IEC 61850 時代における4大メーカーの立ち位置と技術思想の比較分析
デジタル変電所の普及とともに、保護リレー・BCU・Merging Unit(MU)・SCADA を含む電力オートメーションの世界では、国際規格 IEC 61850 を基盤としたアーキテクチャが急速に標準化しつつある。本稿では、この分野を牽引する ABB・Siemens・GE・SEL の4社を取り上げ、その製品設計思想・IEC 61850 の運用哲学・市場構造の違いを整理し、エンジニア視点での比較を試みる。
各社の概要と歴史的背景
ABB(スイス) ― 規格と体系性を重視する欧州本流メーカー
欧州系電力会社の標準的サプライヤ
IEC 61850 の策定初期から関与し、規格の“本流”を形成
Relion シリーズを中心とした整然とした製品体系が強み
プロセスバス、SAM600 MU などデジタル化を牽引
Siemens(ドイツ) ― IT統合・システム思想の強い総合重電企業
欧州最大級の総合電機メーカー
IEC 61850 の適用範囲をシステムレベルまで押し上げる設計思想
SIPROTEC / SICAM など多層構造の自動化アーキテクチャ
操作性よりも“設計思想の一貫性”を重視
GE(米国) ― 実用性・柔軟性・導入容易性に強みを持つグローバルメーカー
北米市場で ABB と並び広いシェア
Multilin B30/B90、C650 等 “実務者視点”の製品思想
IEC 61850 への準拠は十分高く、欧州メーカーより自由度が高い
現場導入のしやすさや設定の柔軟性で高評価
SEL(米国) ― 堅牢性とサイバーセキュリティで北米覇者となったメーカー
北米の送電・配電で圧倒的シェア
IEC 61850 の運用は得意だが“規格本流”ではなく北米思想の実務型
SEL-400/700 シリーズは保護動作の信頼性・堅牢性で他社を圧倒
サイバーセキュリティ機能が業界随一
IEC 61850 に対する姿勢と設計思想の比較
ABB:規格遵守に最も厳格な“モデル主義者”
LN モデル・SCL(ICD/SCD)構造を最も忠実に実装
PCM600 を中心とするエンジニアリングが非常に体系的
プロセスバス推進の中心メーカー
欧州でのプラグフェストでは常に高評価
Siemens:規格をシステム全体の OS と捉える“アーキテクト型”
IEC 61850 を単なる通信規格ではなく“エコシステム”として扱う
SIPROTEC + SICAM の統合思想が強い
SCL 設計は厳密であるが設定が複雑になることも
GE:柔軟性と実務性を両立させる“現場志向型”
ICD/SCD の取り扱いが自由度高く扱いやすい
保護・BCU の一体化が可能で中規模変電所に適合
SEL:規格よりも堅牢性と保護性能を優先する“動作信頼性至上主義”
保護性能が最優先
サイバーセキュリティ対策が非常に強力
製品アーキテクチャの比較(IED / BCU / MU)
ABB:Relion・REC/REB/REF・SAM600 など一貫した IEC 61850 製品体系
Siemens:SIPROTEC / SICAM による階層化された自動化
GE:Multilin B 系列と C 系列の柔軟運用
SEL:堅牢性を最優先しつつ IEC 61850 にも対応
システムインテグレーション比較
ABB:最も整然とした IEC 61850 システム構築が可能
Siemens:大規模変電所設計に強く、IT/OT統合が進む
GE:現場での扱いやすさと適応力が高い
SEL:冗長性・堅牢性・セキュリティを最重視
コスト・導入性・運用性比較
ABB:中〜高価格、体系的で信頼性高い
Siemens:高価格・複雑だが大規模構築に最適
GE:中価格・導入容易
SEL:中〜低価格・導入最速・堅牢性最高
結語 ― 4大メーカーが描く IEC 61850 の未来像
・ABB:規格本流の整然とした体系
・Siemens:高度統合と大規模 IT システム化
・GE:実務性と柔軟性
・SEL:堅牢性とサイバーセキュリティ
それぞれのメーカーは異なる技術哲学を有しつつも、IEC 61850 を核とした未来の変電所像を共有している。日本のデジタル変電所の普及が進む中、各社の技術思想を理解することは、適切な構成選定や運用モデルの確立に極めて有益である。


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