ABB社 ― 電力オートメーションを牽引する総合重電メーカーの実像と、IEC 61850分野での確固たる地位

スイスに本拠を置く ABB(Asea Brown Boveri)は、世界的な重電・オートメーションメーカーとして、発電・送電・変電・産業オートメーションの全領域へ技術を提供している。同社は19世紀にまで遡る歴史を持ち、欧州を中心とする電力システムの発展とともに、変電所制御・保護リレー・高電圧機器・産業電動機・ロボティクスといった多岐にわたる領域で高い専門性を蓄積してきた。

特に電力系統における自動化・デジタル化の分野では、ABB はいち早くプロセス指向の分散アーキテクチャを採用し、通信規格の標準化・冗長化・インターオペラビリティを重視する設計思想を明確に打ち出してきた。この背景には、複数国にまたがる電力網を安定的に運用するための国際協調の必要性があり、IEC 規格への深いコミットメントは ABB の企業文化として定着している。

ABBの事業領域と技術的特徴

ABB の電力関連事業は以下に大別される。

◆ (1)電力オートメーション(Substation Automation Systems)

変電所向け保護・制御・監視システム

IED(Intelligent Electronic Device)

BCU(Bay Control Unit)

SCADA/DMS/EMS などの系統監視ソフトウェア

デジタル変電所ソリューション(IEC 61850、プロセスバス、光CT/VT等)

この領域は ABB の技術的中核であり、欧州・中東・アジアを中心に世界的シェアを確保している。

◆ (2)高電圧・中電圧製品(HV/MV Products)

GIS、変圧器、遮断器、避雷器、計器用変成器など。

特に GIS(Gas Insulated Switchgear)は国際的評価が高く、しばしば Siemens・Hitachi Energy(旧 ABB パワーグリッド事業)と対で語られる。

◆ (3)産業オートメーション・ロボティクス

電力以外にもプロセス産業、製造業向けソリューションを提供し、同社の収益構造を分散させている。

ABB における IEC 61850 の位置付け

ABB は IEC 61850 規格の成立初期から深く関与しており、同規格の思想である「オブジェクト指向」「機能分離」「通信の相互運用性」を強く推進してきた。

IEC 61850 を単なる通信規格としてではなく、変電所の機能をモデル化するための包括的なアーキテクチャとして位置付けている点が特筆される。

◆ (1)標準化への継続的な貢献

IEC TC57 の規格策定メンバーとして多数参加

Logical Node(LN)モデルの整理・定義に貢献

欧州系メーカーとの協調を通じ、実運用での適用方法を体系化

ABB は規格の“利用者”ではなく“設計者”としての立場を持つ。

これは 「規格主導型メーカー」 とも表現でき、同社の設計思想が世界標準に反映されるケースも多い。

◆ (2)製品ラインナップの一貫性

Relion シリーズ保護リレー(615/620/630/670 系)

BCU 用 IED(REC/REB/RET/REF 系)

SAM600 系 MU(Merging Unit)

プロセスバスとステーションバスを統合する通信アーキテクチャ

これらはすべて IEC 61850 を前提に最適化されており、

論理モデル、データセット構成、GOOSE/SV 通信、設定ファイル(SCL/ICD/SCD)、冗長化方式が統一的にデザインされている。

「ABB の機器同士で構成すると極めて整った IEC 61850 システムが組める」

という評価は国際的に広く共有されている。

◆ (3)欧州での主流的ポジション

欧州では IEC 61850 採用が早く、特にプロセスバス化は ABB・Siemens が主導してきた。

そのため、欧州系電力会社・TSO(送電事業者)では ABB の IED が標準的に採用されるケースが多い。

欧州:ABB・Siemens の二大巨頭構造

北米:SEL の独走状態

アジア:日本を含め GE/ABB/Siemens が混在

という構造の中で、ABB は IEC 61850 技術の“本流”と評価されている。

IEC 61850業界内における ABB の立ち位置

以下の観点から、ABB のポジションを総合的に評価する。

(1)業界トップクラスの「規格準拠の厳密さ」

ABB の IED は、IEC 61850-8-1(MMS/GOOSE)、-9-2LE(SMV)、-6(SCL)に対する準拠度が非常に高く、

規格解釈が厳密であるため、他社との相互接続試験(UCA 国際プラグフェスト)でも安定性が高い。

データモデルが体系的

エンジニアリングツール(PCM600)が規格構造と整合

Merging Unit 〜 IED 〜 BCU の間の整合が強い

結果として、IEC 61850 システム全体の“教科書的”構築が可能となり、

国際プロジェクトでの採用率が高いという実績に直結している。

(2)プロセスバス分野の先行メーカー

ABB は業界でも早期に MU(Merging Unit) を実装した企業であり、

光CT/光VT を含むフルデジタル変電所のアーキテクチャを提案してきた。

SAM600 シリーズ

670 シリーズ保護リレーとの密接な連携

スイッチングデバイス制御のデジタル化

日本ではまだ普及途上であるが、

欧州・中東・インドなどでは、ABB 主導のプロセスバス変電所が既に多数稼働している。

これは、GE・Siemens と並ぶ「世界三強」の一角としての存在感を裏付けるものである。

(3)システムインテグレーション能力の高さ

ABB の強みは、製品単体の品質だけではない。

特に評価されているのは 変電所オートメーション全体を設計・統合できる力である。

保護・制御・測定・監視・SCADA を一貫して供給

通信アーキテクチャの標準化

冗長化方式(PRP/HSR)の高度な実装

SCDファイルを中心とした統合エンジニアリング(Top-down Engineering)

IEC 61850 を“変電所の OS”と見なした設計が貫かれており、

これは Siemens も同様の思想を持つが、ABB はより厳密でモデル主義的とされる。

(4)製品の安定性と欧州基準

ABB の製品は機能性よりも“堅牢性・安定性”に重きがある傾向がある。

欧州の送電会社の厳しい試験基準

長期運用を前提としたパラメータ管理

オブジェクト指向モデルに基づく整然とした保護機能群

その結果、

「IEC 61850 の王道構成を組むなら ABB が最も扱いやすい」

と技術者から評価されるケースが多い。

他社との比較から見える ABB の独自性

ABB

  • 規格主導型・モデルの厳密性・欧州系の本流
  • 欧州・中東・アジア
  • 安定性・体系性・プロセスバス強い

Siemens

  • エンジニアリング思想が強く、IT/通信統合に強み
  • 欧州・世界広域
  • 高機能・統合管理に優れる

GE

  • 実務重視、柔軟性高く北米で強い
  • 北米・アジア
  • 実用性重視で導入容易

SEL

  • 北米絶対王者、堅牢で安価、導入迅速
  • 北米中心・世界に急拡大
  • 性能・堅牢性・サイバー強い

この中で ABB は、

「規格の本流に準拠しつつ、堅牢でバランスの良い IEC61850 システムが構築できるメーカー」

として独自の地位を確立している。

総括 ― なぜ ABB は IEC61850 分野で重要なのか

ABB が IEC 61850 分野で高い評価を受ける理由は以下に集約できる。

規格策定から関与してきた“本流メーカー”であること

IED・MU・BCU・SCADA を含む一貫した製品体系

欧州標準に基づく高信頼・高安定運用の実績

プロセスバスの先行者としての技術力

SCL を中心としたエンジニアリング思想の整合性

デジタル変電所の本格普及が日本でも進む中、

ABB の製品群とその設計思想は、

将来の保護・制御アーキテクチャを考えるうえで一つの指標となる。

IEC 61850 を真に活用したいのであれば、

ABB のアプローチに学ぶことは極めて有益であると言える。

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