否定ではないが「慎重な導入」という姿勢が見られる理由
IEC61850は国際標準として広く普及しつつありますが、国によって導入のスピードや戦略は大きく異なります。特に、既存インフラが成熟し、信頼性の高さを最優先してきた国では、「急速な導入」よりも「慎重な段階導入」を選択する傾向が見られます。本稿では、世界の中で特に“慎重であると言われる国”や“導入速度がゆるやかとされる国”を例示し、背景を整理します。
なお、ここで挙げる国々は否定しているのではなく、慎重で段階的な導入に重心を置いているというニュアンスで理解していただくことが重要です。
日本:極めて高い信頼性を前提とした慎重姿勢
日本はIEC61850に対して、一般に慎重とされています。しかし、それは決して否定的という意味ではなく、「極めて高い配電品質」と「現場文化」に支えられた合理的な態度です。
- 日本が慎重と言われる背景
- 既存設備の信頼性が世界トップクラス
- 従来方式の保護・制御が高い実績を持つ
- 現場保守・技術者による直接対応の文化が強い
- サイバー対策要件が高い
- IT化を慎重に進める基調が根強い
特に日本では、「失敗してはならない重要インフラ」という制度文化もあるため、変電所のデジタル化自体が必然的に慎重になります。
アメリカ:ユーティリティごとの差が大きく「統一的な動きになりづらい」
アメリカではIEC61850を積極採用している電力会社も存在する一方、あくまで既存システムを維持しながら、局所導入に留める企業もあります。国というより、送電事業者ごとに判断が異なるという特徴があります。
- 慎重になりやすい理由
- ITセキュリティ政策が厳格
- 国家安全保障の観点が強い
- 民間ユーティリティが多数存在し、統一化が難しい
- レガシー設備が地域ごとに異なる
つまりアメリカは、「採用の勢いがある地域」と「慎重な地域」が同時に存在する典型例と言えるでしょう。
中東地域(特に湾岸諸国):安全保障要求の高さゆえの慎重
中東各国は電力・輸送・石油施設が国家安全保障に直結しており、サブステーションの通信化に対して慎重な審査体制を取る傾向があります。
- 代表的な要因
- 国家インフラの軍事的価値が高い
- サイバー攻撃への懸念が大きい
- 機器の調達と制御政策が国家戦略と結びつく
一部ではIEC61850導入の事例も進みつつありますが、「完全通信化への移行を慎重に進める」という傾向は否めません。
中国:自国標準との整合性が前提となる慎重姿勢
中国は電力系統に対して高度な自国標準を持っているため、国外基準をそのまま適用するより、自国規格との整合性やセキュリティ上の主権を重視する傾向があります。
- 慎重になる理由
- 国家基準体系を重視
- 産業政策と標準化が強く結びつく
- 情報セキュリティ政策が非常に厳格
このため、IEC61850の導入は「自国標準との整合性を確認しながら段階的に」という形がとられがちです。
韓国:既存変電システムの完成度が高い
韓国は変電所自動化や保護システムにおいて自国メーカーの技術蓄積が大きく、既存方式が高く評価されています。結果として、IEC61850への全面移行は慎重に進んでいます。
- 背景要因
- 自国メーカー技術への信頼
- 従来方式が成熟している
- 技術教育体系が既存方式中心で構築されてきた
この意味では、日本とかなり近い構造を持っています。
慎重な国=否定している国ではない
上記の国々は、いずれも以下の特徴を持っています。
- 高い信頼性の既存設備を保有
- 国家安全保障と電力インフラが強く結びつく
- 技術的に成熟した電力産業を持つ
つまり、「慎重である=否定している」という理解は全く適切ではありません。むしろ、国際的にも技術的にもレベルが高い国ほど、慎重な導入を選ぶという側面さえあります。
まとめ
IEC61850は世界規模で普及が進んでおり、間違いなく将来の標準となりつつあります。しかし、導入スピードや戦略は国によって異なります。日本や韓国、中東、アメリカ、中国などは、既存の強いインフラや国家戦略上の事情から、慎重姿勢を取る例として挙げられるでしょう。
この点を理解しておくことで、IEC61850を単なる技術規格としてではなく、「各国の電力史と国家戦略を映す鏡」として評価できるようになります。



コメント