― AC110V が用いられない技術的背景と運用上の必然性 ―
受変電設備においては、保護継電器、遮断器操作回路、インターロック回路、監視制御設備など、電力供給の継続性と安全性を直接左右する制御機能が存在する。
これらの制御系統は、電源系の事故や外部電力の喪失といった最悪の条件下においても、確実に動作しなければならない。
したがって操作電源には、安定性・信頼性・耐外乱性など、通常の負荷とは異なる極めて厳格な要求が課される。
その結果、日本を含む世界各国の変電所・受変電設備では、操作電源の標準として DC110V(一部はDC48V)が採用されており、交流電源である AC110V を直接操作電源として用いることは基本的に行われない。
以下では、その技術的・構造的背景を体系的に述べる。
停電時でも確実に維持できる「独立電源」としての直流電源の必然性
受変電設備における操作電源の最大の条件は、系統事故や停電時でも絶対に電源が途切れてはならないという点に尽きる。
交流110Vを操作電源に用いる場合、その供給源は多くの場合、所内変圧器(補助変圧器)やUPSに依存する。しかし外部系統が事故を起こすと、所内変圧器自体も電圧低下や瞬断の影響を受け、最も操作電源が必要な「事故時」に限って、電源の供給が不安定となる危険性が高い。
一方、直流電源(DC110V)は蓄電池(鉛蓄電池・ニッケル水素など)によって構成される。
蓄電池は外部電源に依存せず、自律的に電力を供給できるため、
- 受電喪失
- 母線電圧低下
- 外部系故障による瞬時電圧低下(ディップ)
- 補助変圧器の故障
- 停電を伴う事故復旧作業
といったあらゆる状況下でも、制御装置を継続的かつ確実に動作させる唯一の手段となる。
つまり、「停電でも動作し続ける電源」=「蓄電池電源」=「直流電源」であり、この構造的必然性により、操作電源は直流でなければならないという結論に至る。
遮断器のトリップコイルは交流より直流のほうが圧倒的に安定する
遮断器(CB)は、電力系統保護において最も重要な機器であり、故障電流を切り離す「最後の砦」である。遮断器のトリップコイルおよび閉路コイルは、電磁石によって駆動されており、その動作の確実性は電源の品質に大きく左右される。
●交流電源(AC)の問題点
AC110V は50/60Hzで周期的に電圧が正負に振動し、**電圧が0になる瞬間(零点)**が必ず存在する。
この零点では電磁吸引力も一時的にゼロとなるため、
コイルの吸引力が微小に振動し、動作の立ち上がりが不安定となる可能性がある。
特に遮断器の動作は「初動の瞬間」が極めて重要であり、
初動遅れや吸引不足は、保護の失敗につながる可能性すらある。
●直流電源(DC)の利点
DC110V は極性・電圧が一定であり、零点が存在しないため、
トリップコイルに常に 連続した吸引力 を与えられる。
これにより、
- 立ち上がりが早い
- 吸引力が安定
- 動作バラつきが小さい
- 故障時でも確実にトリップ
といった特性が得られ、保護協調の観点からも極めて有利である。
遮断器の操作電源は信頼性を絶対に落としてはならず、その観点からも 直流操作電源は世界的な標準となっている。
UPS やインバータを介する AC 操作電源は複雑で、故障点が増える
AC110V を操作電源として使う場合、停電時にACを維持するため、
一般的には UPS やインバータなどの電力変換装置が必要となる。
UPS 方式では、
- 整流器
- バッテリー
- インバータ
- フィルタ
- 自動切換装置
など、多数の電子部品・変換段が存在し、それらの故障率は決して低くない。
一方、直流電源装置(DC110V充電装置)は構成が非常にシンプルで、
- 充電装置(整流器)
- 蓄電池
- 分岐盤(DC配電盤)
という最小構成で成立する。
シンプルであるほど故障点が減り、結果として 系統全体の信頼性が高くなる。
変電所設備では、「壊れにくいもの」よりも「壊れにくい構成」を選ぶため、AC 方式の UPS よりも DC 方式の蓄電池システムが評価される。
直流はノイズ耐性が高く、制御信号の誤動作リスクが低い
受変電設備では、高電圧機器の開閉や雷サージ、短絡事故の発生により、
強い電磁誘導や過渡現象が発生する。
AC系統は波形が変動するため、外来ノイズが重畳されやすい。
これに対し、直流(DC)は波形が一定であるため、
- 信号が乱れにくい
- 電磁ノイズが乗っても波形変化が小さい
- 誤動作(偽トリップ)のリスクが低い
という利点がある。
特に保護継電器のトリップ信号やインターロック信号は、一瞬の誤判定が重大事故につながりかねないため、ノイズに強い DC が適している。
国際規格およびメーカー標準が「直流操作電源」を前提にしている
IEC(国際電気標準会議)、IEEE/JEC(日本電気規格)、国内外の変圧器・GISメーカー、
保護継電器メーカーの仕様は、いずれも 直流110V または直流48V を操作電源の標準としている。
- 保護リレー:DC110V標準
- 遮断器(GIS/断路器/VCB):DC操作コイルが標準
- BCU/RTU:DC110V/48Vが標準
- 監視盤:DC110V供給前提
- 非常時の自立性:DC電源と蓄電池前提
これは世界的な趨勢であり、AC110V操作電源の設備は例外的である。
すなわち、AC110Vを使わないのは、「そうした慣習があるため」ではなく、電力システム工学的必然として標準化された結果と言える。
構内が広い変電所では、DC110Vは電圧降下の点でも有利
変電所は敷地が広いため、遮断器や保護装置までの制御ケーブルが長距離になる。
電圧が低いと電圧降下の影響を受けやすく、操作コイルの動作が不安定になる。
DC110Vは比較的高電圧であるため、
- ケーブル長が長くても電圧降下の影響を受けにくい
- 電圧余裕を確保しやすい
- 遮断器の動作が安定する
という利点がある。
まとめ:受変電設備は「最悪の状態で確実に動く」ことが最優先
以上を総合すると、受変電設備で AC110V が使われず、DC110V が標準的に採用される理由は、単なる慣習や経済性ではなく、次のような技術的必然性に基づく。
- 停電時に唯一自立できる電源は蓄電池であり、直流電源でしか構成できない
- 遮断器トリップコイルは直流のほうが確実に作動する
- UPSに依存するAC方式は複雑で故障点が増え、信頼性が低下する
- 直流はノイズに強く、誤動作を避けられる
- 国際規格とメーカー仕様が直流操作電源を前提としている
- 構内配線が長い設備でも電圧降下の影響を受けにくい
結論として、受変電設備において操作電源に直流110Vを採用することは、
事故時の確実動作・高信頼性・規格整合性を同時に満たす唯一の合理的解と言える。



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