「電気の通り道を“電圧”でコントロールできるスイッチ兼アンプ」です。
1. MOSFETって何の略?
MOSFET は
Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor
(メタル・酸化膜・半導体・電界効果トランジスタ)の頭文字です。
分解するとイメージしやすくなります。
Metal(金属):ゲート電極(G)
Oxide(酸化膜):ゲートと半導体を絶縁している超薄い絶縁膜(SiO₂など)
Semiconductor(半導体):電流の通り道となる部分(チャネル)
Field Effect(電界効果):ゲートにかけた電圧による“電界”で電流を制御する仕組み
つまり「絶縁されたゲートに電圧をかけることで、半導体内部の電流の流れ具合を操る素子」です。
2. 三端子の基本構造
MOSFETの端子は基本3つ(+ケースなどでボディが絡む場合あり)。
G:Gate(ゲート)
→「スイッチのボタン」。電圧をかけるだけでほとんど電流は流れない(理想的には)。
D:Drain(ドレイン)
→「電流の出口側」※回路図的には上側に描かれることが多い。
S:Source(ソース)
→「電流の入口側」。
イメージとしては、
「ソースとドレインの間に電流を流すか止めるかを、ゲート電圧で決めるバルブ」
BJT(バイポーラトランジスタ)が「電流で電流を制御する」のに対し、
MOSFETは「電圧で電流を制御する」素子です。
3. NchとPch、エンハンスとディプレッション
3-1. チャネルの種類
NチャネルMOSFET(Nch)
電子(マイナス)が主役
オンさせるには「ゲート電圧をプラス側」に振る
低オン抵抗・高速・パワー用途の主役
PチャネルMOSFET(Pch)
正孔(プラス)が主役
オンさせるには「ゲート電圧をマイナス側」に振る(ソース基準)
上側のハイサイドスイッチでよく使われるが、Nchより抵抗高め
現場感としては、
「とりあえず電源スイッチングやFET出力は Nch が本命。Pchは“配線を楽にしたいときの道具”」
くらいの立ち位置で覚えておくと整理しやすいです。
3-2. 動作モード
エンハンスメント型(通常オフ)
ゲート電圧を加えるとチャネルが“生成されて”電流が流れる
電源オフでちゃんと切れるので、パワー回路の主流
ディプレッション型(通常オン)
何もしないと通電していて、ゲートで「絞る」
特殊用途で使われることが多く、一般的な解説や入門書ではあまり登場しない
多くの人が仕事や hobbyで触るのは
「Nチャネル・エンハンスメント型MOSFET」
と思っておいてほぼ問題ありません。
4. どうやってオン・オフしているのか(ざっくり物理)
MOSFETのキモは「ゲートが絶縁されていること」です。
ゲートとチャネルの間には酸化膜(絶縁体)がある
ここに電圧をかけると、酸化膜を挟んで“電界”が発生
その電界が半導体内部のキャリア(電子や正孔)を引き寄せたり、追い払ったりする
その結果、ソース〜ドレインの間に「電流の通り道(チャネル)」ができたり消えたりする
重要なのは、
ゲートは基本的に「ほとんど電流が流れない」
だから「高い入力インピーダンス」= ちょっとした信号でもパワー回路を制御できる
という点。
PLC出力、マイコン、SoC などの弱い信号から大きな電流をさばけるのは、この特性あってこそです。
5. MOSFETの“おいしいところ”
ブログらしく、実務目線でメリットを整理しておきます。
5-1. 高速スイッチング
ゲートは容量的負荷なので、「充電・放電が終われば即オン/オフ」できる
DC-DCコンバータ、スイッチング電源、インバータなどで大活躍
5-2. 低オン抵抗(Rds(on))
オン状態の抵抗が非常に低くできる
→ 発熱が少ない、エネルギーロスが少ない
大電流スイッチとしてリレー代替にも使える
5-3. 電圧駆動で扱いやすい
BJTのようにベース電流を細かく考えなくていい
制御側がシンプル、マイコン直駆動などに向く
絶縁ゲートのため入力側と出力側の干渉が少ない
5-4. 小型・高耐圧・高電流対応
パワーMOSFETは数十V〜数百Vクラスまで豊富
モータドライブ、電源装置、車載ECU、FA機器、サーボ、太陽光パワコンなどあらゆる所に刺さっている
6. どこで使われているのか(イメージしやすい用途)
あなたが日常的に触れている電気機器の多くは、静かにMOSFETにお世話になっています。
スイッチング電源(ACアダプタ、PC電源、サーボ電源)
DC-DCコンバータ(5V→3.3V、バッテリ駆動機器)
インバータ(モータ制御、空調、エレベータ、産業機械)
LEDドライバ回路
自動車( ECU、電動パワステ、EV/HEVのバッテリ・インバータ)
マイコンやPLCの出力段(FET出力ユニット 等)
「メカリレーを電子化したい」「省エネしたい」「高速にON/OFFしたい」
→ たいてい行き着く先が MOSFET です。
7. 実務者目線で押さえておきたい注意点
ゲートはデリケートです。
絶縁膜は薄く、高電圧の静電気で簡単に壊れる
取り扱い時はESD対策必須
ゲートしきい値電圧(Vth)に惑わされない
データシートの Vth は「ちょっとだけ電流が流れ始める電圧」
実用的なオン抵抗を得るには、もっと高いゲート電圧が必要(例:ロジックレベルFETでも 4〜10V側の特性要チェック)
ボディダイオードの存在
MOSFET内部には順方向に導通するダイオードがある(NchならS→D方向)
フリーホイールパスとして便利な一方、逆流経路にもなりうるので回路設計時は意識必須
スイッチング損失
オン抵抗だけでなく、立ち上がり/立ち下がり時間の損失も無視できない
ゲート抵抗、ドライバIC、スナバ回路などで最適化が必要
こうした「良いけど、ちゃんと扱わないといじわるしてくるポイント」も含めて理解しておくと、ただの部品記号から“一緒に仕事をする相棒”に変わります。
8. 初心者へのまとめ
MOSFETを学び始めるとき、多くの人が
記号がややこしい
Nch / Pchで頭がこんがらがる
Vgs とか Vth とか専門用語が多い
と苦手意識を持ちがちです。
しかし、本質は驚くほどシンプルです。
「ゲートにかけた電圧で、ソース〜ドレインの電流を流すか止めるか決める“電圧制御スイッチ”」
これさえ押さえておけば、
あとは用途に応じて 「耐圧」「電流」「Rds(on)」「ゲート電圧」「パッケージ」を選んでいくだけです。
リレーでオンオフしていた世界を、静かに・速く・高効率に切り替えてくれるのがMOSFET。
スイッチング電源、インバータ、モータ制御、産業機械、EV、あらゆる“今どきの電気”を支えている縁の下の力持ちです。



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