PLC更新プロジェクトの進め方

― ただの置き換えではなく「停止リスクを最小化する設計行為」

PLC更新は、単純にCPUやIOモジュールを新型に変える作業のように見えますが、実際には設備停止のリスク管理、安全回路の再設計、上位連携との整合、盤改造計画、現場試験など、多くの工数を内包したプロジェクトです。本章では、実務者が考慮すべき典型的な進め方のフレームワークを整理します。

現状調査と更新理由の明確化

■現状図面とPLCデータの入手(最重要ポイント)

実務上もっとも重要であり、かつ見落とされやすいのが現場と一致している図面およびPLCデータの入手です。

多くの企業では、設計当時の図面や、初期ロジックが格納されたPLCデータを社内で管理しています。しかしながら、

  • 試運転時の修正
  • 過去の改造
  • 現場要員による修正
  • 緊急対応時のロジック追加
  • 一部回路の現地改造

などにより、現在実際に稼働しているプログラムと設計時のデータが一致していないケースが非常に多く見られます。

したがって更新時には必ず、

  • 現地PLCの吸い出し
  • 現場設備に搭載されているロジック確認
  • 実盤図面(現場図)の取得
  • 最新の回路マーカー確認
  • 改造痕跡の洗い出し

を行い、会社が保持している設計情報と照合する必要があります。

「会社にある図面=現在の状態」だと信じ込むこと自体が危険であり、更新作業以前の問題として必ず現状の実体を確認すべきです。

更新理由を明確化する

まず重要なのは、更新理由が「消耗品交換」なのか「性能向上」なのか、あるいは「廃番対策」「保守契約終了対策」なのかを明確化することです。

更新理由によって

  • 更新範囲
  • 予算配分
  • 停止時間
  • 必要人員
  • 設計方針

が大きく変化します。

特に確認すべき項目

  • 現行PLC型式とシリーズ寿命
  • IO点数と余裕
  • 上位通信(Ethernet、CC-Link、Profibus、Net/10、NET/H等)
  • セーフティ回路の構成
  • 実際のスキャンタイム(測定必須)
  • メンテナンス歴
  • 非正規ロジックの有無

まず「現状」を正確に把握しなければ、更新計画そのものが不安定になります。

更新対象範囲の決定

更新対象を「どこまで含めるか」が非常に重要です。

例)

  • CPUだけ
  • IOモジュールも同時に
  • 上位通信設定を含む
  • セーフティPLCも更新
  • モータ制御(VFD、サーボ)も刷新

特に注意すべきは、古いPLCが「外部リレーや特殊出力」で成立している場合です。新型に置き換えると省電力・小電流モジュールになり、盤内のリレーが必須になるケースもあります。

**「PLCだけ更新したら逆にリレーが増える」**という事態は意外と多発しています。

互換性調査と変換テスト

メーカー提供の変換ツールは便利ですが、過信は禁物です。

確認項目

  • 廃止命令の使用有無
  • タイマ仕様の違い
  • 割込み仕様
  • スキャン方式
  • 初期化処理
  • 通信設定
  • セーフティ仕様

ここで洗い出しができないと、現場試験で壊滅的な手戻りが発生します。

盤設計・配線・追加ハードの検討

更新後のPLCに合わせて

  • リレー追加
  • 端子増設
  • セーフティモジュール追加
  • DINレール追加
  • ノイズ対策部品増設

など、盤改造が発生します。

「旧式の大きな出力カードが無かったから成立していた回路」が存在するため、事前調査は必須です。

インバータも更新する際は動力(モーター)は容量アップする可能性があるのか?更新計画はあるのかを調べてください。意外と機械系と電気系の更新計画が同じ社内で共有出来ていないことが多く、どこかのタイミングで更新計画の認識合わせをしてください。

私の経験ですがコンベヤ側を更新する時に機械設計が既設コンベヤの容量アップを見落として低いモーター容量のコンベヤで製作していました。

結果動くわけもなく再度更新計画を策定し直しになりました。当然コンベヤも改修が必要になりました・・

工程計画と設備停止時間の確保

24時間設備や食品・半導体・医療など、停止が困難な業界では、「いつ止めるか」が最重要になります。

  • 休日工事
  • 夜間工事
  • 設備更新前倒し
  • 一時ライン切り離し
  • 部分制御切替
  • 仮設PLCによる一部代替

など、停止リスクを徹底して排除する計画が必要です。

FAT(事前試験)とシミュレーション

更新は必ずテストベースで行うべきです。

  • オフラインテスト
  • メーカーシミュレーション
  • 仮装PLCでIO模擬操作
  • 上位通信試験
  • セーフティ連動テスト

大規模設備では、FATだけで数日〜数週間かかる場合もあります。

PLC更新時は旧型と新型が混在するタイミングがある場合は、机上での通信テストを推奨します。

SAT(現地試験)と立上げ

現場では必ずトラブルが起きる、という前提で臨むべきです。

特に注意するべきは

  • 位置決め制御
  • タイミング制御
  • 割込み
  • セーフティ
  • 非正規オーバーライド
  • 保守モード

「実運転そのものが検証フェーズ」になります。

運用後のフォロー期間

更新は工事完了では終わりません。

  • 稼働ログ分析
  • トレンド監視
  • 操作者教育
  • 不具合傾向の観察
  • 設定値の微調整
  • 再最適化

特に制御系は数日〜数週間後に問題が顕在化することがあります。

まとめ:更新とは「信頼性の再構築」である

PLC更新は単なるリプレース作業のように見えますが、そこには現状把握の正確性が最も高い優先順位で存在します。

特に、

  • 現場配線
  • 改造履歴
  • 非正規追加
  • 緊急対応
  • バイパス回路

などは現場では生きているが、設計情報には残っていないケースが多く、図面やPLCデータを“社内資料で確認しただけ”では安全を担保できません。

したがって更新プロジェクトにおいては、

「現場の実体を正とする」

という思想が欠かせません。

最新PLCは性能が高いからこそ、既存設備の成熟した遅延構造を壊してしまう恐れがあります。まずは現状を正しく理解し、信頼性を再構築する視点で臨むべきです。

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