― 特徴・構造・適用範囲を体系的に解説 ―
モールド式変圧器(Cast Resin Transformer:CRT)とは、高圧側および低圧側の巻線をエポキシ樹脂で固め(モールド=鋳込む)ことで絶縁を確保する乾式変圧器の一種である。油を使用しない構造である点が大きな特徴であり、火災リスクの低減、保守性の向上、環境面での利点などから、昨今の受変電設備において広く採用されつつある。
以下では、モールド式変圧器の構造、特徴、適用用途、選定時の留意点について体系的に整理する。
1. モールド式変圧器の構造
モールド式変圧器は、以下の主要構成要素から成る。
● 1-1. 高圧巻線(一次側)
高圧巻線はエポキシ樹脂で完全に固化されており、外気から遮断された一体構造となる。これにより耐湿性・耐塵性が極めて高く、結露環境や粉塵環境でも安定して運用できる。
● 1-2. 低圧巻線(二次側)
低圧巻線も同様に樹脂モールドされるが、導体断面積が大きいため、構造的には高圧巻線よりシンプルな形状となる。負荷電流に伴う発熱は自然空冷または強制空冷(AF方式)によって放熱する。
● 1-3. 鉄心
一般的な方向性ケイ素鋼板を積層した鉄心を用いる点は油入変圧器と同様である。ただし、モールド巻線の特性上、鉄心–巻線間の絶縁クリアランスが大きく取られるため、外形寸法は油入と比較してやや大きくなる傾向がある。
2. モールド式変圧器の特徴
● 2-1. 油を使用しないことによる高い安全性
モールド式変圧器は絶縁油を一切使用しないため、
油漏れ事故が発生しない
防火設備が簡素化できる
取り扱い時の環境負荷が小さい
といった安全上のメリットがある。特に建屋内に設置する受変電設備や商業施設・病院・学校などでは、火災リスクを極小化できることが評価される。
● 2-2. 高い耐環境性(結露・粉塵)
樹脂モールド構造は湿度や塵埃の影響を受けにくいため、
湿気の多い地下室
トンネル内施設
粉塵が多い工場区域
でも信頼性を保つことができる。
● 2-3. 優れた保守性
油の交換や油処理設備が不要であるため、運用・保守の負担は小さい。主な点検項目は、
外観点検
温度監視
冷却ファン(AF方式時)の動作確認
程度であり、油入変圧器に比べ保守工数が圧倒的に少ない。
● 2-4. 振動・騒音が小さい
モールド構造により巻線が強固に固定されるため、励磁時のバンド振動が抑えられ、騒音レベルが低い傾向にある。
● 2-5. 短絡強度の向上
巻線が樹脂によって拘束されるため、外力に対する強度が高く、短絡時の電磁力による変形に強い。
3. モールド式変圧器のデメリット
● 3-1. 部材コストが高い
樹脂モールド工程は製造コストが高く、一般に油入変圧器より初期費用が高くなる。また外形が大きく質量も増加しがちである。
● 3-2. 局部的な熱ストレスへの弱さ
樹脂は金属と比べて熱容量が小さいため、
局所的な熱蓄積
冷却不均一
により絶縁劣化が進行しやすい。特に過負荷運用を常態的に行う設備では注意が必要である。
● 3-3. 修理がしづらい
巻線が樹脂で固められているため、内部の部分修理はほぼ不可能であり、不具合時はユニットごと交換となるケースが多い。
4. 適用用途と設置場所
モールド式変圧器は以下の環境で特に有効である。
- 建屋内の受変電所
- 商業施設・オフィスビル
- 病院・公共施設
- 地下変電室
- 工場の塵埃環境
- 防火規制が厳しい区域
- 油漏れが致命的となる設備(高価装置・クリーンルームなど)
逆に、屋外での長距離ケーブル接続や高容量用途(数万kVA級)では、コスト面や熱容量の観点から油入変圧器が採用されることが多い。
5. 油入変圧器との比較(総括)
モールド式変圧器は、
- 防火性・環境性を優先したいとき
- 保守性を重視したいとき
- 屋内・高湿度・粉塵環境で運用する場合
に非常に適した方式である。
一方、
- 初期コストの低減
- 大容量・高効率を重視
する場合には油入変圧器の方が適する。
油入変圧器とモールド式変圧器の比較
| 項目 | モールド式変圧器 | 油入変圧器 |
| 絶縁方式 | エポキシ樹脂モールド | 絶縁油による液体絶縁 |
| 防火性 | 非常に高い(不燃・難燃) | 油火災リスクあり |
| 保守性 | 高い(油交換不要) | 油管理・交換が必要 |
| 環境性 | 油漏れなし、環境負荷小 | 油漏れリスクあり |
| 耐湿・耐塵性 | 非常に高い | 中程度(油密性に依存) |
| 短絡強度 | 巻線拘束により高い | 構造により異なるが比較的高い |
| 騒音 | 小さめ | 通常レベル |
| 修理性 | 部分修理が困難(交換対応) | 巻線等の修理が比較的容易 |
| 初期コスト | 高い | 低〜中程度 |
| 適用容量 | 小〜中容量に適する | 小〜大容量まで広範囲 |
| 適用環境 | 屋内・結露・粉塵環境に最適 | 屋内外問わず広く使用 |



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