近年、産業プラント、電力インフラ、データセンターといった大規模設備の建設において、従来の「設計 → 調達 → 施工」という直列工程ではプロジェクト全体を最適化できない事例が増えている。機器の大型化や設備密度の上昇、工期短縮要求の強まりなど、設計と施工の間に横たわる断絶を解消しなければ、工事の遅延や予期せぬ追加コストが発生しやすい。こうした背景のもとで注目されているのが ECI(Engineering, Construction, Installation)設計方式である。
ECI設計とは、設計(Engineering)・建設(Construction)・据付(Installation)を初期段階から一体的に捉え、プロジェクト全体を協働的に形成する手法を指す。単なる工事手順の管理ではなく、計画・詳細設計・施工性・保守性までを連動させる「上流統合型設計」であり、近年の大規模プロジェクトでは標準的なアプローチになりつつある。
ECI設計の基本概念
ECI方式は、次の三要素を同一フェーズで扱う点に特徴がある。
Engineering(設計)
基本設計、詳細設計、配置計画、機器仕様の確定、配線・配管ルートの整理。
Construction(建設)
土木・建築工事、架台・構台の設計と施工、搬入計画、工区分割、工期工程の調整。
Installation(据付)
電気・機械設備の据付、ケーブル敷設、試験調整、立上げ作業。
目的は非常に明確である。上流段階から施工可能性(Constructability)を担保し、計画変更によるロスや工期遅延を排除することに尽きる。設計者と施工者が分断された従来方式では、実際の現場で「設計通りに施工できない」という事態が頻発する。ECIはその根源的な非効率を解消するための方式である。
なぜ今、ECI設計が求められるのか
(1)施工性を確保した“実装可能な設計”の必要性
高度化・大型化が進んだ設備では、机上で成立しても現場では成立しない配置が珍しくない。
ECIでは、設計段階で施工側の知見を取り込み、物理的に実装可能なレイアウト・配線ルートを確定する。
(2)工期短縮圧力への対応
データセンターをはじめとする事業インフラでは、稼働開始時期が事業価値に直結する。
設計と施工の分離はタイムロスを増大させるため、ECI方式による並列進行が採用されるケースが増えている。
(3)コスト最適化(VE)の強化
施工者が早期に参画することで、
- 過剰仕様の削減
- 標準工法の適用
- 資材計画の平準化
などが可能となり、**設計段階でのVE(Value Engineering)**が実効性を持つ。
(4)長期運用を見据えた保守性の確保
プラント・変電所・データセンターでは、運用期間が長期にわたるため、
- 将来増設
- 保守動線
- 安全性
などの配慮が欠かせない。ECIはこれらの要素を上流で盛り込むことで、ライフサイクル全体の最適化に寄与する。
実務におけるECI設計の内容
(1)配置計画(レイアウト)の高度化
機器の搬入経路、スラブ強度、クレーン計画、盤前スペース、将来増設エリアなどを総合的に評価し、施工可能かつ保守可能なレイアウトに落とし込む。
(2)配線・配管ルートの施工性検証
ケーブル曲げ半径、施工空間、ラック配置、光配線の干渉など、現場で起こり得る制約を織り込むことで、現実的かつロスの少ない施工計画を構築する。
(3)工程計画(Schedule)の協働策定
設計・施工・据付を並列化し、工期全体の最適化を図る。
特にIDCでは「設備搬入 → 電源立上げ → ICT設備導入」までの流れを統合する必要がある。
(4)Constructability Review(施工性レビュー)
設計図面に対し、施工側の視点から「施工不能項目」「干渉リスク」「安全面の課題」を上流で洗い出し、手戻りを防ぐ。
(5)VE/合理化提案の早期実施
架台省略、配線量削減、標準化部材の活用などのVEを、設計段階で実施できる点はECI方式の大きな強みである。
受変電設備・データセンター案件におけるECIの有用性
あなたの扱う領域(特高受変電設備・デジタル変電・IDC設備)では、ECI方式は高い効果を発揮する。
(1)GIS・変圧器など重量物の搬入・据付計画
GISはクレーン容量、床耐荷重、盤前スペースなどの制約が多い。
ECIにより、施工・据付観点を取り入れた現実的な配置が可能となる。
(2)大容量幹線・光配線の最適化
特にIDCでは、Main1/Main2構成の幹線や、MU・IED・BCU間の光配線量が膨大となる。ECI方式は配線ルートの最短化・干渉低減・施工工数削減に直結する。
(3)デジタル変電所(IEC 61850)との相性の良さ
MUやIED、ネットワーク機器の配置は施工性・メンテナンス性に大きく依存するため、施工側が初期段階から関与するECI方式は極めて合理的である。
(4)工期遵守のための工程最適化
IDC・特高受変電設備では、竣工時期が事業開始時期と直結する。
ECI方式は工程の並列化による工期短縮に大きく貢献する。
EPC方式との比較
ECIはよくEPC方式と混同されるが、目的と仕組みは異なる。
ECIは「協働型」、EPCは「一括請負型」と整理できる。
まとめ ― ECI設計は“実装可能性を担保する上流統合方式”である
ECI設計の核心は、机上の設計ではなく、現場で確実に実現できる設計をつくることにある。
- 施工性
- 工期
- コスト
- 保守性
- 安全性
これらを設計段階から統合的に扱うことで、プロジェクト全体の不確実性を大幅に低減できる。特に、受変電設備・デジタル変電・IDCといった複雑かつ高密度な設備では、ECI方式の価値は極めて大きい。


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