アナベル・ガトーは一年戦争の時点で魂が死んでいた

― そして30バンチ事件を間接的に後押しした男 ―

アナベル・ガトーという人物は、「誇り高き武人」「ジオンの魂を体現した男」として語られることが多い。しかし彼の行動を時系列で冷静に追っていくと、その評価は大きく変わる。

彼は英雄ではない。

むしろ一年戦争の終盤、ア・バオア・クー戦の時点で、すでに**“生きた判断力”を失った存在**だった。

その結果として行った星の屑作戦は、無数の犠牲を生み、ティターンズを誕生させ、さらには30バンチ事件へと連なる流れを「間接的に」後押しすることになる。

ア・バオア・クー撤退で彼の思考は止まった

ガトーはア・バオア・クー防衛戦に参加し、上官命令によって撤退している。

形式上は命令であり、彼個人の裏切りではない。だが問題は、その後の彼の内面だ。

彼は

・なぜジオンは敗れたのか

・なぜ戦争はここまで拡大したのか

・ザビ家は正しかったのか

という問いを一切しない。代わりに、

「守れなかった自分は罪人だ」

「取り戻さねばならない」

という感情だけを抱え続ける。

ここで彼は、歴史を考えることをやめ、過去に殉じる存在になった。この時点で彼は、兵士ではなく、後悔と怒りで動く装置になっている。

戦時でもないのに大量破壊兵器を奪い、使った

星の屑作戦で、ガトーは核兵器を強奪し、使用する。

重要なのは、それが「戦争中」ではなかったという点だ。

・正規軍同士の交戦ではない

・宣戦布告もない

・合意もない

それにもかかわらず、「連邦の腐敗を正すため」「宇宙の民のため」という一方的な理屈で核を使う。これはもはや戦争ではない。

テロである。

理念は抽象的で、死ぬのは具体的な人間。見ようとすらしない。

コロニー落としという“責任回避型の殺戮”

星の屑作戦の核心は、コロニー落としである。

彼らは

「穀倉地帯を狙った」

「人口密集地ではない」

と説明する。だが現実には、

・地殻変動

・海面上昇

・気候異常

・物流破壊

により、被害は地球全体に波及する。つまり、

「直接殺していないから問題ない」

という理屈で、間接的に無数の命を奪う選択をした。

ここでガトーは、被害を“見ない”ことを選んでいる。自分の手で何をしたか?何が起こるかを頑なに見ようとしない。

それは理想主義ではない。思考停止である。

ティターンズを生み出したという現実

星の屑作戦の結果、連邦は軍事的強硬路線に傾き、ティターンズが結成される。

「連邦の腐敗を正す」という名目で行われた作戦が、結果的に

・スペースノイドへの弾圧

・地球至上主義の強化

・軍の暴走

を正当化した。つまりガトーの行為は、スペースノイドの立場を改善するどころか、最悪の政治的結果を生んだ。

彼は

「大義」を語ったが、「大局」を壊した。

そして30バンチ事件を“間接的に”後押しした

ティターンズは、権力と暴力を正当化された組織として成長していく。

その象徴が、30バンチ事件である。

コロニー内に毒ガスを流し、住民を皆殺しにした事件だ。

これは、ガトーが直接命令した事件ではない。しかし、

・ティターンズを生み出した原因は星の屑作戦

・星の屑作戦を実行した象徴的人物がガトー

という因果関係は否定できない。ガトーの行動は、

「過激な暴力は許される」

「敵は殲滅してよい」

という空気を宇宙世紀に残した。

その空気が、30バンチ事件という組織的虐殺を可能にした。つまり彼は、引き金は引いていないが、銃を装填した側の人間だった。

思いだけが先行し、大義も大局も見えなかった

ガトーは自分を

「ジオンの武人」

「魂の体現者」

だと信じている。だが実際に彼が守っていたのは、

・ジオンの未来ではなく

・スペースノイドの幸福でもなく

・ただ自分の後悔だけだった。

そこには、政治も社会も未来像もない。

あるのは、「過去を取り戻したい」という感情だけである。

結果として彼は、理想の戦士ではなく、理念を口実に暴力を行うテロリストに成り下がった。

現代の目で見ると、彼は“子供”に見える

放送当時は、戦争やテロの構造を知る機会は限られていた。だから彼は

「悲劇の武人」

「誇り高き敗者」

に見えた。だが今の時代に見ると違う。

・単純な善悪

・自分に都合のいい物語

・結果責任からの逃避

それは、過激思想に染まる若者や宗教的テロとよく似ている。

彼は成熟した大人ではない。現実を見ない子供のまま死んだ男である。

結局、彼は大局を見なかったまま終わった

ガトーは最後まで、

・世界がどう変わるか

・その後どうなるか

を考えない。考えたのは、「俺は何を成し遂げるか」だけだった。

その結果、

・ティターンズを生み

・30バンチ事件の土壌を作り

・さらなる戦争を準備し

消えていった。彼は英雄として死んだのではない。思考停止したパイロットとして終わったのである。

おわりに:大局を見る目を失った正義は、最も危険なものになる

アナベル・ガトーは、一年戦争の終わりと同時に、未来を見る力を失った。

彼の行動は、

「宇宙の民のため」

「正義のため」

という言葉で正当化されるが、

現実には

・無関係な人々を殺し

・より凶悪な組織を生み

・次の虐殺を準備した。

星の屑作戦は、単なる復讐劇ではない。

30バンチ事件へと続く暴力の連鎖の起点のひとつである。

そしてその中心にいたのが、アナベル・ガトーだった。

彼の悲劇は、「正義を信じすぎたこと」ではない。

正義を信じるあまり、世界を見ることをやめたことにある。

大局や世の中を見る目を養わなければ、どれほど立派な大義も、どれほど人のためを思った行動も、かえって多くの人を不幸へといざなう。

アナベル・ガトーの物語は、過去の戦争の話ではない。

それは、「考えない正義」が生む悲劇への警告であり、私たち自身への自戒でもある。

正しさを語る前に、世界を見なければならない。敵を憎む前に、結果を考えなければならない。

彼が最後まで持てなかった「大局を見る目」こそが、本当の意味で人のために行動するための条件なのだ。

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