保護継電器は実効値で電流を監視しているのか?

〜RMS、瞬時値、DFT、高速保護アルゴリズムの仕組みを徹底解説〜

受変電設備・デジタル保護を扱う技術者であれば、一度は気になったことがある疑問。それが、「保護継電器は、電流を“実効値(RMS)”で監視しているのか?」というテーマです。

過電流継電器(OCR:50/51)や接地過電流(51G)、不足電圧・過電圧(27/59)など、日常的に使う保護要素は「実効値に基づく」という知識は一般的です。

しかし近年の保護継電器、特に**IEC61850デジタル保護、差動保護(87系)、距離継電器(21)**になると、「RMSだけではない高度な処理」を行っています。

本記事では、保護継電器がどのように電流・電圧を取り込み、どのタイミングでRMS(実効値)が使われ、どの場面で“瞬時値”や“高調波解析”を併用しているのかを、実務者向けに丁寧に解説します。

結論:保護継電器は基本的に“RMS(実効値)で監視”している

まず結論から書くと、次のように整理できます。

一般的な保護要素(50/51、27/59、46、47など)は、基本波RMS(実効値)を使って判定する。

一方で、高速性や高信頼性が求められる保護要素(差動、距離、インラッシュ判定など)は瞬時値解析を併用する。

つまり、

通常保護=RMS主体

高速保護=RMS+瞬時値(サンプリング値)解析のハイブリッド

という仕組みになっています。

継電器内部:CT/VT → A/D変換 → DFT(基本波抽出)

保護継電器は、CTやVTから入力された電流・電圧を

毎秒数千回サンプリングしています。

一般的には:

50Hz系:32〜64サンプル/周期以上(1,600〜3,200サンプル/秒)

IEC61850のサンプル値方式(SV):4,000〜4,800サンプル/秒

サンプリングした波形は、

継電器内部で以下のように処理されます。

A/D変換(アナログ→デジタル)

DFT(離散フーリエ変換)で基本波成分を抽出

基本波の実効値(RMS)と位相角(Φ)を算出

ここで得られた RMS値と位相角がほぼすべての一般保護要素の“判断材料”になります。

●RMSを使う代表要素

  • 過電流:50/51
  • 接地過電流:51G/51N
  • 過電圧・不足電圧:59/27
  • 不平衡:46
  • 零相電圧:47
  • 逆電力:32

これらは「基本波RMS」で十分であり、

高調波や波形歪みの影響を避けるために

むしろRMSを使うことが望ましい設計です。

しかし高速保護は“RMSだけ”では動作できない

現代のデジタル保護継電器が複雑なのはここからです。

RMSだけでは、以下のような高速動作には対応できません。

数サイクル以内に動作すべき差動保護

高調波を伴う変圧器インラッシュ判定

瞬時の波形歪みを読み取るアーク検出

方向判定のための複素数演算(V∠ΦとI∠Φ)

これらは瞬時値(サンプル値)の利用が不可欠です。

差動保護(87)は「RMS方式」と「瞬時値方式」の2種類ある

差動保護(87T/87G/87B)は、もっとも“瞬時値”を活用する要素の1つです。

●(1) RMS差動方式

DFTで得た基本波RMSを使って差動電流を計算

動作信頼性が高い

変圧器のインラッシュ対策で高調波抑制機能を使用

●(2) 瞬時値差動方式(波形一致方式)

サンプル値そのものの差を比較

高速(1サイクル以内で動作)

インラッシュ判定を“波形一致”で行える

メーカーによって呼び名は違いますが、

GE・Siemens・SEL・三菱・東芝などでは

高速化のために瞬時値の比較アルゴリズムを搭載しています。

このため差動保護は、

RMSベースで判定しているが、必要に応じて瞬時値ベースの高速差動も併用する

というハイブリッド方式が主流になっています。

距離継電器(21)は「RMS+位相」の複素数演算

距離継電器は

**V/Iの大きさ+位相角(Φ)**をもとに

インピーダンス Z = V / I を求めて判定します。

ここで求めるのは単なる「RMS値」ではありません。

実効値(振幅)

位相角(Φ)

複素数としてのV∠Φ、I∠Φ

つまり距離継電器は

DFTで抽出した基本波(RMS+位相)を複素数として扱う演算方式

を採用します。

瞬時値を使って位相角を直接求める方式もあり、

複数のアルゴリズムを持つ場合もあります。

変圧器のインラッシュ判定は“瞬時値解析の典型例”

変圧器励磁突入電流(インラッシュ)は大電流が流れるため、普通にRMS判定すると「事故」と誤判定してしまいます。

そのため継電器は:

  • 2次高調波含有率(いわゆる“2nd判定”)
  • 5次高調波(鉄心飽和判断)
  • 高周波成分解析
  • 波形の非対称性

などを使います。

これらはすべて

サンプル値(瞬時値)を周波数分解して解析する方式です。

61850 IEDは完全に「ハイブリッド処理」

IEC61850対応のデジタル保護継電器は次のような動作を常に並列で行っています。

  • RMS(実効値)計算 → 一般保護要素の判定
  • 瞬時値による高速解析 → 差動、インラッシュ、アーク検出など
  • DFT/FFTによる高調波分解 → 異常波形検出
  • SV(サンプル値)による高精度同期測定
  • GOOSEで高速トリップを送出

まさに「RMSだけ」「瞬時値だけ」ではなく、

両方を状況に応じて使い分ける総合電力解析装置になっています。

現場実務としての理解:どう説明すべきか?

現場・社内説明では、次の一文が最も実務的です。

「保護継電器は基本的にRMS(実効値)で電流・電圧を監視するが、

高速保護要素や高調波解析では瞬時値(サンプル値)も併用する

ハイブリッド処理で動作している。」

これが一番正確で、もっとも誤解が少ない説明になります。

まとめ(この記事の要点)

一般保護要素はRMS(実効値)で判定する

継電器内部ではA/D → DFTで基本波(RMS+位相)を抽出

高速保護は瞬時値(サンプル値)の解析が不可欠

差動保護(87)はRMS方式と瞬時値方式がある

距離保護(21)は複素数演算にRMS+位相を利用

インラッシュ判定は高調波解析(瞬時値)

61850 IEDはRMS/瞬時値のハイブリッド処理

総じて、保護継電器は“実効値ベースを基本にしつつ、必要に応じて瞬時値で高度解析する”という非常に賢い仕組みで動作している。

というのが現代の保護継電器の実像です。

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