Siemens(シーメンス)社は、ドイツ・ミュンヘンを本拠とする欧州最大規模の総合電機メーカーであり、エネルギー、産業オートメーション、モビリティ、ヘルスケアなど多岐にわたる産業分野において世界的なプレゼンスを有する企業である。特に送配電分野では、一次機器から保護制御装置、SCADA、さらにはデジタルサブステーションを構成する各種ソフトウェアまで包括的なソリューションを提供しており、電力インフラ領域において「総合的なシステムインテグレーター」としての性格が極めて強い点が特徴である。
同社は1847年の創業以降、通信・電力・産業制御といった社会インフラを支える技術を基盤に成長してきた。今日においても、ガス絶縁開閉装置(GIS)や遮断器といった一次設備、SIPROTECシリーズに代表される保護継電器、そしてDIGSIやSICAMなどのエンジニアリングツール・監視系プラットフォームを自社で揃えるなど、電力系統分野における完全なバリューチェーンを構築している。この包括性が、Siemens社を世界の送変電設備市場において特異かつ強固なブランドとして位置づけている所以である。
IEC 61850分野におけるSiemens社の技術的立ち位置
デジタルサブステーションの黎明期から参画した“基準形成側”の企業
Siemensは、IEC 61850の国際標準化が検討された初期段階から強く関わってきた企業群の一つであり、標準の策定における技術的議論に深く貢献した歴史を持つ。したがって同社には、IEC 61850の理念を最も深く理解したメーカーの一つという評価が業界内に存在する。
特にSiemensは、IEC 61850が目指した“オブジェクト指向によるモデル化”をその保護リレー・SCADA・BCU設計思想に早期から反映してきた。これにより、データモデル、プロセスバス、GOOSE通信、Sampled Values(SV)といった要素を、単なる通信機能ではなく「システム全体の相互運用性を担保するアーキテクチャ」として捉えている点が特徴的である。
SIPROTECシリーズとSICAMシリーズによる幅広いラインナップ
SiemensのIEC 61850対応製品の中核を成すのが「SIPROTEC」シリーズである。このシリーズは保護・制御・計測を担うIED群であり、世界的に広く普及している。特に最新のSIPROTEC 5はモジュール式構造を採用し、多様な保護機能を柔軟に構成できることから、変電所の規模・系統構成・保護方式に合わせて最適化しやすい。
同時に、サブステーションオートメーションシステムである「SICAM」シリーズとの親和性が高く、サブステーション全体を同社製品で統一した場合のシステム整合性は極めて高い。これは、プロトコルやデータモデルの統一性を重視するIEC 61850の設計思想と非常に相性が良い。
GOOSE・SV分野での“安定性と可搬性”の高さ
GOOSEやSampled Values(SV)といったプロセスバス技術は、IEC 61850の中でも特に高い技術力を要する領域である。Siemensの製品は、これら高速通信機能の信頼性や遅延特性に関して高い評価を受けており、大規模サブステーションや超高圧設備で採用されるケースが多い。
またGOOSE交換時のトポロジ管理や診断機能が豊富であり、パケットドロップや誤配信のリスクを低減するためのロジックを標準で備えている点は、重電系メーカーとしての経験が反映されているといえる。
他社に対するポジション:SEL・GE・Schneiderとの比較
IEC 61850のグローバル市場において大きな存在感を持つのは、主に以下の4社である。
- Siemens(ドイツ)
- SEL(米国)
- GE(米国)
- Schneider Electric(フランス)
この中でSiemensの立ち位置は次のように整理できる。
◆ 「総合インフラメーカーとしてのIEC 61850」
・一次機器から保護継電器、SCADA、エンジニアリングツールまでを自社で揃えられる
・IEC 61850に準拠した総合的サブステーションを単独で構築可能
→ この“システム一貫性”は他社には真似しづらい強み
◆ 「GOOSE・SVを含めた技術の実装力が高い」
SELが“高速性と堅牢性”、GEが“柔軟性と機能性”を強みとするのに対し、Siemensは堅実な安定性と全体設計の整合性が特長である。
◆ 「欧州を中心に世界広範囲で高いシェア」
欧州・中東・アジアにおけるシェアが高く、IEC 61850の導入が進む国では“標準的な選択肢”として位置づけられている。
IEC 61850の将来展開におけるリーダーシップ
Siemensは近年、IEC 61850の高度化に向けて以下の領域に力を入れている。
サイバーセキュリティ機能の強化(IEC 62351対応)
エッジコンピューティングとの連携
デジタルツインによる変電所のバーチャルエンジニアリング
クラウド連携によるライフサイクル管理
特に「SIPROTEC DigitalTwin」は、保護継電器設定や試験を仮想環境で行えるため、変電所のテスト環境のDXを強力に後押しする。
これらの取り組みは、IEC 61850が今後指向する「全設備のデジタル化」という方向性と一致しており、Siemensは標準規格の未来を見据えた技術開発を進める“規格牽引型”のメーカーといえる。
まとめ:Siemens社はIEC 61850領域における“総合力トップ級”のメーカーである
Siemens社は、
IEC 61850標準化の初期段階から参画
保護継電器・BCU・SCADA・一次機器まで自社で完結
GOOSE・SVの安定性と診断機能が充実
システムインテグレーターとしての総合力が高い
欧州を中心としたグローバル市場で高い評価
といった要素を満たしていることから、IEC 61850市場における存在感は非常に大きい。特に、大規模変電所や高度なデジタルサブステーションを構築する際には、Siemensの一貫した製品体系が高い信頼性と運用効率をもたらす。
つまりSiemensは、
「IEC 61850が目指すビジョンを、製品体系とアーキテクチャの両輪で実装できる企業」
と総括できる立ち位置にある。


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