境対策の要求レベルが一気に上がるためです。
【鉱油を選んだ場合】
・変圧器本体:最も安価です。
・しかし、油量が多くなるため、防災設備が非常に重くなります。
─ 大型防油堤・油ピット・油分離槽
─ 分厚い耐火壁・防火扉・防火シャッター
─ 固定式消火設備(スプリンクラ、泡消火など)
─ 大規模な排煙設備・換気設備
といった設備が“がっつり”必要になります。
これら土木・建築・設備工事は、
数百万円〜場合によっては千数百万円オーダーのコストインパクトを持ちます。
【大豆油(天然エステル)を選んだ場合】
・変圧器本体:鉱油より高価(1.1〜1.3倍程度のイメージ)です。
・しかし、「難燃性油」前提で新設建屋を設計すれば、
─ 防油堤・油ピットの仕様を簡略化または不要にできる場合がある
─ 耐火区画の仕様を軽くできる可能性がある
─ 消火設備を簡易な構成にできる場合がある
といった形で、建屋+付帯設備のコストを大きく削減できる場合があります。
特に、都市部や敷地制約の厳しいプラントでは、
建屋の面積・高さ・構造を抑えられるメリットも高くなります。
【まとめ:特高×新設屋内】
特高屋内の新設建屋では、
・鉱油案:変圧器は安いが、防油・防火・消火設備を含む建屋側コストが重くなりやすい
・大豆油案:変圧器は高いが、防油・防火・消火設備を軽くでき、建屋側コストを大きく削減できる可能性がある
という構図になります。
そのため、
→ 「特高×新設屋内では、『大豆油+簡略化した防災設備』の方がトータルコストで鉱油案を上回る(安くなる)ケースが現実的に存在する」
と言えます。案件初期の段階で、鉱油案・大豆油案の両方について、
“建屋込みの概算比較”をしておく価値が高いゾーンです。
3-4. 特高(66/77kV・154kVクラス)× 既設更新(屋内)
【鉱油を選んだ場合】
・既設設備は、多くの場合鉱油前提で防油・防火が組まれています。
・既設防油堤・油ピット・防火区画が「容量・仕様的にそのまま使える」のであれば、
変圧器本体が安い鉱油の方が、そのままコスト有利になりやすいです。
・しかし、
─ 新しい変圧器で油量が増える
─ 新基準/新しい運用により、防火規制が厳しくなる
といった場合には、既設のままでは足りず、防油堤の拡張や建屋改造が必要になることがあります。
【大豆油(天然エステル)を選んだ場合】
・更新機を大豆油仕様にすると、所轄との協議次第では、
─ 防油・防火設備の追加改造を抑えられる
─ 建屋の大規模な改造を避けられる
といった可能性が出てきます。
・特に、既設建屋のスペースや構造に余裕がない場合、
鉱油更新で大規模改造を行うよりも、
大豆油を選定して防災要件を軽減する方がトータルコストで有利になるケースもあります。
一方で、既設建屋がすでに「鉱油前提の重装備」で出来上がっており、
今後もそのまま使えるのであれば、建屋側のコストは sunk cost(埋没コスト)になっているとも言えます。
その場合、変圧器だけ大豆油にしても、建屋側で浮くお金はあまりなく、
単純に変圧器本体分だけコストアップになってしまう可能性もあります。
【まとめ:特高×既設更新屋内】
・既設防油・防火設備がそのまま使え、規制も大きく変わらない更新
→ 鉱油の方が安く済みやすいです。
・一方で、建屋側に制約が多く、
「鉱油で更新すると建屋の大改造が必要になる」ような案件では、
大豆油を採用することで防油・防火要件を軽減し、建屋改造を抑えることで、
トータルコストで大豆油有利になる可能性もあります。
4. ざっくり整理表
ここまでの内容を、感覚的な「コスト有利度」としてまとめると、次のようなイメージになります(◎>○>△)。
・高圧 × 新設屋内
─ 鉱油コスト有利度:◎
─ 大豆油コスト有利度:△
→ 建屋側の防火・防油要求が比較的軽く、ほぼ鉱油勝ち。
・高圧 × 既設更新屋内
─ 鉱油コスト有利度:◎
─ 大豆油コスト有利度:△
→ 既設と同種更新が基本で、特殊制約がない限り鉱油有利。
・特高 × 新設屋内
─ 鉱油コスト有利度:○
─ 大豆油コスト有利度:○〜◎
→ 設計次第で逆転あり。大豆油前提で建屋・防災を軽くすると、大豆油がトータル有利になり得るゾーン。
・特高 × 既設更新屋内
─ 鉱油コスト有利度:○
─ 大豆油コスト有利度:△〜○
→ 既設防油・防火がそのまま使えるなら鉱油有利。建屋改造が膨らむ場合は、大豆油案も十分検討価値あり。
5. 実務での使い分けイメージ
最後に、実務でどう使い分けるかのイメージをまとめます。
【高圧(6.6kVクラス)の場合】
・新設も既設更新も、「基本は鉱油」で押さえるのが王道です。
・環境配慮や企業イメージを特に重視する案件だけ、天然エステルを個別検討する、という立ち位置が現実的です。
【特高(66/77kV・154kVクラス)の新設屋内】
・プロジェクト初期の段階で、
– 鉱油案(防油・防火重装備の建屋込み)
– 大豆油案(防油・防火簡略化を織り込んだ建屋込み)
の2パターンで概算比較をする価値が非常に高いゾーンです。
・都市部・敷地制約・建屋制約が強い案件ほど、大豆油側が逆転有利になりやすいと言えます。
【特高の既設更新屋内】
・まず、「既設防油・防火設備がそのまま使えるか」を確認することが重要です。
・使えるのであれば、基本は鉱油更新がコスト的に有利です。
・一方で、鉱油のままだと建屋改造や防油設備の拡張が大きくなり過ぎる場合には、
大豆油を使って防災要件を軽減し、建屋側の追加投資を抑えるシナリオも検討に値します。
【まとめ】
・高圧:新設・既設更新とも、コストだけ見るなら「鉱油有利」が基本線。
・特高新設屋内:建屋と防災設備まで含めて検討すると、「大豆油がトータルで安くなる」ケースが現実的に存在する。
・特高既設更新屋内:既設防油・防火がそのまま使えれば鉱油有利だが、建屋制約が厳しい案件では大豆油案も十分な有力候補になる。
こうした整理を頭に入れておくと、発注者への説明や社内稟議の際にも、
「なぜ鉱油を選んだのか」「なぜ大豆油をあえて選んだのか」を、
コスト・防災・環境のバランスを踏まえて説明しやすくなります



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