工場設備やFAシステムでは、PLCは機器制御の中心として長年稼働し続けることが多く、10年、場合によっては20年以上同じシリーズを使い続けるケースも珍しくありません。しかし、生産数の増加や設備改造、安全規格の変更、保守部品の確保などを理由としてPLC更新(リプレース)が必要になる場面は必ず訪れます。
ところが、「新しいPLCに置き換えるだけだから簡単」という認識は大きな落とし穴で、実際には従来正常に動いていたロジックやハード構成が、更新後に思わぬ不具合を招くことがあります。本記事では、PLC更新時に特に注意すべきポイントについて、現場経験から見える実例を踏まえて整理していきます。
スキャンタイムが速くなることの「副作用」
最近のPLCはCPU処理性能が高く、単純に置き換えるだけでスキャンタイムが大幅に短縮することがあります。一見すると良いことのように思えますが、これが意外なトラブルの原因になります。
● 上位PCとのハンドシェイクが崩れる
PLCと上位システム(PC、SCADA、MESなど)でデータ受け渡しを行う場合、一定サイクルを前提としたハンドシェイクが暗黙的に成立しています。
- スキャンが早くなりすぎると
- 上位側がデータ処理に追いつかない
- タイミングがずれACKが返らない
- 次のデータ要求が出てしまう
など、通信プロトコルが理論上成立していても実運用で破綻するケースがあります。
センサONから停止位置がずれる
製造ラインでよくある事例が、コンベヤ設備です。
以前は
センサON → PLCが停止命令 → モータ停止
という流れに**「数msの遅れ」が常に存在**しており、その遅れを前提に停止位置調整が行われていました。
ところが最新PLCでは数十倍速く処理される場合もあり、
- 停止位置が変わる
- ワーク位置がズレる
- 精度が出ない
など、むしろ性能向上が逆に「精度低下」を招くプロセスが存在します。
既存設備は、わずかな遅れを前提として成熟した制御であることを理解しなければなりません。
“変換ツールだけでは”正常動作しないことがある
メーカーは旧PLCプログラムを新PLC向けに自動変換する機能を提供している場合がありますが、以下の理由から必ずしも安全ではありません。
- 古い命令が削除されている
- 処理の優先順位が変わっている
- スキャン方式が改訂されている
- タイマー動作が微妙に異なる
- ラッチ保持や割込み処理の仕様が変わっている
結果として、自動変換だけでは制御品質を担保できない可能性があります。
ハードリレータイプのモジュール消滅と盤改造の可能性
古いPLCでは、出力モジュールが
- リレーカード(接点出力)
- 大出力タイプ
- 大電流接点
など、ハードウェア側で吸収してくれていた設計が多く見られました。
しかし最近のPLCは省スペース化の影響で
- 半導体出力が中心
- リレー出力が小型化
- 定格が低い
といった仕様になっているため、今までハード側で吸収できていた部分を外部リレーで追加しなければならない場合があります。
結果的に、
- 制御盤改造
- 追加リレー設置
- DINレール増設
- 結線追加
など、想定以上の工事費や停止期間が発生する可能性があります。
ここを見落とすと大幅なコストアップとなる可能性があるため、注意が必要です。
巨大設備は「連動試験」が膨大になる
コンベヤラインや生産セルが単体で成立している工場設備とは異なり、巨大生産施設では複数のPLCが相互連動して制御することがあります。
PLC更新は単体完成ですまないことが多く、
- 順序制御
- インターロック
- 相互シーケンス
- セーフティ回路
- 設備全体起動手順
これらの総合検証を行う必要があるため、更新工数が予想以上に膨らむケースが少なくありません。
特に24時間設備では停止タイミングが限られるため、短時間で安全かつ確実に切り替えるための設計・試験手順が不可欠です。
「更新は簡単」という思い込みこそ危険
PLC更新は単なる置き換え作業ではなく、
- 制御思想
- スキャン方式
- ハード仕様
- 上位連携
- 操作手順
が複合的に絡み合うプロジェクトです。
つまり、「性能向上が必ずしも安定性向上をもたらすわけではない」という点を常に意識し、必ず
- 事前検証
- シミュレーション
- 部分テスト
- 連動テスト
- 実運転検証
を計画的に実施しなければなりません。
スキャンタイムの記事は過去に書いてありますのでよければどうぞ。
ハードリレーが絡んだ時の挙動にも触れているので勉強になると思います。




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