なぜケーブルラックは、低圧でも高圧でも「接地してあって当たり前」なのか?

ケーブルラックは、低圧でも高圧でも「接地してあって当たり前」の存在ですが、

なぜここまで徹底して接地が求められるのかを、意外ときちんと説明できる人は多くありません。

この記事では、

そもそもケーブルラックとは何か

なぜ金属のラックは系統電圧に関わらず接地が必要なのか

低圧・高圧それぞれでの具体的な理由

雷・静電気・ノイズ対策としての側面

実務上の注意点・ありがちな誤解

までを、ブログ原稿として整理していきます。

ケーブルラックとは何か ?「見えない電気設備」を支えるインフラ

工場・ビル・データセンターなどの電気設備では、電力ケーブルや通信ケーブルを大量に配線します。

これらを安全に、かつ整理して支持するための金属製の支持構造が「ケーブルラック」です。

  • ラダー型(はしご状)
  • トレイ型(底板付き)
  • チャンネル型(溝型)

など形状はさまざまですが、いずれも金属製の長大な導体である、という点が重要です。

つまりケーブルラックは、

電路そのものではないが、建物内に長く張り巡らされた大きな「金属の塊」「露出導体」

として存在している、ということになります。

この「大きな金属体」が、ある条件で電位を持ってしまう可能性があることが、接地を求められる根本理由です。

原則:「人が触れる可能性のある金属体は接地する」

電気設備全般の安全思想として、非常にシンプルな原則があります。

人が通常の作業で触れる可能性がある金属体は、

万一の漏電時にも感電しないように接地しておく。

ケーブルラックは、通路上部・天井裏・機器上部など、人が作業する空間に配置され点検用通路や作業足場から手が届く位置にあることも多く、その上に「電圧のかかったケーブル」が多数載っているという設備です。

このため、

  • ケーブルの絶縁が傷つく
  • ビス・金物・バンドなどで誤って芯線を貫通する
  • ケーブル端末部の処理不良や浸水でリークする

といった「漏電」が発生した場合、ケーブルラックが丸ごと活線化するリスクがあります。

もしラックが**どこにも接地されていない「浮いた導体」**であれば、漏電した相とラックの間で電位がかかる。その電位を保ったまま長いラック全体が「ビリビリする金属体」になる。

作業者がラックと建物のアース・他の金属に同時接触すると感電

という危険な状況が生まれます。

これを防ぐために、

ラックはあらかじめ保護接地(保護ボンディング)しておき、漏電時には確実に大地へ電流が流れる経路を用意する。

その結果、過電流保護器や漏電遮断器が確実に動作する

という設計思想が採用されています。

低圧系統でケーブルラックを接地する理由

「低圧だから大丈夫」「100Vくらいなら…」と考えてしまうのは危険です。

低圧系統でも、ラック接地は安全上きわめて重要です。

(1) 漏電時のタッチ電圧を下げる

低圧系統(100/200V)であっても、人間の体にとっては十分に危険な電位です。

ケーブルラックが浮いていると、

漏電点からラックへ電流が流れるが

行き先がないため、ラック全体の電位が「漏電した線とほぼ同じ」になる

作業者がラックと接地された床・配管などに同時接触すると、体を通じて電流が流れる

という状況が発生します。

ラックを接地しておけば、

漏電電流はラックを経由して大地(アース)に流れる

ラックの電位はアース電位に強く引き下げられる

作業者がラックに触れても、ほぼアース電位の金属に触れているだけになる

結果として、**タッチ電圧(触れたときに体にかかる電圧)**を十分低く抑えることができます。

(2) 漏電ブレーカ・保護装置を確実に動作させる

もう一つ重要なのは、保護協調上の理由です。

漏電遮断器や過電流継電器は、ある程度の漏電(地絡)電流が流れないと動作しません。

ラックが接地されていれば、漏電電流が**「線 → ラック → アース → 中性点」**と確実にループを形成するため、所定値以上の地絡電流が流れやすくなります。

つまり、事故を確実に「見せて」切り離す経路として、ラック接地が機能するわけです。

逆にラックが浮いていると、

漏電電流が中途半端な容量でしか流れず

漏電遮断器が動作しない程度の小電流だけが常時流れ続ける

ラックに異常電位が乗った状態が継続する

という「じわじわ危ない」状況になりかねません。

(3) 誤接地・誤結線時のリスク低減

天井裏やラック上での作業では、

ケーブルの識別を間違える

他の金属体(ダクト・配管)に誤って接触させる

仮設配線・仮設コンセントをラックに固定する

といった作業ミス・暫定措置が起こりやすくなります。

ラックがきちんと接地されていれば、万一の誤結線や誤接触があっても、

ラックは常にアース電位近くに保たれ

事故が生じても漏電器の動作・ヒューズ溶断など、何らかの「見える形」で現れる

ため、早期発見・早期復旧につながります。

高圧・特高系統でのケーブルラック接地の理由

高圧・特高ケーブルをラックで支持する場合は、低圧以上に接地の重要性が増します。

理由は大きく分けて以下の二つです。

高い地絡電圧・誘導電圧から作業者を守る

シールド・外装金属との電位差を抑える

(1) 地絡時の電位上昇から守る

高圧系統で地絡事故が発生すると、

地絡点近傍の大地電位が一時的に大きく上昇し

周辺の金属構造物にも電位差が生じます。

このときケーブルラックが接地されていれば、

ラックの電位は他の接地系(建屋鉄骨、機器フレームなど)とほぼ同じ曲線で動く

「ラックだけ電位がズレる」ような状態を避けられる

結果として、作業者が複数の金属体に触れたときの電位差(ステップ電圧・タッチ電圧)を軽減できる

という効果があります。

(2) 高圧ケーブルのシールドとの電位関係を安定させる

CVケーブルやCVTケーブルなどの高圧ケーブルには、シールド・遮蔽層が設けられています。

このシールドは基本的に「接地されている金属層」であり、ラックもまた接地された金属構造物です。

両者が安定して同一の接地系に結び付いていれば、

シールドとラックの間に不必要な電位差が生じない

誘導電流や配電線の電界によるノイズ発生を抑えやすい

絶縁破壊のリスクを低減できる

一方、ラックが浮いた状態で高圧ケーブルを長距離支持すると、

ケーブルシールドとラックの間で容量結合が起き、

ラックが「よくわからない中途半端な電位」を持つ可能性があります。

この「中途半端な電位」が、

作業者の感電リスク

制御・通信線へのノイズ混入

保護継電器の誤動作

などの原因となり得ます。

雷・静電気・ノイズという観点からのケーブルラック接地

ケーブルラックは長く連続した金属体であり、建物内に張り巡らされた「アンテナ」のような性質も持っています。

このため、雷・静電気・ノイズの面からも接地の意義があります。

(1) 雷サージのバイパス経路として

建物に雷サージが侵入した場合、

  • 高圧・低圧の配電線
  • 通信線・LANケーブル
  • 鉄骨・配管
  • などを通じて高周波のサージ電流が建物内を駆け巡ります。

ケーブルラックが接地されていれば、ラックがサージの一部を受け止めつつ、アースへ逃がすバイパスとして働く各金属体間の電位差がある程度均一化され、局所的な高電位差を抑制できるという効果が期待できます。

(2) 静電気の蓄積防止

ラック上には、

  • PVCシースのケーブル
  • 通信ケーブル
  • 光ケーブル(樹脂ジャケット)

など、絶縁材の多い配線が大量に載ります。

これらは乾燥した環境では静電気を帯びやすく、ラックが浮いていると、

ラックと他の金属体の間に静電気的な電位差が蓄積する

放電時に機器誤動作やノイズを発生させる

といった事象に繋がることがあります。

接地することで、静電気は徐々に大地に逃げ、「バチッ」とした放電が起こりにくい環境を作ることができます。

(3) 制御・通信系のノイズ低減

ケーブルラックを接地することは、ある意味で**「巨大なシールド板を接地している」**状態を作ることでもあります。

高周波ノイズを拾いにくい配置(セパレーション)と組み合わせることで

制御線・通信線・計装線への誘導ノイズを減らし

設備全体の信頼性を高める

という、EMC(電磁環境適合性)上のメリットもあります。

6. 実務上の接地ポイント ― どこまでやれば十分か

ブログ読者の方が現場で悩みやすいポイントとして、

「ラック接地って、どこまですれば合格なのか?」というものがあります。

代表的な考え方を整理すると、以下のようになります。

(1) 電気室ごと・ラック系統ごとに確実な接地点を設ける

受変電設備室・配電盤室・サーバ室など、部屋ごとに最低1点以上の確実な接地を取る

ラックが長大な場合は、両端+途中数カ所に接地点(接地母線や鉄骨)を設ける

高圧系統が絡む場合は、所定の種別接地(C種・D種など)に明示的に接続する

(2) ラック同士・継手部の電気的連続性を確保する

ボルト締結だけに頼らず、必要に応じて**ボンディングジャンパー(アース線)**を渡す

メッキや塗装で電気的接触が悪くなりやすい継手部は注意して施工する

ラックの途中に樹脂製部材を挟む場合は、その前後で金属部分を確実に接続する

(3) 他の金属構造物との等電位ボンディング

近傍の鉄骨・ダクト・配管・盤フレームなどと同等の接地系統にまとめる

特に機器盤のフレーム、アースバーとの接続を意識する

電気設備の設計図上で、**「どこがどのアースに繋がっているか」**を明示する

よくある誤解・NGパターン

最後に、現場でありがちな誤解を整理しておきます。

「低圧しか載っていないラックだから接地なしでよい」→ 誤りです。

低圧であってもラックは「人が触れる金属体」であり、

漏電時の感電・火災リスクを考えれば接地は必須と考えるべきです。

「ラックは鉄骨にボルト止めしているから、それでアースが取れている」→ 一部は正しい場合もありますが、ボルト頼みは危険です。

ペンキ・さび・絶縁ワッシャが挟まっている

長年の腐食や緩みで導通が悪化する

などのリスクを考えると、専用のアース線で明示的に繋ぐ方が安全です。

「通信ケーブルしか載っていないラックだから、電気的に問題ない」→ 通信ケーブルの外部被覆破れや、近傍の電力線・雷サージの影響などで、

ラックが電位を持つ可能性はゼロではありません。

また、ノイズ・EMCの観点からも、通信ラックこそきちんと接地しておく方が安定します。

まとめ ― ケーブルラック接地は「設備全体の安全装置」

ケーブルラックの接地は、単なる「お作法」ではありません。

  • 漏電時に作業者を守る
  • 保護装置を確実に動作させる
  • 高圧地絡時の電位上昇から守る
  • 雷・静電気・ノイズから設備を守る

建物内の金属体同士を等電位に保ち、電気的に「穏やかな環境」を作る

という、多層的な役割を担っています。

低圧であっても、高圧であっても、

**「人が触れる可能性のある金属体は接地する」**という原則は変わりません。

ケーブルラックは、電気設備の中では目立たない存在ですが、その接地設計・施工の丁寧さが、設備全体の安全性と信頼性を大きく左右します。

現場でラックを見上げたとき、

「このラックは、どこで・どのアースに・どう繋がっているか?」

と一度立ち止まって考えてみることが、

電気技術者としての安全感覚を磨く第一歩になります。

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