〜デジタル変電時代における役割の本質を整理する〜
デジタル変電やIEC 61850が普及してくると、「SAS」と「SCADA」という言葉が頻繁に登場します。
しかし実務の現場でも、この2つの違いが曖昧なまま使われているケースは少なくありません。
結論から言えば、この2つは目的と階層が異なるシステムです。
SAS(Substation Automation System):変電所“内部”の制御・保護・監視を担うシステム
SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition):複数設備を“遠方から統括”する監視制御システム
この違いを理解することは、特に外資系データセンターやデジタル変電設計において非常に重要です。
SASとは何か(変電所の頭脳)
SASは、変電所の中で完結する自動化システムです。
いわば「現地の司令塔」であり、設備のリアルタイム制御と保護に深く関わります。
主な役割
- 遮断器・断路器の操作(Bay Control)
- 保護継電器との連携(トリップ・インターロック)
- 状態監視(電圧・電流・温度・アラーム)
- IED間通信(GOOSE / MMS)
- インターロック制御(誤操作防止)
特徴
- ミリ秒オーダーの高速処理が必要
- IEC 61850による通信が主流
- IED(保護リレー・BCU)が主体
- 変電所単位で閉じたシステム
つまりSASは、「電気設備を安全に動かすためのリアルタイム制御システム」です。
SASについては以下の記事で詳しく書いております。SAS導入のメリットにも触れていますので良ければどうぞ。
SCADAとは何か(遠方監視の司令塔)
一方SCADAは、複数の変電所や設備を遠隔から監視・制御するためのシステムです。
主な役割
- 遠方からの監視(状態・警報の把握)
- 遠方操作(開閉指令)
- データ収集・蓄積
- トレンド分析・履歴管理
- 上位システム(EMS/DMS)との連携
特徴
- 秒〜分オーダーの処理
- 広域ネットワーク(WAN)を使用
- RTUやGatewayを介してデータ取得
- 複数拠点を一元管理
SCADAは、「全体を俯瞰して管理するための監視システム」です。
SASとSCADAの決定的な違い
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
① システムの階層が違う
SAS:現地(変電所内)
SCADA:遠方(中央監視室)
つまり、SASは“現場”、SCADAは“本部”という関係です。
② 役割の違い(制御 vs 監視)
SAS:制御・保護が主役
SCADA:監視・管理が主役
SASは「動かす」、SCADAは「見る」が基本です。
③ 応答速度の違い
SAS:ミリ秒レベル(保護動作)
SCADA:秒〜分レベル(監視・操作)
例えば、
過電流で遮断器を開く → SASの仕事
その結果を画面に表示 → SCADAの仕事
④ システム構成の違い
SAS:IED中心(F60、T60、C30など)
SCADA:サーバ・HMI・RTU中心
SASは“電気設備寄り”、SCADAは“IT寄り”とも言えます。
⑤ 通信方式の違い
SAS:IEC 61850(GOOSE / MMS)
SCADA:IEC 60870-5-104、DNP3など
特にデジタル変電では、SASはIEC 61850が前提になります。
実務での関係性(ここが重要)
現場では、SASとSCADAは独立しているわけではなく、密接に連携しています。
典型的な構成は以下です:
- IED(保護・BCU) → SAS
- SAS → Gateway / RTU
- RTU → SCADA
つまり、
SASが現地データを作り、SCADAがそれを利用するという関係です。
データセンター案件での重要ポイント
外資系データセンターでは、この違いがより明確になります。
よくある特徴
- SASは完全にIEC 61850ベース
- SCADAはBMS/EPMSと統合されることが多い
- GOOSEでトリップ、SCADAは監視のみ
- トリップは“ハードワイヤ優先”の思想も残る
つまり、
「止めるのはSAS、見せるのがSCADA」
という思想が徹底されています。
よくある誤解
「SCADAが制御している」→ 実際の制御はSAS(IED)側が主体です
「SAS=SCADAの一部」→ 正しくは階層が違う別システム
「どちらも監視システム」→ SASは“制御システム”です
まとめ
SASとSCADAの違いを一言で表すと、
SAS:現場で設備を動かすシステム
SCADA:遠方で全体を監視するシステム
そしてこの2つは対立関係ではなく、
「SASが現場を支え、SCADAが全体を見渡す」
という補完関係にあります。
最後に(実務者視点)
設計協力や仕様検討の段階でこの違いを理解しているかどうかで、以下が大きく変わります。
- シグナルリストの切り方
- IEDとRTUの役割分担
- トリップ系の設計思想(GOOSE vs ハード)
- スコープの整理(誰がどこまでやるか)
特に外資系データセンターでは、
「SASで完結するべきことをSCADAに持ち込まない」
という設計思想が強いため、この理解は必須と言えます。



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