― 受変電設備を“爆発”から守る縁の下の力持ち ―
アークダクトとは?
**アークダクト(Arc Duct)**とは、受変電設備や高圧・特別高圧の配電盤内部で発生したアーク放電(内部短絡事故)による高温ガス・圧力・炎を、建屋の外へ安全に逃がすための排気通路のことです。
主に次のような設備に取り付けられます。
- 高圧・特別高圧配電盤
- 受変電設備(6.6kV / 22kV / 66kV など)
- GIS・金属閉鎖型スイッチギヤ
- 大電流盤(データセンター・工場・変電所)
なぜ「アーク」を外へ逃がす必要があるのか?
◆ 盤内事故で起きる現象
配電盤内部で短絡事故が起こると、以下が同時に発生します。
- 数千~数万℃のアーク放電
- 金属蒸発による高温ガス
- 急激な圧力上昇(爆発のような状態)
- 金属片の飛散
これをそのまま盤内に閉じ込めると…
- 扉が吹き飛ぶ
- 人がやけど・失明する
- 建屋火災につながる
- 盤が完全破壊される
という最悪の事故になります。
アークダクトの役割
アークダクトの役割はシンプルです。「盤の中で起きた爆発エネルギーを、人のいない方向へ逃がす」具体的には:
- 高温ガス → 建屋の外へ
- 圧力 → 天井ダクト経由で放出
- 炎 → 屋外に排出
- 金属粉 → ダクト内に誘導
つまり、人を守る装置であり、建屋を守る装置そして二次災害を防ぐ装置です。
アークダクトの構成
一般的な構成は以下の通りです。
- 配電盤上部の「アーク排出口」
- 鋼板製ダクト(耐熱・耐圧)
- 建屋外への排出口(ルーバー・フード付き)
イメージとしては:
配電盤→アークダクト→建屋外へ排気となります。
事故時には、
盤内でアーク発生→内圧上昇→上部の排出口が開く→ダクトを通って外へ噴出
という流れになります。
アークダクトが必要になる設備
特に必要性が高いのは次のような設備です。
- 大電流(数kA以上)の高圧盤
- 人が常時立ち入る受電室
- データセンター
- 地下受電室
- 屋内設置の特高盤
- 金属閉鎖型スイッチギヤ
逆に:
- 小容量の低圧盤
- 屋外キュービクル
- 人が近づかない場所
では省略されることもあります。
アークダクトと「耐アーク設計」
最近の盤は、耐アーク型配電盤(Arc-resistant switchgear)という考え方が主流です。これは、アークが起きても
・扉が開かない
・人に当たらない
・外に炎が出ない
という設計思想です。
この「耐アーク」を成立させる重要部品がアークダクトです。アークダクトなしでは「耐アーク型」とは呼べません。
アークダクト設計で注意すべき点
① 排気方向
- 人がいない方向か
- 隣接建屋に向いていないか
- 屋根上に排気しているか
が重要です。
② ダクトの強度
事故時の圧力は非常に大きいため、
- 薄板ダクト → 変形・破裂の危険
- 曲がりが多すぎる → 詰まり・逆流
となる可能性があります。
③ 防火・防水
- 雨が逆流しない構造
- 延焼防止のフード
- 防火区画貫通部の処理
も設計ポイントです。
アークダクトは「事故を起こさない装置」ではない
ここが重要です。
アークダクトは、
❌ 事故を防ぐ装置ではありません
⭕ 事故時の被害を減らす装置です
つまり、
- 保護継電器
- 遮断器
- 設計品質
- 点検・保全
があって初めて意味を持ちます。アークダクトは最後の命綱のような存在です。
なぜ最近アークダクトが重視されているのか?
理由は3つあります。
① 短絡電流が大きくなっている
- 大容量変圧器
- データセンター
- 分散電源増加
で事故エネルギーが増大しています。
② 人手不足・無人化
- 遠隔操作
- 無人変電所
- 夜間無人運転
でも、保守員が入る時間は必ずあるため「入った瞬間の事故」を想定する必要があります。
③ 安全規格・リスク意識の高まり
海外では
- IEC
- IEEE
- UL
- NFPA
- などで
アークフラッシュ対策が厳しくなっています。日本でも徐々に影響を受けています。
技術者視点でのまとめ
アークダクトとは、事故を前提に人命と設備を守るための“逃げ道”を作る技術です。
盤の性能や保護方式がどれだけ優れていても、
- 絶縁破壊
- 動物侵入
- 工事ミス
- 経年劣化
で事故はゼロになりません。
だからこそ、「事故が起きても、人を死なせない設計」という思想が重要になっています。


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