三菱電機は、重電機器から FA・IT ソリューションまでを一気通貫で提供できる、日本国内でも稀有な総合電機メーカーである。同社は発電・送変電機器の分野において長い歴史を有し、とりわけ変電設備の保護・監視制御に関する技術蓄積は国内でも随一である。
本稿では、同社の変電分野における特徴を整理した上で、国際規格 IEC 61850 の普及を背景にした「業界内の立ち位置」を中心に論じていく。
企業としての性格 ― 「重電 × FA × IT」が共存する総合技術基盤
三菱電機のエナジーシステム部門は、1930年代から変電設備・電力保護装置の提供を開始し、国内の電力会社・鉄道・産業向けに多数の実績を築いてきた。その後、GIS・変圧器・VCB をはじめとする重電製品に加え、制御装置・SCADA・通信技術、さらには FA(Factory Automation)領域・エッジコンピューティングまでを包含した広範な技術領域を統合してきた点に、同社の大きな特徴がある。
これは、IEC 61850 のような「通信・データモデル・エンジニアリング規格」が変電所の中核となる現代において極めて重要である。
重電機器の品質と、FA・IT を基盤とした制御・ネットワーク技術の両方を保持していることが、同社の競争力を支えている。
変電分野における主力機器とシステム構成
2-1. 保護リレーシリーズ「MELPRO」
三菱電機の保護リレーは MELPRO シリーズとして体系化されており、特にデジタル形の MELPRO-D は同社の IEC 61850 への取り組みを支える基盤製品である。これらは変圧器・モータ・配電フィーダ・母線など特高・高圧設備の広い用途をカバーし、以下の特徴を備える。
IEC 61850 MMS(監視制御通信)への対応
GOOSE による IED 間高速連携
HSR/PRP などの無瞬断冗長ネットワーク方式
Modbus 等の従来プロトコルとの併存
すなわち、MELPRO-D は「自社製リレー同士で完結させる保護装置」ではなく、IEC 61850 を前提としたマルチベンダ環境に同等に参加しうる IEDとして設計されている点が重要となる。
2-2. サブステーション・オートメーション「PMSXsas」
変電所全体の監視制御については、PMSXsas が中核を成す。
同システムはステーションレベルとベイレベルを統合し、集中監視・遠方監視・機器制御を一体化するもので、レトロフィット案件にも適用可能である。
PMSXsas は IEC 61850 を前面に押し出したプロモーションを行っていないものの、
現代の監視制御システムの基本設計思想が IEC 61850 ベースであることから、実質的にはマルチベンダ構成のデジタル変電所の中心に位置づけられる監視制御プラットフォームとみなすことができる。
IEC 61850 への適合と世代進化
3-1. MELPRO-D によるステーションバス対応
MELPRO-D は IEC 61850 Edition 1 に対応し、MMS・GOOSE を実装することで、従来の「点単位の接点交換」に依存しない IED 間協調を可能としている。HSR/PRP に対応している点は、無瞬断制御が求められる特高変電所に適用可能な信頼性を担保するものであり、同社が実運用レベルを見据えて規格対応を行っていることを示している。
3-2. MELPRO-i ― Edition 2 + エッジAIの統合
より最近の製品として注目されるのが MELPRO-i シリーズである。
これは保護リレーの枠を超え、以下のような多機能統合型 IED として設計されている。
IEC 61850 Edition 2 対応(GOOSE / MMS / SBOes など)
エッジ AI(同社独自の「Maisart」技術)による故障兆候検知
PLC 的ロジックの実装(MELGEAR との連携)
IoT プラットフォーム(INFOPRISM)との連携
すなわち、「IED+エッジAI+サブステーションIoT」の統合ノードとしての役割を担う製品であり、IEC 61850 を“通信規格”の枠にとどめず、“デジタル変電所プラットフォーム”として活用する方向性が強く打ち出されている。
3-3. MELPRO-C3/HB ― デジタル変電所時代の新世代リレー
技報で示されているように、MELPRO-C3/HB は保護リレーの世代更新に合わせて、データ利活用・サイバーセキュリティ・ユーザーによるカスタマイズ性向上を主テーマとし、ハードウェアとソフトウェアのプラットフォーム統合を進めたシリーズである。
同シリーズの背景には、
「国内外で IEC 61850 を適用したデジタル変電所へのニーズが高まっている」
という認識があり、三菱電機が次世代の変電所アーキテクチャに本格的に踏み込む意思を示している点は、注目に値する。
プロセスバス(IEC 61850-9-2)への取り組み
IEC 61850 の高度化の象徴であるプロセスバス(サンプル値通信)に関しても、三菱電機は研究・特許を通じて取り組んできた。
特に以下の領域は重要である。
サンプル値通信と高精度時刻同期(IEEE 1588/PTP)の統合研究
設備端末の自動認識方式に関する研究・特許
IEC 61850 準拠プロセスバスを用いた変電所自動化の実証
これらは、現時点では商用システムとして広く展開されているわけではないものの、フルデジタル変電所を視野に入れた基盤技術の整備が着実に進んでいることを示している。
IEC 61850 市場における三菱電機のポジション
5-1. 世界市場では「トータルソリューション型」ベンダー
IEC 61850 の世界市場においては、ABB、Siemens、GE、SEL、Schneider Electric といった欧米勢が Standardization の主導的立場にあるのは事実である。
これらの企業は IED 単体の提供力が強く、エンジニアリングツール群も成熟している。
一方、三菱電機は
- 自社製の重電機器(GIS、変圧器、遮断器)
- IED(MELPRO 系)
- 監視制御(PMSXsas)
- FA・IT 技術(エッジAI・IoT)
を一体のソリューションパッケージとして提供できる点に特徴がある。
つまり、同社は“個別 IED ベンダー”というより、変電プラント全体の EPC・統合ソリューション・ベンダーとしての性格が強い。
5-2. 日本市場では依然として主要プレーヤー
国内市場では三菱電機は、発電所・変電所・鉄道・産業設備などの特高受変電領域に深い実績を持ち、電力用保護リレー・監視制御・GIS などの採用も多い。
IEC 61850 の普及が進むにつれ、国内変電所も“マルチベンダ前提のデジタル構成”へとシフトしていくと予想されるが、その際にも三菱電機は
MELPRO-D / MELPRO-i のラインナップ
PMSXsas による統合監視制御
自社製 GIS・遮断器とのシームレス統合
を組み合わせて十分な存在感を発揮することができる。
とりわけ MELPRO-i のような Ed.2 対応 AI 統合型 IED は、日本市場に特有の「設備保全の高度化」ニーズと親和性が高い。
まとめ ― デジタル変電所の進展と三菱電機の将来性
三菱電機の IEC 61850 対応は、欧米勢のように IED 単独で主導権を握るアプローチとは異なり、重電・制御・IT を総合した統合型アプローチが特徴である。
- MELPRO-D による堅実なステーションバス対応
- MELPRO-i によるエッジAI+Ed.2 の融合
- C3/HB シリーズによるデータ利活用・セキュリティ対応
- 監視制御システム PMSXsas の統合化
- 将来を見据えたプロセスバス技術研究
これらを踏まえると、三菱電機は
「IEC 61850 を活用したデジタル変電所を、日本市場の実情に合わせて最適化するベンダー」
としての地位を今後さらに強固にしていくと推察される。
国内設備の更新需要、保全人材の減少、電力安定供給の要請――
これらの構造変化を背景に、三菱電機の「デジタル変電所ソリューション」は、今後ますます存在感を増すだろう。



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